★ご訪問ありがとうございます。一葉です。
こちらのお話は、「ひがなきままに」 を運営されております、だぼはぜ様と、有限実践組を運営しております私、一葉梨紗とのコラボ連載作です。
基本原作沿いですが続き妄想ではありません。
ネタバレなし、両片想い蓮キョ。そしてシリアスです。
最後までお付き合い頂けましたら幸いです。
前話こちらです⇒【sWitch◇1 】
■ sWitch ◇2 ■
その一報が入電したのは、LMEプロダクションの社長であるローリィ宝田が、自身の執務室でただ一人、実に穏やかな日々が過ぎ去っているな、と目を細めた直後だった。
「 …ああ、判った。では引き続き宜しく頼む 」
穏やかな表情で受話器を置き、いま話題に上ったばかりの人物について思いを馳せる。
日本へ来たすぐの頃は、今では考えられないほど別人の顔をしていた久遠・ヒズリ。
ただひたすら徹底的に日本語を勉強し、ひらがなを覚え、カナを覚え、漢字を覚え、日本の文化を学び、生活習慣を身に着け、そうして努力を怠ることなく彼は精進し続けた。
ただ演技をすることのみに全力を注ぎ、目標を掲げて邁進してきたこの数年。
転機となるであろうその出演依頼に悩みながらも、結局はそれを己の試練と受け止め、B・Jを演じることを決めた。
過去を克服したいと願ったのも
もちろん努力をしたのも本人でしか有り得ない。
そのB・Jの正体が、先日ついに明かされたのである。
実に晴れ晴れとした顔でインタビューに応じていた蓮の姿を思い出し、ローリィは表情を緩ませた。
……本当に、よく頑張っているよ、お前は。
何があっても揺るがなかった、芝居への情熱だけを携えて日本へとやって来たかつての少年は、時を経るごとに頭角を現し、俳優として国内にその名を轟かせるまでに至った。
いまや道行く人に敦賀蓮の名を訊ねれば、知らないと首を横に振る人間を探す方が遙かに難しい事だろう。
誰にも己の正体を明かさず、敦賀蓮をも演じ続け、ここまで来たその過程がどれほど大変なものであったのか、もちろん一言では語り尽くせない。
―――――― 日本の俳優『 敦賀 蓮 』として自力で母国に還って成功するまで、俺はこの姿をつらぬき通します。
頑なな意思は今も堅固なまま…。
B・Jを演じたカイン・ヒールの正体は敦賀蓮だった。
その真実を知った人々の多くは衝撃を受け、日本はいま、上へ下への大騒ぎとなっている。当然それは日本だけにとどまらず、トラジックマーカーが上映された世界各国でも同じような過熱報道に至っていると報告を受けた所だった。
国内ならいざ知らず、正直、海外でもこれほどまでに電光石火な反応が見られるとは…と驚きながら顎をさすり、嬉しい誤算につい自分の頬が緩んでいくのを止めもしない。
…あと、もうひと押しって所じゃねぇか?
もちろん楽観視は出来ねぇけどな。
窓から侵入してくる遠慮を知らない陽射しに目を細めながら、穏やかにソファに身を沈めたLMEの社長はいつものようにシガレットを口にくわえた。
昼が近い。俳優セクションの電話はますます活気づき、それがかつてない程けたたましく鳴り響いていることだろう。
呑気にもローリィがそんなことを考えたとき、その思考に呼応したようにプライベートナンバーが身震いを始めた。
……だれだ?
緩慢に携帯電話を持ち上げ、発信主を確認する。視認してすぐ、なるほどな…と片側の口角をあげた。
――――― 向こうはいま夜中だろうに…。
コールを解除した途端、何を言われるのかは容易に想像が出来た。
恐らくはよほど嬉しかったんだろう、と想像してローリィは小さく吹き出した。
あの戒律を破る事は出来ないと自分達を誡め、せめてと思い自分に電話を寄越したに違いない。
ほんの少し誇らしい気分を携えながら、ローリィ宝田はソファに背を預けた姿勢のまま軽快に通話ボタンを押した。
「 …ローリィだ 」
しかし
耳に飛び込んできた急ぎ足のそれは、彼の想像を根こそぎ破棄した。
「 Mr.ローリィ!!いますぐクオンを還して! 」
神経質に尖ったジュリエナの声が、第一声として容赦なく鼓膜を震わせた。
彼女の悲痛な叫びは機械を通して正確にローリィの鼓膜に届けられ、その声音が震えて、涙を流しているのだろう状況だということは、目の当たりにせずともはっきりと伝わってきた。
「 お願いよ!クーの意識が戻らないの…。もしかしたら、もう…ダメなのかもしれない…。お願い、一刻も早く久遠をこちらに…! 」
「 ちょ…ちょっと待て。何だ?どういう事だ? 」
躊躇いは一瞬、顔を覗かせただけで即座に掻き消え、芸能プロダクションの社長はすぐさま心の態勢を立て直す。
「 何だかよく判らないが…とにかく落ち着いて、ちゃんと順を追って説明してくれないか?…あいつに何かあったのか? 」
二度ほど頭を横に振って、ローリィは神妙な面持ちで届く声に耳を傾けた。
知らず呼吸を細め、静かに固唾を飲み込む。あるはずの無い背筋を伝う汗が、やけにリアルに感じられた。
「 いま、病院なの。もう、一週間も経ってしまったのに…どうして…。もう、どうしたらいいの…? 」
「 だから、何があった? 」
「 わからない。本当の所は私にもよく判らないの…。ただ、撮影の最中に、機械の操作ミスがあったって…。数人のスタッフと一緒に、大きな何かの下敷きになったって… 」
「 なん、だって…? 」
足元から、血の気が一気に抜けた気がした。
携帯を持たないもう一方の手で口元を抑え、何てことだ…と眉根を寄せる。
「 まさか、クーが…? 」
「 嘘じゃないわ!さっき、下敷きになったスタッフの一人が息を引き取ったのよ。こんな時にこんな嘘、つけるはずがない!!お願いよ、久遠!!早く還って来て… 」
―――――――― この日…
B・Jを演じたカイン・ヒールの正体が
日本の俳優、敦賀 蓮だと公式に発表されてから
まだ
たった3日しか経っていなかった ――――――― …
⇒sWitch◇3 に続く
俺はこの姿をつらぬき通します。⇒この『姿』の部分を「スタイル」と読んだあなたはスキビ通です。
ちなみに、どうにもスマートフォンと表現するのに抵抗を感じる一葉…。なのでその表現を携帯電話端末にしました。だってこれが正式名称なんだもの…。
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