私がこの地を去るのは、海を見て、思わず、目を細めてしまったからだとお考えください。生命の起源である海に、どうしても惹かれてしまうのと同じように、恋焦がれてしまうように、故郷への想いが、ついにグラス一杯になってしまったのです。そういう意味では、目を細めていたことに気が付いたからという方が正確なのかも知れません。


こうなる前の私は、故郷とか生まれとか国とか、そこにあるスピリチュアルな類に、辟易する人間でした。しかし、一度そのスピリチュアル性に触れて、まさに霊的に憑かれてしまうと、その想いを払拭することが、払うことが、そう、祓うことが、できなくなってしまったのです。


月並みな言葉で表されてしまうのなら、それは運命とも言うのでしょう。もちろん、私は運命に従って生きてきたつもりは毛頭ありません。ただ、思うに、歩む道を定められているのが運命などというものなのではなく、分岐点で、いや、それに限らず道のど真ん中でも、「あぁ、こっちに進んでみよう」と、何気ない気の迷いで、つま先を変えてしまう瞬間に、運命というものが働いていると思わざるを得ません。


話を本筋に戻しますと、理由やこれといったきっかけを聞かれると困ってしまうのですが、一言で言ってしまうのなら、郷愁です。


私も所詮は、ただの渡り鳥だったということです。