ちょり ―――――― っす♪о(ж>▽<)y ☆おひさしぃ~♬
3日に一度を目標に、ブログ更新を心がけております、いちよーでっす。
まぁ、目標っていうのはアレだ。そこまで到達しようと定めた目当ての事であって、到達してやろうじゃねーかこの野郎…と執念をたぎらせる必要が必ずしもあるかっていうとそうではないのだよ。 ←え?
しかしですね、最近また富に思うようになってきたのですが、プロの作家さまには本当に脱帽しきりです。
世の小説家の皆様には畏敬と敬意を表します。その精神力とパワーに圧倒されます。そして読みふける(笑)
でも個人的にはやっぱり物語よりエッセイっぽいものやら学術的なものが好きです。
ただ、読んだ本の内容が身になっているかっていうと、それは別のお話だったり…。あはは(^▽^;)
さて、こちらのお話は、噂の人魚フェア 参加物です。
リンク先はセーちゃん、ことsei様ブログ、「 リク魔人の妄想宝物庫 」となっております。
もうね、相も変わらず長いですよ。書いている本人が嫌になるくらいの長さ(笑)…ま、それは半分冗談ですけど。←半分本気かよ!
読むだけでも時間がかかると思いますので、お時間に余裕がある時をお勧めいたします。(。-人-。)
それでは、蓮キョで人魚パラレル☆めっちゃシリアス!
⇒念のため前のお話こちら【 ◇1 ・◇2 ・◇3 ・◇4 ・◇5 】
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
~ 噂の人魚フェア・参加作 ~
■ 草原の海 ◇6 共鳴 ■
秀人はその変貌に、困惑を隠せなかった。
―――――――― 俺、用を思い出した。先に帰る…。
蓮がキョーコに対する強い想いに気付き、彼女の元へ行こうと秀人に声を掛けたとき、それまでどこか虚ろだった彼の表情が一変したことに秀人は己の目を疑った。
なぜなら、理由が皆目わからなかったから。
久遠が妻求村を訪れたのは確かに初めてのことで、けれど花嫁候補と呼ばれる女達との接触自体が初めてという訳ではなかった。
一部の女性は自分たちの住む村に日々姿を見せている。食事や洗濯、掃除や武具の保管など、ケンタウロスの身の周りのこまごまとした世話をするのは女たちの仕事のうちだった。
もちろん全ての娘が出入りをする訳ではないため、おおよそ久遠にとっては初見の女性が圧倒的多数だったはずで、それはこの村に脚を踏み入れた時点で女たちが見せた態度からも容易に推察できた。
さらに言えば、久遠は妻を娶る、という行為自体に非常に消極的だった。少なくとも村に出入りをする娘と会話をしている姿を秀人は目撃したことが無い。
嫌だと思っているのだろう妻を娶るための行為を今日、初めて起こした久遠。けれどやはりというべきか、彼は会話を成立させてはいたものの、特定の女性に目線を送る事もしなかった。
――――― にも、かかわらず…
意を決したように顔を上げた久遠には、もうどこにも迷いは見えなかった。
何かが吹っ切れたように目元に明るい笑みをのせ、自分を見た彼の瞳にあったのは明瞭に輝く強い意思。
その毅然とした決意の表れを瞬時に見て取り、反射的に驚嘆の言葉が口をついた。
「 は?あ、おいっ!!待てよ、久遠!!…久遠!! 」
呼びかけた声は確かに久遠に届いたはず。けれどその名を冠した友人はこの願いを叶えてはくれなかった。
彼を呼び止めようと持ち上げた秀人の右手は空を舞っただけで終わり、視界に認めた久遠の姿は既に筋肉質ばった後姿のみ。
あっという間の出来事に、秀人は口の端を歪め感情をあらわにした。
「 何なんだよ!久遠のやつ! 」
例えば、である。
この地に足を運び、あっという間に自分達を取り囲んだ女たちの態度にうんざりして逃走…というのならむしろそこで得心したように思う。
あるいは、やはり自分には決められそうもないと腹をくくり、掟に従い指示が下りるのを待つことにしようと流れに身を任せる彼の姿をなんとなく想像したこともあった。
けれど、自分に見せた彼の顔は、そのどちらとも違った。
少なくとも嫌だと思っている事由を受け入れる覚悟を固めた表情では決してない。
1年以上もの間、のらりくらりと躱していたのは久遠自身で、彼にとってこの問題は決して早々に解決するようなモノではなかったはず。
もっとも、もし自分が気付かないうちに久遠の腹積もりが決まったのだとしたら、それは素直に喜んでいいことかも知れないとは思うが、しかし今ほどのやり取りの中で彼女たちの中に久遠を惹きつけた娘がいたとは到底思えなかった。
一体この短い時間に、久遠が瞳を輝かせるような変革がどこにあったというのか。
現時点で一つだけはっきりとわかるのは、自分が知り得ない理由が彼の中には存在しているのだろうということだけ。
秀人はしっかりと前を見据えた。久遠を目標地と定めて意のままに脚に力を込め、穴を掘らん勢いで大地をきつく蹴り上げる。
すぐに妻求村の門の下にたどり着くと、そこで一度冷静に脚を止めてグングンと離れて行く久遠の姿を黙視した。
一目散に山を下り森に向かっている彼の様子に首を傾げ、確かに先に帰ると言い捨てた久遠の言葉を明瞭に思い出す。
秀人はそれなりに男前な顔を歪め眉宇を悩ましげにしかめた。
「 何だ?久遠…あいつ…村じゃなくて、代理人の所にでも行くのかよ 」
言い投げて、再び勢いよく駆け出した。
皮肉なことに秀人の心は、発した自身の言葉を完全に裏切り強く異を唱えていた。
もし本当に久遠が代理人の元へ向かうのであれば。
妻帯問題に関してようやく決心がつき、その報告をしに行く…という可能性は否定できなかった。けれど、久遠の態度を思い返すと、まずそこにたどり着く道理が不自然に思える。
それに、常に思慮深い彼が何の備えも無い状態で身支度ひとつせずに代理人の所へ行くだろうかと疑問がよぎる。
なぜなら、あの山はとても厳しい。
ケンタウロスに死を覚悟させるほどの極寒の地であるそこは、神に命を捧げ戦闘を生きる意味としている彼らにさえ不可侵という言葉を容赦なく思い起こさせる冷徹な環境下を維持している。
誰よりもそれを知り、また誰よりもそれを思い知っているのは久遠でまず間違いないだろう。
そして秀人は、長である久遠が過去にたった一度だけ、それに対して不満をこぼしたのを耳にしたことがあった。
彼がいま向かっている場所が、代理人の所であろうはずがない。
「 だったらお前は、一体どこに向かっているっていうんだ!久遠!? 」
疾行しながら思案した末に導いた全ての答えは却下された。
可能性を秘めた別の回答はけれど、秀人にはもう思いつかない。
それでも、正直な事を言えば、秀人はこの時点でもう理解していた。
正解を自分で見出すことは出来ないけれど、恐らく彼を追いかけて辿り着いたそこに全ての答えがあるのだろう、と。
…どれぐらい、走っただろうか。
脚を進めるほどに息が乱れて、徐々に鼓動が激しく軋んだ。
それでも目線の先にいる久遠はスピードを落とすことなく一心不乱に駆けている。
いつの間にか呼吸は激しく乱れ、心臓は狂ったように踊っていた。
喉が渇きを覚え、同時に苦しげに不満を訴える。
一向に縮まらない距離感に強い憤りを覚えながらも、秀人は彼を見失うまいと懸命に己を鼓舞し、脳内で叱咤激励を繰り返しながら機械的に四つ脚を懸命に働かせた。
景色はすっかり一変し、見通しがきく村の周辺とは様相を呈し始めている。
あまねくように自分を迎えているのはさらに鬱蒼とした森の入り口。まばらに木立が立ち並んでいた先ほどまでの景色とはまるで違っている。
久遠が迷わず森の奥へと進んで行くのを視界に認め、少し遅れて秀人も森の奥へと駆けこんだ。
急に視界が暗くなり、自然と追走のスピードが落ちた。
生い茂った森は、木々の密度に比例し物音ひとつ鳴かせない。まるで、眠るように森の中は静まり返っていた。
実りの秋を迎える前だと言うのに、そこかしこに見られるそれらは常緑樹ばかりで、だからだろうか。動物の気配どころか昆虫の存在さえも感じられなかった。
こんなにも静かな森の中は始めてだと、そう思いながら周囲に視線を巡らせた。
高く枝葉を伸ばした木々が、太陽の光をさえぎっていた。
見上げれば木立の隙間から青空を望む事が出来たが、肌に触れる空気はやけに寒々しく感じられる。
秀人は一度大きく深呼吸した。
疾走を続けたために熱を持ち汗ばんだ筋肉が、冷えた空気に癒されていくようだった。
視界の隅で、太陽が消極的に森に光を与えている。
ときおり風に弄ばれて囁く葉擦れに紛れ、スポットライトを真似て降り注ぐそれが、唯一大地に届けられる温みなのだろうと思った。
路を確認しようと足元に視線を落とすと、地を這う草たちの心細さに少しだけ目を見張る。
息遣いの聞こえない森であるのに、土面はやけに清々としていて先行きを阻む低木すらまばらにしか見られない。
再生中の森なのだと、すぐに気付いた。
やがて生き物が身を寄せる場になるのだろうこの森は、けれど今は未熟な聖地でしかない。そのおかげで久遠が押し倒したと思われる草々が、自分が目指すべき道行きを暗黙のもとに告げていた。
秀人は自分に恩赦を与え、追走のスピードを意識的に緩めた。
額の汗を乱暴に拭い、苦しさを覚えていた呼吸と、新鮮な空気を求めて急く細胞たちの強要を甘んじて受け止め激しく上下運動させていた肩をほんの少し労わる。
それでも秀人は前を向いた。
瑞々しい葉をたわわに携えた木々に邪魔され、それでも見え隠れする久遠の背中を見つめて弾んだ呼吸をゴクリと飲み込む。心に余裕が生まれた事で、彼は静かにこぼれた自身の苦笑にそっと意識を傾けた。
( …やっぱり、敵わねえんだよな… )
過去、どれほどこの思いを繰り返しただろうと思う。
実際、秀人は何をやっても久遠には敵わなかった。
どれだけ力を付けても腕力で勝ったことは一度も無く
どれほど自分を紀律しようとも彼には劣った。
懸命に自分を鍛え上げ、せめて脚の速さぐらいはと頑張ってみたところで今こうして息を乱している自分は久遠に追いつくどころか離されていく一方であるという現実がまた悔しい。
自然と拳を握り、複雑に交錯していく感情をなぎ倒そうと瞼を伏せて小さく息を吐いた。乱れた呼吸の隙間を縫うように、なけなしのプライドが彼の唯一の自慢を言葉に変える。
「 それでも、弓だったら、アイツに…負けないんだけど、な… 」
たった一つではあるけれど、彼に勝っていると自身で誇れるのは的当ての精度のみだった。
思慮深さも
自身を研磨する厳しさも
腕力も体力も何もかもが久遠には敵わない。
他人よりも愛想が良くて
ほんの少しだけ機転が利いて
現実を受け入れる柔軟さを兼ね備えた自分自身をどれほど知り得ようが
拒否する心を携えながら、それでも
掟を受け入れようとする久遠の真面目な切なさに気付いてしまえば
彼より自分が勝っているとはどうしても思えなかった。
「 ああーもう、ちくしょう!!久遠、いいから止まれ!一体どこに行くんだお前は! 」
やけくそに叫んだ秀人の声は、大きく背を伸ばしながらも未だ成長途中である木々に阻まれ、はるか先にいる久遠の背中をかすりもしない。
そんな2体のケンタウロスの動向を、カナエは上空から息をつめて見ていた。
先を見通せない夜霧に船を出すかの如く、心の内に拡がっていく不安と向き合う。
必死に思考を巡らせて、カナエはどうすればいいのかと焦る気持ちを転がした。
蓮の脚はカナエの想像以上に早かった。きっとさほどの時間をかけずにもう間もなく湖にたどり着いてしまうだろう。
カナエは湖水にいるキョーコに視線を移した。
心を許したたった一人の友人は、水面下で不安げに瞳を揺らしている。
どうして蓮なのに隠れなければならないのか、と不満を募らせているのはもう、充分承知の上だった。
それでもカナエは空気を揺らした。この世に生まれてまだ17年という幼い人魚を守るために。
「 キョーコ!!いい?絶対に出てきちゃダメよ!? 」
強く言い含めて視線を戻した。
迷いながらもカナエは絶えず湖面にさざ波をたて、幾度も蓮の脚を鈍らせようと強風を送る。
キョーコが言うように、蓮だけならば問題はない、と思う。
否。カナエにとっては蓮の存在そのものも問題ではあったが、いまはそれを押しのけても危惧すべき大きな厄介ごとがこちらに向かっていると身構えるべき時。
育む者である人魚が、奪う者であるケンタウロスと知己になることは決して喜ばしいことではない。だからもうこれ以上、あの一族にキョーコの事を知って欲しくなどなかった。
出来る事なら引き返して欲しかった。けれどもカナエにはこの意思を蓮に伝える手段がない。
結果、風の精の願いは強風という現象に形を変えて、何度も蓮へと向かって行く。
動物も滅多に寄らない孤高の湖。周囲に獣道すらもない事が徒となっているのは明白だった。
どうか、自分を追う仲間の存在に気付いて欲しい。ケンタウロスとして自分がいま、どれほど愚かで醜い真似をしているのか、どうかそのことに気付いてほしい。
偽りの両手を胸の前に持ち上げ、祈りを捧げる形をカナエが自然と作りあげたとき。
願い虚しく、息を弾ませた蓮が草木をかき分け湖へとその麗しい姿を現した。彼を見とめたキョーコが喜びに満ちた笑顔をこぼしてほんのりと頬を染める。
キョーコから顔を背けたカナエは、現実を拒絶するように痛々しく瞼を閉じた。
一方、蓮の呼吸はだいぶ乱れていた。
額から幾筋もの汗が流れ落ち、これでもかと彼の肌を湿らせてはいたが、皮肉なことにカナエが生んだ強風は彼に抵抗を与えるどころか彼の熱を癒し、汗を消滅させる存在として逆に爽快感すら与えていた。
身を襲う疲労感を意識しながら、けれどそれには露ほどの頓着も見せず蓮はただ真摯に湖へと視線を投げる。
碧眼に飛び込んだのはたおやかに周囲の景色を模写する誠実な湖面。
水面に映り込むのは何者にも脅かされることなく安寧に身を委ねて呼吸を繰り返す植物たち。
高い所から低い地へ。ありのままに流れる水流が川を作り、湖に注ぎ込んではさらに先を目指して旅立っていく。その水音が清々しい音を奏で湖畔に反響している様は、かつて一人になりたいと蓮が欲し、導かれるように脚を踏み入れた清冷で高雅なる風景そのまま。
けれど、一人になりたいと欲した蓮の目的はとうに真意を失っていた。いま自分がこの場にいるのは景色に魅せられたからではなかった。
ここには自分を惹きつけてやまない強力な磁場がある。
逸る気持ちを抑えもせず、少々乱暴に草木をまたぎ歩みを進める。吸い寄せられるように湖のほとりに近づくと、昨夜彼女にプレゼントした大小さまざまな花々が変わらず湖面をたゆたう様子に目を細めた。
はしゃいだその時のキョーコの笑顔が自然と脳裏に思い浮かび、蓮は思わず喜色を浮かべる。
初めて訪れた美しい水景色に、色を添えたのは可愛い人魚。
出逢った瞬間、自分の視線を釘付けにした、まごうかたなき純粋な彼女。
触れる事すら赦されない、儚くも尊い彼女を求め、蓮は心の限りに彼女の名を口ずさんだ。
「 キョーコ!!? 」
その名を呼ぶだけで心が震える。
「 キョーコ!! 」
瞼に姿を思い描くだけで恋しさが切なく募っていく。
実際に彼女と言葉を交わし、共に過ごしたのは両手で足りるほどの少ない時間でしかなかった。それなのに…
どうしてこうも、胸が締め付けられるのだろうと思う。
どうして逢いたいと渇望する気持ちだけがこんなにも大きく膨らんでいくのだろう。
―――――― 答えはもう、とっくに心に刻まれている。
神経を研ぎ澄ましながら、ザアザアと流れ落ちて行く川音に耳を澄ませた。
「 …キョー…コ…? 」
湖のほとりに近づき、四つ脚を折り畳んでそっと水辺を覗き込む。
湖底に沈んだ木々の木目さえ見えそうなほど水は澄み渡っていて、眺望明澄な水の中、罪を知らない小魚たちが訳知らず顔で幾つかの群れをなして戯れているのが見えた。
まるで水辺を慕って集うように枝葉を伸ばした木々の隙間から、すり抜けた陽射しが湖畔を煌めかせている。
遮るものが何もない湖の中央では、ここぞとばかりに太陽の輝きが水面を乱反射させていた。
自分に向かい何度も体当たりをしていく風がいたずらに蓮の髪をかき上げると、先ほどまで意識もしていなかった鳥のさえずりが森に響いているのが聞こえた。
心に隙間風が吹いて、ふと苦笑が浮かんだ。
地についた自身の両手を見下ろし、自分の形が楕円に近い影となって地面に寝そべっている事に表情を歪める。
空を仰げば一面の青。掃いたように伸ばされた雲が悠然と空を横行していた。眩しさから目を細めた視界の中で、動いて見える黒い点は鳥に間違いないだろう。
上向いた顔をもう一度下げて、静かな森に視線を投げた。
再び嘲笑するように笑みを浮かべて、力なく右手を持ち上げる。
顔をうつむかせて瞼を伏せ、浮かんだ汗を拭うように手の甲を額に押し当てると、蓮は美麗に整った口元から深い溜息を二つこぼした。
「 そう、だよな。さすがに…まだ休んでいるか…? 」
そこかしこが、いまが昼間だと訴えていた。
そう言えば人魚は夜行性だったんだっけ、と彼女の言葉を思い出す。
どうしようもなく切なくなって、自然と視界が涙で揺らいだ。
持て余す自分の心をどう鎮めたらいいのか。
もうどうしたらいいのかすら判らなくて。
キョーコが自分を見つめている事に気付くことは出来ず、だからこそ蓮はその躊躇いを隠すことをしなかった。
ただ両手で自分の顔を覆い、昼間であることを拒絶するように強く視界を閉ざした。
抑えられない想いだけが堰を切ったように溢れ出していて、いま彼女のそばにいられない自分を酷く叱責したい気分だった。
逢いたいと、切望するのはどうしてなのだろうか。
声が聴きたいと渇望するのはどうしてなのだろうか。
答えはもう、とっくに知っている。
抗う事さえ許されずに生まれ出でた恋心。
どうしようもなく脳裏に拡がっていく闇のような無力感を強烈に覚えて、なぜ自分はケンタウロスなのだろうかと苦々しく己の思惟を飲み込む。
きつく瞳を閉じこめると、蓮は喉の奥から自分の声を絞り出した。
「 …でも、キョーコ…ごめん… 」
ただ、抑えたくないと思った。もう我慢などしたくないと。
誰を選んでも同じ…だなんて、それが瞬きの思考であったとしても、それを考えた己自身が信じられない。
想いはまっすぐに彼女へと向かっていて、身勝手だと判っていても一つの感情だけが身体中を駆け巡っている。
瞼を閉じれば簡単に蘇る愛しい笑顔。
脳裏にこだまするのは明るく朗らかな人魚の笑い声。
自分が強く求めているのは、真実キョーコだけで、それをもう自分は強く思い知ってしまったのだから…。
「 …俺は君に、逢いたいんだ…キョーコ!! 」
強く握りしめた拳を口元に運んで、聞き届けられるとは限らない願いを言葉に変えた。
心のままに彼女の名を思いきり叫び、蓮は何度も何度も彼女の姿を強く求めた。
いつもなら閑静な湖上にキョーコの名前が繰り返し響いた。その声を掻き消そうとカナエは風を送り続ける。
眼下で繰り広げられているその光景に、酷く心が軋むのを感じていた。いつの間に水面に顔を出していたのか、視線を戻したそこに身をひそめていたはずのキョーコが見えた。
蓮が湖に姿を現したとき、微笑んだ彼女の柔らかい笑みはどこにも見当たらなくなっていた。
水草から顔をのぞかせ気付かれまいと息をひそめているキョーコは、泣くように自分の名を叫び続ける蓮から視線を逸らすことも出来ず、ただ震える唇に細く言葉を刻む。
「 いや、だ……蓮、どうして…? 」
鼓膜に自分の名が届けられるたび、まるで心臓が掴まれているようだと思った。
自分を呼ぶ彼の声がこんなにも切なく聞こえて、あの呼び声に応えたいと心が何度も激しく叫ぶ。
――――――― 知らず、感情は静かに共鳴を覚える。
ほのかに芽生えたばかりの彼女の想いは、腕を引かれるように蓮の声に揺さぶられた。
迷わずキョーコは頭上にいるカナエを仰ぎ見た。
対したカナエもまた、湖水に身を浸したキョーコに視線を投げる。
二人は眼差しだけで互いの心を伝えた。キョーコの憂えた瞳が訴えかけるそれに、カナエはきつく唇を結び、顔をしかめて何度も首を横に振る。
痛哭を深く刻み、キョーコが切なく表情を歪める。そうしてひととき、キョーコは自分の視界を閉ざした。
カナエを仰ぎ見た姿勢のまま、自身の心に問いを投げつけ、ふわりと浮かんだその答えにキョーコは抗おうとはしなかった。
切なげに眉を顰め、小さく顔を横に振る。
再び視界を開け放つと、キョーコは躊躇いを乗せた唇を小さく震わせた。
刹那、カナエは目を見張る。
音に出さない四つの言葉が、確かにカナエの心に届けられた。
―――――――― ごめんね…
カナエの背筋がゾクリと震えて、彼女は大仰にかぶりを振った。
秀人へと視線を戻せば、そこには年若いケンタウロスの姿が間違いなく視界に飛び込む。
カナエの胸中を知る由は無く、キョーコは静かに水の中に潜った。水面が波紋を作り湖面を順繰りと支配しようとしたが、人魚が踊るように尾で水をかくと水面は間を開けずに大きく揺らいだ。
つくられた波紋は一瞬で姿をかき消す。
キョーコは鋭く尾を翻した。それはまるで、青空を滑空する鳥のように。彼女もまた水中を自由に意のままに駆け抜ける。
それは驚くべき速さだった。
時をほぼ等しく、蓮は湖面下で優美に、けれど鋭く自分へと向かって来るキョーコの泳姿を見つけてすぐに口を閉じた。
泳ぎながらキョーコが水面上に顔を出し、蓮の場所を正しく認識してまた水中に顔を潜らせる。
目算した目的地にたどり着いたキョーコは、勢いをつけたまま翻した尾ひれで湖水に鞭を打つと湖の水が爆ぜ、生き物のように鼓動を躍らせた。
大きな水音と共に水上に飛び出したキョーコの肢体が、太陽の光を全身に受けてまばゆく煌めく。人魚の鱗はまるで宝石のような光輝を放ち、キラキラと光を弾いていた。
眩しい光景に目を細め、夢でも見ているのかと蓮は呼吸を忘れる。
彼女を求めて切なくその名を呼んだ彼の口は、いまはポカンと半開いているだけだった。
軽やかに大気に身を晒したキョーコは、勢いに乗ったまま空も泳いだ。そのまま蓮がしゃがみ込んだ湖畔の近くに乗り上がる。
トタン!と軽快な音が響き、大地を慈しむように細い両手を芝に置いた。細く緩やかな髪からパタパタと降り立つのは水晶の輝きを放つ無数の水滴。それが日の光を受けて温まった大地に潤いを与えた。
ふうと息を吐いて、上半身を起こした。変わらず太陽の光がキョーコの肢体を輝かせている。
明るく呼吸を弾ませ蓮に顔を向けると、視線が交わりはしたものの蓮は変わらず口を半開いたままだった。
両手でつっぱった腕が震えて、露わになった胸元を隠すことが出来なくて、目を見開いたまま自分を凝視している蓮を前に、キョーコは頬を静かに染めた。
羞恥から急いで顔をそらしたけれど、すぐに視線を蓮に戻した。
おそるおそる彼を見つめて、変わらず自分に視線を向けている蓮がけれどどこか呆けた様子なのに気づくと、自然と頬が緩まって笑みが浮かんだ。
柔らかく口元が綻び、ふふふ…と笑い声が漏れる。
彼を見つめるだけで、確かに自分の胸に喜びが拡がっていく。
キョーコはそれを愛しく誇らしく噛みしめた。
それでも、この時はまだ、蓮を見つめる自分の瞳に加わった甘さが何なのか、気付くことは出来なかった。
「 蓮…待たせちゃった。ごめんね? 」
「 キョーコ… 」
人魚の声を聞いて、初めて蓮の胸にも実感がわいた。
自分が彼女を欲したが故の幻を見ているような気がしていた。
けれど目の前の彼女が現実に自分の名を呼び、いつもの穏やかな笑顔を浮かべている事に確証を得る。
喜びから目を細め、嬉しさから思わず笑顔を浮かべた。
太陽の光で輝く水滴が、キョーコの白い肌を艶めかせている。隠されずに披露されているキョーコの胸の膨らみが、蓮の鼓動を激しくさせた。
触れたいという欲求が大きく膨らみ、慌てて自分の欲望を強く抑え込む。
そんな蓮の変化に気付くことは出来ず、キョーコは四つ脚を折り畳んで大地にしゃがんでいる蓮に寄り添おうと、つっぱった腕を少しずつずらして下半身を引きずった。
その動きに気付いた蓮が慌てて言葉でそれを止めた。
「 キョ…!!動かなくていいから。君の身に傷がつく… 」
「 ふふ。平気よ、ここ芝生だし… 」
心に満ちる充足感。
言葉を交わすだけで身の内に溢れる優しい気持ち。
二人は互いの視線を絡め合わせ、同時にクスリとほほ笑み合う。
想いは膨らみ、感情は静かに共鳴してゆく…。
愛しく自分を見つめるケンタウロスの熱い視線に気づいて、キョーコの胸が激しい鼓動を奏ではじめる。
浮かぶ笑顔の甘さにときめき、息苦しさを覚えた。けれどそれは、決して嫌なものなどではなくて。
キョーコはただ自分の中を駆け巡る感情の意味を探り、もしかして、と思った。
「 キョーコ…会えてうれしい。ありがとう… 」
「 お礼なんて…。私も、来てくれて嬉しい。蓮、ありがとう 」
幼い人魚の心に、淡く優しい光に似た想いが育まれていく。
強く蓮に惹かれていく自分の想いを、キョーコがなんとなく理解した瞬間だった。
⇒草原の海 ■7 へ続く
え?◇6のサブタイトルは「身震い」だったはず?…( ̄▽+ ̄*)…うん、そーね…。
でもね、世の中っていうのは、なかなか自分の想い通りには進まないものなの(笑)
色々あれこれと考えた末、結局また「身震い」に手が届かなく…。
そして潔くぶっちぎりましたですよ( ゚ ▽ ゚ ;) うふ♡ ←ぶっちぎってこの長さ…。
これ、今年中に終わらないだろうな~…。
まあ仕方ないよね。
ぼちぼち、頑張るしかないのです!(`・ω・´)キリッ☆
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◇有限実践組・主要リンク◇