『転生したら悪役令嬢だったので引きニートになります5』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

一迅社アイリス編集部

一迅社文庫アイリス・アイリスNEOの最新情報&編集部近況…などをお知らせしたいな、
という編集部ブログ。

こんにちは

本日は7月2日発売のアイリスNEOの試し読みをお届けいたします

試し読み第1弾は……
『転生したら悪役令嬢だったので引きニートになります5~大切なものを守るためなら悪女になってみせます~』

著:藤森フクロウ 絵:八美☆わん

★STORY★
愛するお父様の身柄を盾に、マクシミリアン家からの不当な要求を呑んでしまったアルベル。ラティッチェを守るため、そしてお父様を取り戻すため、必ずマクシミリアン家を排除する――強い決意を胸に、アルベルは貧民層の救済、王宮魔術師への助力要請と、味方を増やすべく動き出した。そして……キシュタリア、ミカエリス、ジュリアスを秘密裏に呼び出し、悠然と告げた。「貴方がたには、わたくしの婚約者になっていただきたいの」。
無自覚系天然タラシな悪役令嬢アルベルの一代記、覚悟を決める第5巻!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 音もなくレイヴンが戻ってくると、従僕の時の一礼をして「すべては滞りなく」と恭しく跪きます。
 わたくしの頼み事を完遂したと報告をしてくれました。まずは一安心ですわ。
 三人ともそれぞれ守りが堅いタイプだから、変に怪しまれてしまったらどうしようかと少し心配していたの。わたくしには優しい方々ですが、警戒心が強いのよね。

「そう、ありがとう」
「三人ともいらっしゃるとの返事でした」
「忙しいのに……いえ、呼びつけたのはわたくしでしたわね。ご苦労様、レイヴン。貴方はどこで休むの?」
「身を隠せる場所で」
「そう、よかったら、今後は私の隣の部屋を使って。ちゃんとしたベッドのほうがいいでしょう」
「ですが」
「護衛として、気になる? なら扉は開けておいたほうがいいかしら?」

 すり、と寄ってきたチャッピーの頭を撫でる。
 膝の上ではぷすぷすと奇妙な寝息を立てて、ハニーが眠っている。
 チャッピーもハニーも脱走癖があるため、ケージやベッドに戻してもすぐさまわたくしのベッドに上ってくるのです。可愛いらしいけれど、ダメなのよね。そして、大抵要領の悪いチャッピーがアンナやベラにどやされている。

「そんなことをしては、間違いなくジュリアス様に怒られます」
「大丈夫よ、わたくしがいいと言ったんだもの」
「お嬢様ごと怒られます」

 何故ですの。レイヴンは実力もあるだろうし、信用に足る護衛ですし傍に置くべきですわ。一度は、お父様のお眼鏡に適いわたくしの専属となった数少ない従僕です。
 確かに背の高く精悍になったレイヴンをベビーピンクのフリルたっぷりのシルクの羽毛布団に埋もれさせるのはギャップがある光景でしょう。
 でも、そんなに怒られることかしら。

「せめて鍵は必要かと」
「でも、何かあった時にレイヴンが入れなくなってしまうわ。かといってバルコニーは寒いでしょう?」
「あの程度、蹴破れます。そもそも野外で休眠を取れていましたから、そこまで気になさることでは……」

 それはいいのかしら? 蹴破るのはいいけど、野宿は良くないわ。まだまだ成長期のはずよ、レイヴンは。
 アンナはレイヴンがわたくしの傍にいることを推奨しています。信用できる護衛として。
 とりあえず、鍵はつけて何とか隣室で寝かせることには成功しました。
 翌朝、アンナが何故か嬉しそうでした。なんでも、ジュリアスの反応が楽しみだそうです……何故ですの。何か空気がギスる気配を察知しました。
 わたくしの中ではレイヴンは可愛い弟のような、小さなレイヴンのままなのです。
 前は小柄なピンシャーのようなイメージでしたが、今はブラックのドーベルマンですわね。もしくは猟犬系の野性味としなやかさを感じます……あの黒衣のせいかしら?
 きっと今までの従僕の御仕着せもサイズが合わないわね。新しく仕立て直さなくてはなりませんわ。護衛であれば騎士服? あの黒衣だと影として動くならともかく、今後表に出てもらうにはダメよね。
 まだ身長、伸びたりするのでしょうか。
 羨ましいやら、悔しいやら、嬉しいやらで複雑ですわ。

 冴え冴えとした月が雲に覆われる。
 じっとりとした夜の闇は纏わりつくようで、違和感や不都合なものを隠してくれる気がした。今夜――あと数時間で約束の時間になる。
 ついにこの時が来ました。


 手紙から数日後の、草木も眠る深夜。
 街の喧騒からも遠いヴァユの離宮は、僅かな風音と揺れてこすれた枝葉の音のみが聴こえるだけ。
 その一室でひそやかに招かれた客たちが、それぞれ一人掛けのソファに座っていた。良く磨かれた黒檀のテーブルの上には真っ白なクロスがかかっている。席の前に置かれたティーカップから立ち上る湯気は、芳しい香りを放っている。
 ラティッチェ公爵家子息、キシュタリア・フォン・ラティッチェ。
 ドミトリアス伯爵、ミカエリス・フォン・ドミトリアス。
 フラン子爵、ジュリアス・フラン。
 いつもなら軽口の一つも叩くのだが、今日に限っては誰もが口を噤んでいる。
 こんな時間に呼び出されても、文句一つない――むしろ、こんな時間でないと取れないのは解かっている。
 人目を避けるには、普通の人なら眠っているだろう時間帯を選ばなくてはならないのも。
 通ってきた通路も、本来なら緊急脱出用の隠し通路というべきもの。本来なら、万一のために秘匿されるべきもの。そして、そこまでして呼びつけたのが事の重大さを伝えていた。今回の呼び出しは、万一に相当する事柄の可能性があるのだ。
 僅かな音と共に、現れたのはアルベルティーナだった。
 喪に服すことを表す真っ黒なドレス。基本的に暗いドレスが多かったが、今夜のドレスはまさに漆黒だった。だが、フリルブラウスにバッスルビスチェを合わせたものであり華やかで妖艶である。このまま夜会に繰り出しても、浮くことのない豪奢さ。
 だが、同時に普段のアルベルティーナの好む装いとは違う。黒いドレスは解るが、そのドレスの趣が違う。彼女はもっと大人しく清楚なデザインを好むはずだ。喪に服していない時も、柔らかく淡い色合いを好んでいたため、大きな違和感を覚えた。
 黒髪も左右から編み上げ、後頭部で綺麗にまとめたシニョンになっている。
 彼女を彩るものは金細工一つ、宝石一つないが、その美貌こそが最も比べるものもないほどに圧倒的だった。
 そして何よりも、その表情だ。
 ここ最近はすっかり気落ちしており、憔悴や悲哀の色が濃かった。精神的に追い詰められ暗い表情を無理に隠していた。優しげで儚げで――非常に危うかった。
 しかし、今は深い緑の瞳に静かでありながら、激情を燃やしている。
 優美に弓なりの弧を描く口元や、柔らかく細められた目は微笑えんでいるのに、その奥に宿るものはすべてを呑
のみ込まんばかりの劫火、もしくは激流か。それでいて侵しがたい強さを秘めている。
 だけれど、その姿に強烈な既視感がある。

「お待たせして、ごめんなさいね。では、お話をしていいかしら?」

 青白い火花が散った。
 閃きと、違和感、そして懐かしさ。
 優雅であり恐怖そのもの――魔王の娘がそこにいた。

「貴方がたには、わたくしの婚約者になっていただきたいの」

 おっとりと微笑みながら、とんでもない発言を落とした。

「もうご存じとは思いますけれど、わたくしは喪が明けたらどこの誰とも知らない権力欲の塊と派閥争いと忖度の結果で選ばれた男が宛がわれる予定なの」

 何でもないようにころころと笑う。でもその目は凍てついている、その下には抑圧された感情が渦巻いている。
 知っている。彼女がそれを口にするのも恐れていたのも、知っている。

「わたくしはね、食い荒らされるつもりはないの。わたくしの身に流れる血筋を使って、王家に取り入るのはまだ我慢できたわ。でもね、ラティッチェ公爵家への干渉は許せないの。それだけはダメ。わたくし一人ならよかった。王家だけならよかった。でも、ラティッチェだけは触れさせたくはないの。だからね、貴方がたにはわたくしの大切なモノに集る虫たちを始末してほしいの――方法は問わないから、他の候補者たちを潰して構わないし、なんだったら始末してもいいの」

 歌うように可憐な声が願いを口にする。
 その柔らかな声音に反し、その言葉は重く絶対的だった。彼女の中で、確定事項だった。

「褒美は……色々考えたけれど、わたくしは立場ばかり高くあっても、実権はないわ。確定してあげられるものはない。失敗してしまえば何もない。もちろん、ラティッチェもあげられない。ラティッチェは、キシュタリアに任せると決めているから」

 申し訳なさそうにするが、譲る気配はない。
 三人が一様に口を噤んでいても、ソファに座ってティーカップを細い指で傾ける。
 一人饒舌に喋っていて喉が渇いたのだろう。少し冷めた紅茶が揺れ、小さく白い喉が鳴る。

「だからね、わたくしをあげるわ。確実にあげられるものは、それしかないの。わたくしにまつわるもの、わたくしのすべて、ラティッチェ以外のすべてをあげる」

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

★シリーズ①~④巻好評発売中★
①巻の試し読みはこちらへ――→『転生したら悪役令嬢だったので引きニートになります』を試し読み♪

★コミックス①~③巻絶賛発売中★
詳しくはゼロサムオンラインをチェックアップ
 ↓ ↓ ↓ 
キラキラゼロサムオンライン好評配信中キラキラ

★藤森フクロウ先生 7月、8月連月刊行決定!!★
『梟と番様~怪我した梟さんを助けたら、獣人の王に求婚されました~』
一迅社ノベルスより2024年8月2日発売予定クラッカー

連続刊行記念として、
『引きニート』×『梟と番様』書き下ろしクロスオーバーSSを封入!
(※初回生産限定)

詳しくはこちらをチェック!
藤森フクロウ先生連続刊行記念☆レーベル横断スペシャルコラボ企画!