いちかの葛藤 | さ・い・お・その隠し部屋

 
やっほー! サキュパスと勘違いされちゃう天使いちかだよ!
 
ある夏の日のこと。
その日は計画年休の消化日だったから、午前中で仕事を終えて、最寄り駅から自宅へ向けて、くそ炎天下のなか帰路についた。
 
途中、お昼ご飯をどしよって思って、近くのマーケットに寄り道する。なんか食べるもんを探すも、食べたいものが見当たらず、その日100ポイントのバックがついてた、サク山チョコ次郎を片手にレジに向かった。
 
稼働しているレジは2機あって、平日の13時過ぎはいつもなのか、たまたまなのかわからないけど、その日は2機ともすでに、2,3人の買い物客がレジの列を埋めていて、けっこう混んでるんだなぁと思いながら、わたしもその後ろへと並ぶ。
 
ひとりのお客が会計を済ませると、列が前進する。合わせてわたしも一歩前へと足を動かした。ふと、レジへ視線を送ると、モタつくふたりの子供の姿を捉える。小学4年生くらいの少女と、1、2年生くらいの少年。なんとなくわたしの目には姉弟のように見えた。
 
少女はなにやら店員と話をしている。
彼女はピンクの小さなお財布から小銭を取り出すと、カウンターの上にそれを並べ、隣の少年へとなにかを言う。すると、彼は小さな手に握りしめていた小銭を、少女に習ってカウンターへ並べはじめた。
 
お姉ちゃんはお財布の中を覗き込んでは、弟の両手をひらかせて確認する。何度かその動作を繰り返すと、弟になにやら事情を説明しているようだった。
 
離れた場所からでも、お金が足りないであろうことはすぐにわかった。弟は納得のいかない表情を浮かべ、お姉ちゃんに抗議をし、お姉ちゃんは焦った表情で、必死に弟を説得している様子だ。そんなやりとりが少しのあいだ続いていると、ふたつ前のお客から、大きな深いため息が漏れる。わたしの耳には嫌味な雑音に聴こえた。
 
レジの商品を見ると、オレンジのジュースとウィダーインゼリーみたいな容器に入ったカルピス。それとゼリーがいくつも入った袋に、おまけ付きのお菓子。金額にしたら6、700円といったところだろうか。
 
次にわたしは、自分の前に並ぶお客の商品に目を落とす。先頭には買い物カゴを持つ年配女性。その後ろにカートをひくお婆さん。どちらもそれなりの量だったことを確認すると、意を決して並んでいる彼女たちを素通りして、レジへ向かった。傍らに掛けてあったレジ袋を手にとり、商品と一緒に店員さんに渡す。
 
『これも一緒におねがいしますw』へらへらすな
 
そう声を掛けると、店員さんはすぐに会計を進めてくれた。なにが起こったのかわからない表情のお姉ちゃんにわたしは、お金しまっていいよ、と告げると、困惑した表情のまま、小銭たちをお財布にしまいはじめた。
 
わたしはPayPayで支払いを済せたあと、子供たちがお金をしまう間を持たせてくれたのか、店員さんもわざわざレジ袋へ商品を詰め込んでから手渡してくれた。
 
わたしは後ろで待つお客に、すみませんと一声かけ、子供たちとその場を離れた。その時の年配の女性のとても不愉快な表情を、わたしは一生忘れることはないだろう。
 
そんな顔しなくてもいいじゃん!
 
と、心の中でそう叫ぶのが精一杯だった笑
 
レジ袋の中から、わたしのサク山さんを取り出したあと、お姉ちゃんへ言う。
 
『お金足りなかったんだよね。これあげるから。もっていって』
 
『あ、でも......いいんですか?』
 
『だいじょぶだよ。今度、こまった人いたら助けてあげてねw』ヘラヘラすなて
 
『あ、ありがとうございます』
 
どこかで聞いたことのある陳腐な言葉しか思い浮かばなかったわたしは、半ば強引にお姉ちゃんへとレジ袋を手渡して、照れ隠しをする。
 
なぜか半ベソの弟も、きちんとお礼を言ってくれた。その姿に思わず抱きしめたくなる衝動を抑えつつ、その場を後にした笑
 
わたしはこの話をだれにも語っていない。
これを書くまでは忘れていたし、わざわざ、話題にしてだれかに意見を求めようと思わなかったからだ。
 
特に善行を尽くしたとは思ってもいないし、そもそも、この行いは善行だったのか、悪行だったのか、それは聞く側の人の捉え方によるところは大きいとおもう。
 
お金が無くて困窮していたわけでもなくて、単純に足りないだけだった。命が危険に晒されていたのでも、だれかの手助けが必要だったとも思えない。
 
もしかしたら、逆に彼女たちの計算をする力と、その機会を奪ってしまったのかもしれないし、つまらない正義感で割り込む自分の行動を、正当化していただけなのかもしれない。
 
そんなことは行動を起こす前に考えていたことだった。だけど、あの時の少女の表情はなんとも言えなかった。大人からのプレッシャーのなかで、少年の抗議を受け、でも足りないお金はどうにもならなくて、諦めるよう説得をする。
 
あのくらいの年齢の子には、あの状況が世界のすべてで、押し潰されそうな重圧を感じ、泣きたくなる気持ちを抑えて必死に対応する。
 
これは大袈裟なんかじゃない。
似たような経験を何度かしたから、なんとなく気持ちがわかるような気がしたんだ。パニックになればなるほど、取るに足らない事でも、狭く小さな世界に感じてしまうこともある。
 
意味のない偽善や、強すぎる自己顕示欲という批判を蹴り飛ばし、わたしの足は決意を固めて動き出した。微笑ましく見守ることのできない、大人の悪意に晒されたあの状況を見逃せなかったから。
 
本当にあそこまでする必要があったのか、わたしの行動は間違っていたのだろうか、そんな思いが何度も頭を巡ったけど、必ず最後にはあの不愉快な表情と、ため息がそれらをすべて打ち消した。
 
そうだ。わたしはあれが許せなかったんだ。
ただの自己満足をした。それでいい。助けたわけでも、感謝をされたかったわけでもなくて、あの年配女性のできない解決を、圧力や批判以外の方法で、わたしがやって退けただけ。そう結論を出すと、わたしの中できちんと納得できた。
 
 
あっ!ポイントつけてもらうの忘れてた!
帰宅途中の道で気付いて、軽く舌を打つ。
 
でも、正規の値段で食べるサク山チョコ次郎も、いつもと変わらず、おいしかった!

 

おしまい笑 またね!