遠いデザイン 10-1
マンションのプレゼン、突発的なディラーのチラシの修正と、一種、変則的な忙しさのうちに週が明けて、七瀬は亮子に預けておいた色校正を引き取りにJAへ車を走らせていた。
週末に気分転換をかねて洗車した車は久々にシルバーメタリックの光沢を取り戻し、一年以上拘束されてきたブランド化プロジェクトから解放される日が近いことを祝福するかのように輝いている。
先行していた商品の価格表や注文書、宅配用のパッケージ類はすでに納品済みで、今抱えている印刷物もすでに初校が出た以上、これから大きな変更が入るとはまず考えられない。
ようやく見えてきたゴールを一気に駆け抜けぬけてしまいたい、と思う反面、七瀬はその道の先々にちらつきだした亮子の影に思わず足を止めそうになる。彼女と会う機会はもういくらも残されていないのだ。
JA手前の一級河川にかかる鉄橋が見えてき
た。土手沿いの桜並木は数日前から白くほころびはじめ、一週間もすればこのアスファルト道路にしめやかな花片が散り敷かれることだろう。山手に目を向ける
と、段状に茶畑がうねり、燃え立つような緑の厚みが、所々に立つ送風塔の白さを際だたせていた。冬の最後の発光のような陽光はいたる所に散乱し、橋上の歩
道を駆けていく子供たちのビニールバックへ鋭い反射光となったり、川面に長い光の帯を引いたりして、七瀬の目に痛かった。
やがて対岸に
小さく姿を現したJAの社屋は、そんな鮮やかすぎる陽光の下に弱々しく霞んで見えた。七瀬はその建物の中で今立ち働いているであろう亮子が、何か、けなげ
にも、はかなげな存在にも思えてきて、からだの中から沸き上がってくる微かな痛みのような感触をハンドルを握る手に伝えた。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
13年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。