【書籍情報】
キーエンス解剖 最強企業のメカニズム
西岡杏
出版社: 日経BP (2022/12/22)
ISBN-13: 978-4296200917

【概要・コメント】
給料,株価が高い企業として有名なキーエンスに関して,OBのインタビューを中心に,その強さの秘密を明らかにしようとする書籍である。

まず,本書は文章が上手である。
様々なポイントを議論する際に,かならずOB,現役社員,取引先とのインタビュー内容を引用することで,活きた文章を綴っている。
新聞記者に科学的素養や分析力が十分あるのか懐疑的ではあるが,長い文章を飽きさせることなく読ませる技術の高さを感じさせられる一冊であった。

本書で紹介している,キーエンスの強みを要約すると,今となっては当たり前になってきている仕組みを,20年前,30年前から導入している先見の明につきる。
そして,その新しい仕組みを常に導入することを可能とする,もしくは新しい仕組みを常に取り入れることをよしとする企業文化であろう。

結局,どのような仕組みも企業の内部で根付かなければ意味がないが,キーエンスにおいては,「必要最小限の費用で,顧客に最大の新しい付加価値を提供する」という,共通の目標・価値観があるため,この目標・価値観を達成するためにやれることはすべてやるという文化が定着しているようである。

一般の企業では,企業の規模が大きくなるにあたって,このような目標・価値観を維持するのが難しくなる。
特に,創業者がカリスマ的な人物だった企業では特に創業当時の社是などが長らく残り,その意味を理解せぬ社員が増えることによって,目標・価値観の形骸化が始まる。

その意味で,キーエンスは一人のカリスマが作り上げた企業ではなく,一人のカリスマが作り上げた仕組みによって作り上げられた企業である。
人は年老いるし,死にもするが,仕組みはその価値を理解している人がいる限りは生きることも可能である。
このような仕組みによる経営こそが長期にわたってサステイナブルな企業には必要なのだろう。

この仕組みによる経営への変革こそが,DX (デジタルトランスフォーメーション)の真髄の1つであると感じている。

なお,本書の著者は文章は上手だと思うが,分析した結果得られた知見を論理的に構成する力が高いとは言いがたい。
残念ながら,本書を読み終わったあとで,結局この本を読んで読者は何を覚え,何を自らの企業経営に生かせばよいのかが明示されていないのである。

本書を増版する機会があったら,ぜひ本書の知見(結論と言ってもよいだろう)をきっちりと書いて欲しいものである。


以下,本書の中で気になった部分を列挙する。

  • P.76 ニーズカードは「世の中にあるものでは,まだこれができない」というニーズを書き込むものだ。<中略>「技術を理解している人が顧客の話すニーズをくみ取ってカードに落とし込む
  • P.92 どういう商品を開発するかを,お客さんから言われて決めているようでは,既に遅い
  • P.94 キーエンスが付加価値を高めるポイントになっているのが『意味的価値』だ<中略>カタログスペックのような横並びの「機能的価値」だけでなく,「なぜそれがいいのか」<中略>という提案の価値を分かりやすく提示できていることが強みになっている。
  • P.101 何らかのフィードバックをして,次回の行動に繋げてもらう。やりっぱなしにはしない。これは,キーエンスの基本的な行動原理と言っても過言ではない
  • P.136 出ていくお金をすごく意識して切り詰めようとする会社はたくさんある。もちろんそれも大事だが,まさに今過ごしているこの時間も大事な資本だ
  • P.138 時間チャージという概念は1990年代にはあった<中略>利益があがるゆおに会社がうまく回る仕組みを早くから整えていた
  • P.146 情報を共有する文化がキーエンスと似ているといわれる企業の一つが,リクルートだ。「ナレッジの共有はかっこいいだからみんなする」という文化があると聞く。
  • P.149 キーエンスという会社は?をついた人が得をすることをものすごく嫌う
  • P.151 360度評価は,中間管理職をその上司が評価するだけでなく,周囲の同格の社員や,部下も評価する手法のこと。
  • P.172 キーエンスの実像を見ると,「属人化を極力排除したい」という考え方が根底にある
  • P.177 理念と行動は,実体験を伴って反復してこそ定着する
  • P.229 日本のソフトウェア会社に多い受託開発では,顧客の要望通りのシステムをつくるための解決方法を探す部分に時間をかける。それによりも,そもそものニーズを掘り起こす部分を重視しようと考えた
  • P.233 ジャストシステムの変革に取り組んだ関灘氏が繰り返し社員に訴えてきたのが,自ら起案して改善するという風土づくりだ。
  • P.243 <キーエンスについて>「普通じゃない」と感じる部分があった。<中略>一言でいえば,手を抜かないのだ。そして全員がそれをやる。

【書籍情報】
MBAクラスの「営業」の教科書
北澤孝太郎
出版社: 徳間書店 (2022/3/18)
ISBN-13: 978-4198654382

【概要・コメント】
とある先生からおすすめ頂いて購入した書籍である。
その先生が本書の著者とお知り合いとのことである。

さて,営業というと,泥臭いイメージがあるが,本書はその泥臭さの上にある,人生論を語っている書籍である。

本書を読んで思ったこと,「著者は人が好きなんだろうな」と。
特に最後の第7章の「モチベーションとコミュニケーション」を読んで,著者が人との繋がりをいかに大切にし,そしてその繋がりから何かを生み出そうとしている姿勢を強く感じた。

一方,本書の表紙でも科学的な手法であることを強調しているが,自然科学を専門とする自分としては,普遍的な事実を取り扱っているかは,やや疑問が残る。

むしろ,本書は会社員として一定以上の成功を収めた著者の「思い」を込めた書籍であり,著者の後輩となったような気分で,その成功談とコツを勉強させてもらうという気分で読むのが適した書籍であるように思う。

以下,本書の中で気になった記述を抜粋する。

P.50 セールスは,買い手の欲しいものを一番早く目の前に持ってくる能力がもっとも必要なのです。

P.53 賃貸住宅は,<中略>一件目に希望の物件を紹介されることはまずありません。

P.53 販売の極意は,<中略>その人が欲しいものを予測し,在庫などのこちらの制限内で,もっとも早く相手の決定を引き出すことにあります。

P.81 外部統合(知の探索)は,組織外にあるものを内部に組み込んだり,そのいいところを真似したりする行為です。<中略>内部統制(知の深化)は,組織内にある知識や知恵を更に深めるためだけでなく,組織そのものを鍛えて強くしたり,意思疎通を図ったり,モチベーションを上げる<中略>行為を指します。

P.91 近江商人の商売十訓

P.134 よいビジネスをするとか,人を率いるリーダーになるということは,<中略>人を共感させる言葉を持って影響を与えていくということです

P.140 次々に現れる問題の解決だけに埋没している人は,いつまでたっても,自分を,また会社を良くしていく機会に恵まれない。

P.212 上司の立場から部下の知識を増やしてやろうと思ったら<中略>,部下にいろいろなことを経験させる,やってみさせる共同化(個人の中に良質の暗黙知を増やすこと)と連結化(適切なアドバイスで形式知をバージョンアップさせる)<が重要なプロセスである。>

P.238 個人のモチベーションが多様化している中での組織のモチベーション設計は,これからの時代,リーダ尾の立派な仕事である

P.242 昔から「知識は年上から学び,感覚は年下から学ぶ」という言葉がある

P.260 <上司や顧客と>話を始める前に,今日,話をさせてもらうのは○○の件でよかったですねと課題を揃えにいく必要があります。

P.266 社内会議も,<中略>みんなが理解しみんなで役割を分担しながら同時に行動するという時代に変化しています。

 

 

【書籍情報】
DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略
小野塚征志
出版社: インプレス (2022/5/19)
ISBN-13: 978-4295013914

【概要・コメント】
DX(デジタルトランスメーション)をうまく果たし,ビジネスの根幹の変革を実現したビジネス80例を,その根幹となる価値や変革のアプローチ別にカテゴライズした書籍である。

ある程度成功にいたったスタートアップの事例や大手企業が新たに築こうとしているプラットフォームの概略を知るためにはよい本だと思う。

このように(成功)事例をカテゴライズした書籍を読んで思うことは,カテゴライズは世の中のトレンドを理解したり,十分条件を理解するのには役に立つ。
しかし,自らがDXを起こし,インダストリアルトランスフォーメーションと呼ぶようなビジネス変革を起こそうとする人の場合には,その必要な条件や,先進的な変革への発想にたどり着くためのアプローチが知りたいだろうが,本書にはそのようなことは書かれていない。

カテゴライズは過去に起きたことを理解しやすい形に情報を圧縮することには役に立つのだが,誰も取り組んでいない未開の地を見つけるためには,カテゴライズの先にあるものを見つける技術が必要だからだ。

もちろん,本書に書かれているサービスを利用することも立派なDXの取り組みと言えるので,ぜひ導入可能なサービスがあれば,活用するのがよいだろう。

しかし,さらに一歩先の未来を思い描きたいひとは,創造的デザイン思考を用いて,本書に書かれているカテゴリの先にあるのもを自ら見つけ出す必要がある。

その意味では,本書の6章の章題が「DXの実現方法」とあるが,やや誇張されている題だと思う。
「DXの起点となるサービスを組織の中で使い始める方法」くらいの内容が実際のところである。

トランスフォーメーションの真髄をたかだか80の事例から学べるとは思ってはいけない。
ただし,たくさん事例を知っていることはよいことである。
ゼロからイチを生み出すためには,たくさんの使える手札(知識)を持っていることが必要なのだから。

以下,本書の中から印象深かった記述を抜粋する。

  • P.26 すばらしい製品/技術があって,その存在を知らしめていることができていて,QCD (Quality / Cost / Delivery)を誰かが保証してくれるなら,営業活動は不要になります。
  • P.36 DX時代にあっては,ユーザだけではなく,第三者からもリターンを得られる可能性を探求することが重要
  • P.40 Amazonは,創業後,利益を計上できるようになるまで7年を要しました。
  • P.47 あらゆる調達先/納品先との自由な取引を可能とする「サプライウェブ」への進化は不可避と見るべき
  • P.78 今までの「場」には,「不便と認識されていなかった不便」が多数あります。<中略>潜在的なペインポイントを「デジタルならではの価値」の創出により解決できる可能性を探求することも重要です。
  • P.95 Wiseは,世界中に自社の銀行口座を開設し,資金をプールすることでこのペインポイント<外国への送金は,時間や手数料がかかるということ>を解決しました。
  • P.97 RFルーカスの<中略>レーダーサーチを利用して商品のある場所まで作業員を誘導することも可能になる。 <※棚にもRFIDを付けているため可能となる技術>
  • P.103 人件費の削減効果を訴求ポイントとすると,セルフレジと競合してしまいます。レジレスならではの価値は,むしろ新たなショッピングスタイルの創造にあるのです。
  • P.158 株式会社souco 倉庫の空きスペースを利用することで荷主企業の保管料を低減するオンデマンドウェアハウジング
  • P.167 Rentio メーカからすれば「買わなかった人の生の声」を聞ける機会はほとんどなく,マーケティングの高度化に寄与する貴重なデータになります。
  • P.173 YOUR BRAND 広告費を払って自分たちが売りたい服を著名人に着てもらうのではなく,インフルエンサーが着たい服を作るという発想の転換によってDXを成し遂げた
  • P.183 「需要を拡大するビジネス」の多くは,検索性を高めることで利用者のニーズに即応することを思考しています。一方,airClosetはプロのスタイリストがセレクトすることで,新しいファッションとの「出会い」という独自の価値を提供しています。
  • P.205 ゲームチェンジが起きようとしている事業環境下にあっては,「リスクを取らないこと自体がリスク」になります。未来のプラットフォーマの地位を得るためには,あえてリスクのあるビジネスに挑戦することも必要なのです。
  • P.250 DXの推進は,目的ではなく,目指す姿を実現するための手段なのです。<中略>最初に考えるべきは,DXを進めた結果として「誰に,どのような価値を,どうやって提供する会社を目指すのか」ということです。
  • P.254 業務が変わることに対して現場の抵抗を受けることも予想されます。<中略>そのため,いち早く「成功しつつあること」を社内外に発信することが大事になります。
  • P.264 アナログにはないデジタルの特長とは,再現性の高さと正確性の高さ<再利用性の高さだと思う>