空腹がアルコールの回りを早めたのだろうか。すでに首の辺りまで赤くした小田嶋が座椅子にもたれかかり、うつろな目をテレビ画面に向けている。すでに三缶目が空となって足元に転がっているビールが冷蔵ケースに並んでいた漁村のコンビニ。季節はずれの浮き輪が天井からぶら下がっていたその埃っぽい店内で、顔の似通った兄弟らしき子供が、小田嶋の薄い色のサングラスの奥の眼をじっと覗きこんでいた。車に戻ってから小田嶋は、きっと先生か、友達の親にでも似てたんだろうよ、とこぼしていたが、七瀬にはどこか恐れているようにも見えた。
座卓の上に置かれた小田嶋愛用のルーズリーフ。ページに挟まれた明日の撮影リストに、彼が几帳面に時間配分を書き加えてあることは七瀬には容易に察しがつく。
「ところで、七瀬ちゃん、順調かい? その……JAの方は?」
「えっ、JA? ああ、なんだ、シマさん、知ってたの? 西南がブランド化事業立ち上げたって話」
「そう、その、ブラちゃん・・・・・・さ。ちっとも、話、回ってこねえよ」
唐突にJAと聞いて七瀬は動揺する。まさか亮子のことまで知っているんじゃないだろうな? そんな猜疑心まで兆してきて取り繕うようにビールに手を伸ばす。苦い泡が口中に広がって、この仕事と入れ違いに、今度はブランド化プロジェクトでメディア通信社にこき使われる自分の姿が浮かんでくる。
若い頃に築いた仕事のコネクションも、少しずつではあったが、着実に風化していった。二十代から三十代、小田嶋に勢いのあった頃はメディア通信社からの発注も多かったことだろう。その時、同じ道を歩きながら、屈託のない笑顔を見せていた同世代の発注者たちは、ある者は横道にそれ、ある者は見知らぬ自動車に拾われ、ある者は美しい飾り棚の前に立ち止まったままになって、気づいてみると、その道を歩いているのは彼一人だったのかもしれない。それはまた、四十六歳のライターである七瀬にも当てはまることではあったが。
続く
遠いデザインとは……中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを以前みたいに書かねくなったので、その手慰みのために。