不器用な恋人 ◇4 | 有限実践組-skipbeat-

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■ 不器用な恋人 ◇4 ■





 だるまやに居たキョーコを呼び出した社が、車内で待機していた蓮と一緒に二人を蓮のマンションに送り届けた夜のこと。


 当然キョーコはまだ怒っていて、対して蓮はとても分かりやすく落ちていた。


 ソファに座ったキョーコの前で、ラグに腰を落ち着けた蓮は

 足こそ崩して座っていたものの、その佇まいはまるで母親に怒られる直前の息子のようなそれだった。



「 キョーコ。まだ怒ってる・・・よな? 」


「 怒ってます 」


「 そうだよな。メールの返信を見てそう思った。だからこそ話さなきゃと思ったんだ 」


「 そうですか 」


「 それで、何に怒っているのか、聞いていい? 」


「 よくないですっ!それぐらい自分で考えてみたらいかがですかっ? 」



 雷鳴が轟いたようなキョーコの声に、蓮はそこで押し黙った。


 判らないから聞いたのに。考えろと言われても答えなんか導けない。

 いや、怒っている箇所は判るのだ。買ってあげる、と言ったそのセリフに怒っているのだろうことは理解している。

 問題は、なぜそれで怒るのかということだ。


 もしここで見当外れなことを言ってしまえば、彼女はもっとイラつくだろう。だから迂闊に口を開けない。




 女性が当たり前のように持っている、相手が何を求めているのかを察するというその素晴らしい能力は、元来、男性には備わっていないと言われている。

 つまり、簡単に言ってしまえば男には察することが出来ないのだ。

 それをしろというのは、カニに前歩きを強要するようなものだと言える。




 女性たちは総じてイケメンは察してくれると思いがちだが、それは正しい見解ではない。

 なぜなら、イケメンたちはそれゆえの恋愛経験の多さから、ある程度女性という生き物を理解しているだけに過ぎないのだから。

 それは後から身に付けた能力に他ならず、すなわち経験値の差というやつである。



 しかし過去、彼女こそ存在していたものの、そのうちの誰一人として本気で付き合ってこなかった蓮にとって、それらは経験に値する行為ですらなかった。


 結果、どうこね回しても蓮に分かるはずもなく。


 潔く腹を決めた蓮は正直に心のうちを口にした。



「 考えたよ。でも判らなかったんだ。だから話して欲しい。不満があるのならちゃんとそれを言葉にして。こんな風に君と仲違いしたりすれ違ったりするのは嫌なんだ 」


「 ・・・・・っ!! 」



 昨日、キョーコの笑顔が打ち止めとなったあと、蓮はかなり考えた。だけど答えが見えることはなく。それゆえ、キョーコの怒りが落ち着くまで蓮は待とうと思った。

 そうしようと決めたにも関わらず、昨日の今日で蓮がそうしなかったのは昼間の出来事に起因する。



 実は蓮、キョーコにメールを送ったときは新ドラマの打ち合わせ現場にいた。

 本来なら仕事とプライベートは必ず切り離す。それはトップ俳優の心得である。

 しかし、打ち合わせがもうすぐ始まろうという時刻になってもそれが始まる気配がなく、そればかりか一部の関係者の到着が遅れるらしいと聞かされた。


 それもあって蓮の頭はすんなりと仕事モードには切り替わらず。・・・となれば嫌でも考えるのはキョーコのこと。


 着信が来ていないか。あるいはメールが来ていないか。

 もともと蓮は、キョーコと付き合い始めてから隙間時間があれば必ず携帯をチェックしていた。従って蓮の動きに社が気づかないはずもなかった。



「 キョーコちゃんに電話するのか? 」


「 逆です。着信とか、メールとか、キョーコから何か来てないかなって思っただけです 」


「 お前ね。そんなに気になるなら連絡してみればいいだろうが。ごめんねって、さっさと謝った方がいいぞ 」


「 簡単に言わないでください。正直、俺はキョーコが怒りだした理由が全然わからないんですから、それで謝ったって通じるはずないことぐらい分かるでしょう。

 だいたい、俺はツテを頼って教えてもらった今度オープンする予定のリップミー直売店で取り扱いになるシリーズ名をキョーコに伝えて、寝不足にならないようにねなんて言ったところで絶対時間を気にせず自分で検索しちゃうだろうあの子が欲しいと思った物を俺が買ってあげるって・・・そう言っただけですよ?それでなぜあんな不機嫌な顔をされるんですか。喜ばれることはあっても、怒られる要素がどこにあるのか俺にはさっぱり判らないんですよ 」



 一応、蓮としては小声で話しているつもりだったが、聞き耳を立てていた者がいた。


 古賀弘宗である。


 実はこのドラマは蓮と古賀のダブル主演。

 芸能界一抱かれたい男ナンバー1と2で、イケメンホストを演じるのである。



 古賀は背後から蓮の左肩に右手を置き、振り向いた蓮と視線がかち合った瞬間に何とも言えない笑みを浮かべた。



「 …へー。良いこと聞いちゃったなぁ 」


「 古賀く… 」


「 実は俺、以前からそうなんだろうなって思っていたんだよね。敦賀くんってフェミニストを装っているけど、本当は似非紳士なんだうなって。それで、すっごく腹黒くって厭味な奴っていうのを俺は期待しているんだよね 」


「「 ・・・・・・ 」」


「 それで、なに?そのポーカーフェイスを炸裂させて、今度は自分の彼女をみちみち虐めちゃってんの?その話、面白そうだなぁ。打ち合わせの再スタートがかかるまでの暇つぶしを兼ねてちょっと詳しく聞かせてよ 」


「 俺が、あの子を大切にしていないとでも? 」



 ふ…と優しく息を吐いたわりに、蓮の視線はあり得ないほど鋭利だった。が、古賀に動じた様子はなかった。



「 みなさん、お待たせしました!いま駐車場に到着したという連絡が入りました。あと数分後に始めたいと思いますので、よろしくお願いします! 」


「 あらら、残念。じゃ、この話はあとで聞かせてくれる? 」



 誰がするか…とは声に出さず

 無感情な能面顔になった蓮は

 一瞬の隙をついて手早くキョーコにメールを送った。



 実はキョーコと古賀は、泥中の蓮で共演したあとテレビドラマでも共演している。

 マネージャー社の言葉を借りるなら、二人に共演以上の繋がりは無いらしいのだが、古賀がかなり以前から自分に対して良い感情を持っていないことを蓮は社から聞いて知っていた。


 そんなくだらない理由に煽られ、ここぞとばかりに手を出されてかき回されてはたまらない。

 そんな危機感を覚えて背中を押され、早々にキョーコと仲直りをしなければ、と考えた上での行動だった。



 しかし、蓮としてはまさかそんな早く返信が来るとは予想しておらず、その文面を見て、ある意味想像通りだったことに頭を抱えた。






 ――――――― 悪いと思っていないくせに謝られても響かないです





 その文面は、そもそも察することが出来ない男たちが一度は言われるあるあるモノ。

 良くないと分かっていたのに咄嗟に脳裏をよぎった社のアドバイスそのままに、ゴメンなどと送った蓮にも非はある。


 しかし、横歩きのカニに前歩きが不可能なように、キョーコの気持ちを察することが蓮には出来なかった。





 しんと静まり返った部屋の中。黙ったままずっと自分から目をそらしているキョーコの横顔を見つめて、蓮は痛々しく瞼を伏せた。


 やはり、彼女の怒りが収まるまで時間を置くしかないのだろうか。

 それはいつまでとなるだろう。



 数時間たった今も、キョーコの返信は蓮の胸をどぎついほど抉っている。

 マネージャーには、それでも自分たち二人のスケジュールを調整して欲しいと頼んでおいたけれど。


 現時点で、プレオープンの日に二人で買い物に行くところを蓮は想像できなかった。






 ⇒◇5 に続く


ありがち設定ナンバー2、古賀氏のちょっかいw



⇒不器用な恋人◇4・拍手

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