遠いデザイン 11-1
美紀からの電話は、マンションのプレゼンに負けたことを知らせるものだった。言いにくそうにプレゼン費のことを切り出す声が、しかし、今の七瀬には遠く響いた。
先日のJAでの不可解な出来事が、いまだに彼の気持ちを沈ませていた。懇意だったはずの職員がみせた拒絶、敵意に満ちた男の職員たちの視線、片方だけもげて転がっていたサイドミラー、なぜ、あんなことが続けざまにおこったのだろう?
美紀の声はいつしか消えていた。七瀬は窮屈なジーパンのズボンのポケットに無理やりケイタイを押し込んで、またとぼとぼと歩き出した。
彼は結婚情報誌のオフィスビルに向かっていた。スタートの春のご多分にもれず、情報誌の紙面も一新されることになり、外注~情報誌側はパートナーと呼んでいたが~向けに新しい制作マニュアルの説明会が組まれたのだ。
冬の撮影を最後に、編集部からは何の音沙汰もなかったが、あの県東部の温泉ホテルの広告が掲載された三月号のことは七瀬も気にかけていた。読者の反応がよく、婚礼客増加に結びついたのなら、次回出稿の際にホテル側が七瀬を指名してくることもありえるからだ。しかし元来、持ち合わせていない営業意欲を奮い起こそうとしても、すぐに萎えてしまうのは明らかだ。
沈み込んだ七瀬の気持ちとは無関係に、街には春特有の高揚感に満ちていた。暖房が止められた電車からはハカマ姿の女子学生たちが吐き出され、コンコースのあちこちに甲高い笑い声を響かせていた。真新しいスーツに身を包んだ一団が、社会人の仮面をぎこちなく付けて行き過ぎる。駅前では選挙を前にした立候補者の街頭演説が、気まぐれに振られた手に向かって感謝の連呼へと変わる。芽吹きはじめた街路樹が振りまく性の目覚めのような匂いは、生暖かい春の風に乗って薄着の女たちを街路に弾ませていく。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
13年前の2001年が舞台。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。