やがて、遠方に浮かぶ缶ビール型の気球が目に入って、三人の足は自ずとそこに引き寄せられる。陽光の下、燃え盛る緑の枝葉がアスファルトに複雑な影を落としているその一画は、施設案内のパンフレットには「グリーンスクエア」と書かれていたが、今はビールメーカーの六角形の大型テントに敷地をそっくり奪われた格好だ。
前庭にもテント内と同じ白い塩ビ製の椅子と円卓が並べられていて、ローラースケートを履いたウエイトレスたちが、陽光に銀色のコスチュームとトレイを光らせながらテーブルの間を滑り抜けている。
三人がテーブルに着くと、すぐにオーダーシートを手にした一人が走ってきて、ローラーの乾いた回転音を止める。間近で見ると、宇宙服を思わせる彼女の胸元には文庫本を二つ並べたくらいの大きさの薄型の液晶板が組み込まれていて、このビールメーカーの最新TVCMが音声付きでリピートされている。七瀬も広告雑誌で目にしたことがあるウェアラブルビジョンだった。
「おい、やっぱり来てるぜ、関東パブリシティのやつら」
三谷の視線を追った七瀬にはすぐにその男たちの見当がついた。人混みの中でも、同業者特有の匂いが感じられるのだ。彼らが七瀬を見ても同じ臭気を嗅ぎとるのかも知れないが。
「あの黒の三ツボタン、女物のスーツみたいな細みのものを着こんだ男。あいつがこっちの支社の営業だよ」
三谷があごでしゃくったその男の両隣には、まるで役割分担でもしたように短かめの口髭とあご髭を交互に生やした男が立っていたが、二人とも七瀬は面識が無かった。
「きっと、東京本社のクリエイティブの連中が、フェアの視察に同行しているんだろうよ」
舌打ちする三谷の目つきが険しくなる。
地方都市では一、二を争う大きなイベント。それを昨年に続き独占受注した関東パブリシティは、固まりだした行政のパイプを伝って、県下のJAを統括する経済連ともつながりを持ちはじめたという噂だった。地方の仕事でも旨みのあるものは東京本社の精鋭がからんでくる。三谷が警戒するのも無理はないと納得してみたところで、この初日の盛況からしてすでに固いフェアの成功を七瀬たちは傍観するほかない。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
14年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。