前作(2-3)の続き
撮影は順調に進み、午前中に予定していた二つのバンケットルームを撮り終えたところで、スタッフ全員でホテルにあるレストラン
に入った。早めの昼食をとるためだった。海が一望できるためオーシャンルームと名付けられたレストランは、壁も天井もガラス張りで温室のように温かかっ
た。席を案内するウエイトレスのネイビーブルーのコスチュームが季節の倒錯感にいっそう拍車をかける。
二つのテーブル席に分かれて座り、七瀬は小田嶋の隣りに腰を下ろしたが、モデルが目の前の席の椅子を引いている。服装こそカジュアルものに変わっていたがドレスを着る撮影をまだ残していたので、アイシャドウもリップもまだ落とされていなかった。
「生まれはどこよ?」
トラブルなく進んだ安堵のせいか小田嶋の声が明るい。少し間をおいて、モデルの女はニコリともせずに東北地方のある町の名を言った。その抑揚のない声は、椅子に置かれたマネキンが突然口を開いたようだった。
「それから、幼稚園に入る頃に、今住んでいる・・・T市に越してきたのよ」
同じ県内ではあったが、この温泉ホテルのある町とは違って、県庁所在地のT市は人口七十万人を超える都会だった。七瀬の広告事務所や小田嶋のスタジオ、県内の主だった広告会社はどこもT市にオフィスを構えていた。
「今、短大生なんだろ? どうしてモデルになんかなったわけ?」
「地元のA校に通ってたんだけど、校門の所で声かけられたのよ……あの男に」
モデルはそういって首を後ろに回した。背後のテーブルでは、今、モデルにあの男といわれたマネージャーが、林田やスタイリストたちを前に、モデルクラブの薄いカタログを出し惜しみするみたいに捲っている。短い口ひげを時折舌で湿らせつつ、自社モデルのPRに余念がない様子だ。
朝湯にでも浸かってきたのか、一様に血色のよい顔で店内に入ってくる宿泊客たちは、どこか子供じみたイントネーションでしゃべ
りあっているこの場違いなグループを敬遠するかのように離れた席の椅子を引く。バタついたスリッパの音がフローリングの床を遠回りして、やがて静まる。
続く
遠いデザインとは……中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを以前みたいに書かねくなったので、その手慰みのために。