遠いデザイン12-9
2001年 春
「もしかして、川奈さん、七瀬さんに気があったりして」
七瀬が一番恐れていたセリフを美紀はあっさりと口にした。七瀬はほとんど反射的にこう言い放った。
「そんなこと、ありえないよ。だいたい、トシだって二十以上離れているし、川奈さんから見れば、オレなんか、そこらへんに転がってるただのオヤジの一人だよ」
「わからないわよ、トシ、全然気にしない子だっているし。七瀬さんって、若く見えるし、生活感ないから、あの子、独身だと勘違いしてるんじゃないの?」
強いドアの開閉音を残して、突然、三谷が映像室から出ていってしまった。七瀬は同じようにきょとんとしている美紀と目が合う。
オレだけが持ち上げられる状況が続いていることに我慢できなくなったのだろう。七瀬はそう察して無理に咳払いをする。
美紀と二人きりになってしまうと、さっきまで盛り上がっていた場の雰囲気は穴の開いた風船みたいに一気に萎んでしまい、七瀬は何か難しい顔をしている美紀に、もうかける言葉も見つからない。ちょうどミキシングルームから出てきたオペレーターが彼女に話しかけたのを潮に、七瀬は挨拶もそこそこに映像室を出た。
七瀬は、自分が目にしてきた亮子が、今、三谷が話したようにはとても思えなかった。どうせ課長の言うことだ。話半分だと思いながらも、ついつい中年男の頬が緩んでくる。
亮子は亮子で、JAとは風土が違うオレみたいな広告畑の人間と仕事をするのが楽しかったのかもしれない。彼女が好感を抱いてもおかしくないくらい、このブランド化の仕事に身を入れてきたつもりではあった。
コンビニとドラッグストアが幅を利かせる表通りの商店街に出ると、暇を持て余したように軒先に出て歩行者を観察する店主や、厚化粧のホステス候補に目を走らすキャバクラの男性店員や、ファーストフードを貪りながら歩く高校生たちの姿が目につくが、これまで目障りだったそんな光景が今日は微笑ましくも映る。
軽い足取りで事務所に戻る途中で、七瀬は軽い疼きを感じた。それは彼が不思議な懐かしさを覚えるほど、今では遠い異形の疼きだった。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
13年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。