お元気な方で、隣の隣町くらいまでならよく歩かれていたが、耳が遠く、話していても、しょっちゅう「はあ?」と聞き返された。
そのご婦人がおっしゃっていたことで印象に残っているコトバがある。
「ちょっとアナタ、わかる? 朝起きるでしょ、補聴器着けるの忘れるでしょ、そうすると、シーンとしてるのよ! 何も聞こえないの。まるで森の中にいるみたい!」
都会のド真ん中。
昼なお暗いビルの谷間の一軒家に住まわれていた方である。
街の真ん中にいながらにして、森の中にいられるのもおもしろいな、と思いながらお話を伺っていたのだが、ものすごく瞑想的なことなのかもしれない、と後から思った。
補聴器を外しさえすれば、いつでもその状態に没入できるのである。
ひょっとしてこのご婦人は、実は瞑想の達人だったのかもしれない。
※「瞑想」は、必ずしもある特定の状態を目指すものではないという観方もある。
※タイトルは、Morgan Fisherのアルバム・タイトルより。
