漫画「信長のシェフ」に出てくる料理を、機会があれば再現したいと思っています。といっても、だんだん書いている内に疑問を調べた備忘録みたいになってきました。
第1話 目覚めし場所
品名1 宇治丸のネギ塩焼き 干し大根の味噌和えのせ
記憶喪失の主人公ケンは、フレンチシェフのはずですが、器用に鰻を釘打ちして開いています。そして鰻を開いて食べるようになったのは江戸時代で、それ以前は筒切りにして食べていたから開けば美味しいはずだという蘊蓄を言い出します。
何だかこれに似た話を「将太の寿司」という別の漫画で読んだことがありました。魚は鰻(うなぎ)ではなく鱧(はも)なのですが、、、
私(夫)が鰻を割く機会は一生ないかもしれませんが、干し大根の味噌和えは、脂の濃い魚の付け合わせに応用が利きそうです。
品名2 天下一鴨の汁
ケンが来るまで信長の料理頭をつとめていた井上が、料理頭の座と生命を賭けて作った料理です。漫画の中では古くさい料理と見なされているものの、盛り付けも鴨のつみれと具の取り合わせも、私には美味しそうに思えます。名前が今一つですが。
カラーでないので分からないですが、白髪ねぎみたいにつみれの上にあしらわれているのが金箔の細切りなのでしょうか?
品名3 真鴨のロースト 柿のピュレ 栗と野生のキノコ添え
ケンが、井上との勝負で作った料理です。第1巻単行本の裏表紙には、この一皿がカラーで載っています。鴨のフランベと、同じ山のものであるキノコや栗、柿のジュレを合わせるところが斬新と見なされているようです。
山のもの同士を合わせるのが斬新かどうか分かりませんが、柿をジュレにする使い方は、古事類苑をざっと探した限りでは出てきませんでした。
余談ながら、江戸時代以前のレシピを見ていると、現代よりも栗が具材として使われることが多くて意外な気がします。伊達政宗が正月に食べた三汁十六菜の品書きが残っており、メニューの一つにするめの水和え(干物の膾[なます])が出てきますが、その中には栗が入っています。
品名4 めし玉の湯漬け
ケン「鴨肉そぼろ、人参、大根、キノコをみじん切りにして炒めたもの それをメシに詰めてめし玉にしました」
一見ただの焼きめし(焼きおにぎり)に見えるそのめし玉を、茶碗に置き湯を注ぐ、、、すると芳ばしい炒め具材の湯漬けになるという寸法です。
1939年に宮内庁が「日本五大名飯」に選定したという、島根県のうずめ飯に似ています。レシピはこのサイトが参考になりそう、、、
第2話 初めての客人
品名 棒ダラと大根の葉とレンコンのポタージュ
カルドベルデ(caldo verde)という、「緑のスープ」を意味するポルトガル料理が宣教師ルイス・フロイスに振舞われます。私個人の理解では、カルドベルデの構成要件は、次のようです。
・温かい汁ものである
・緑の葉野菜(ケール等)
・芋(つぶしたジャガ芋、玉ねぎみじん切りなど、スープに濃さを出すもの)
・肉(ミートボールやソーセージ、または鱈の干物)
特にこの鱈の干物(Bacalhau、バカリョウ)が今回のテーマです。
ポルトガル人にとってよほどのソウルフードであるのか、とあるリスボンの観光ガイドは、わざわざ見出しとしてこのバカリョウを作っています。
このサイトの記者は、ポルトガルのバカリョウの歴史は14世紀の大航海時代にさかのぼり、何年も船内で保存がきき、航行中も原料が手に入る点が重要だったと考えているようです。
また、考古学者のブライアン・フェイガンは、大航海時代の幕開けは鱈が目当ての遠洋漁業であり、その背景としてキリスト教会が金曜日に肉食を禁じていたから干し鱈の需要があったと述べています。そうだとすると、ルイス・フロイスも金曜日や四旬節には唯一の動物性タンパクとして干し鱈を食べていたはずです。
(8年前に文庫版をAmazonで買いました。現在はKindle版もあり)
そういえば、第2話冒頭でケンはじゃが芋やさつま芋を探していました。じゃが芋も私の見つけたカルドベルデのレシピにはよく出てきます。レンコンは、じゃが芋の代わりにつぶして入れたのでしょうか?
我が家では、新鮮なレンコンですり流し汁をたまに作りますが、銅のおろし金を使っています。
時代考証上まずいのか、この漫画にはすりおろしたとおぼしき料理は出てきますが、すりおろしている現場が出てこないような・・・。
【2020/7/24追記】
絵をよく見てみると、レンコンはみじん切りになっているようでした。
(私はKindle Unlimitedで読みました)