前回6-2の続き
「まだ更地とはいっても、やっぱり、現場、見ておかないとね。街の雰囲気っていうか…だいたい、こんな計画書の数字ばかり眺めてたって、ピンとくるもの何もないから」
地域内の世帯調査、家計消費動向、昼夜の人口動態比較……いろいろな統計データでぶ厚く体裁が整えられた事業計画書を後部座席の七瀬に渡しながら、美紀が口を開く。そのまま隣の運転席にも目をやるが、コピーライターを七瀬にすることを美紀に押し切られた不満がまだくすぶっているのか、三谷はブレーキペダルを踏んだまま口を開こうとしない。
駅前から名店街を下って五分も走らない距離にマンションの建設現場はあったが、晩冬恒例の予算消化の工事渋滞にぶつかってしまい、フロントガラスの先に立つ交通整理員の警棒はまだ振られずじまいだ。
路肩には、年輩の交通整理員が乗り付けてきたらしい錆び付いた原付バイクが停まっていて、ハンドルには薄汚れた布バックがぶらさがっている。七瀬は、弁当の形をしたその布地の膨らみに、何か生活の祈りのようなもの感じてしまい思わず目を背ける。対向車線を走ってくる幼稚園の送迎バスが目に入り、今降ろされたばかりの園児と迎えにきた母親たちの姿が走る車の切れ間に見え隠れした。
停止中の七瀬たちの車の後方からクラクションの連鎖がはじまる。それに脅かされたわけではないだろうが、ようやく交通整理員の警防が振られて、加速した車の中で美紀は大きく伸びをする。正面に回った西日がビルの谷間から強い光を浴びせかける。三谷が舌打ちしながらサンバイザーを下ろした。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
10年ほど前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。