遠いデザイン12-7
2001年 春
たった一行のコピー、わざわざライターに頼むまでもないお決まりのフレーズ。後は県中部のディーラー名がクレジットで流れてビデオはフィニッシュとなる。生あくびをかみころした美紀が食べかけのパンに再び手を伸ばす。
試写一回で、美紀がミキシングルームにいるオペレーターにOKサインを送る。二人が同時に椅子から腰を浮かしかけた時、外の通路の方から三谷とわかる鼻歌が近づいてきて、ドアの覗き窓から細目が覗いた。
「あっ、七瀬ちゃんじゃない。なに、今日は? なんの編集? あっ、そうそう、ずいぶん、長丁場になっちゃったけど、おかげさんで、JAの方、午前中に片づいたよ」
ドアを開けるなり三谷はそうまくしたてる。一年間忠実に働いてくれた売上功労者を前に、その声は空々しいほどに明るい。
「ずいぶんじゃないですか、課長。途中から、ぜんぶ、こっちに投げてよこすなんて」
「いや、オレもね、本部の方には、ちょこちょこ顔出してたんだけど、ほら、こっちも、レギュラーもんの会報誌や、支部単位のチラシなんかも抱えてるだろう。とても手が回んなくてさ」
メディア通信社に入社以来、三谷はJA一筋の営業を続けてきた。協同組合という前近代的な組織には彼みたいな泥臭い営業が受けるのか、年々、各部署にコネクションを広げ、営業のパイプを太くしてきた。三谷が入社間もない頃、同じように新人だった職員の中には、今では役員にまで登りつめた者もいて、そんな要人への個人的な付け届けを毎年欠かさないと聞いた。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
13年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。