明後日、6月20日は一迅社文庫アイリス6月刊の発売日です!
ということで、本日も新刊の試し読みをお届けいたします(≧▽≦)
試し読み第2弾は……
『出稼ぎ令嬢の婚約騒動7
次期公爵様は愛妻が守らせてくれなくて心配です。』

著:黒湖クロコ 絵:安野メイジ(SUZ)
★STORY★
まだ夢みたいだけれど、憧れていた次期公爵ミハエルと結婚した貧乏伯爵令嬢イリーナに、新しい命が宿っていることが判明した。実感のないまま、激しい訓練、神形の討伐は禁止! という生活を送っていたある日、無視できない事態に陥ることになり――。
なりゆきで家出の片棒を担ぐことになった新妻と、愛妻に振り回され続ける旦那様のすれ違いラブコメディ第7弾!
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「折角ですし、討伐が見られる喫茶店に行きましょうか」
「はい」
討伐の開始がずれたので、暦では夏なのに、いまだ水の神形の討伐が行われていた。気候を含め全体的にいろんなものがひと月ぐらいずれている気がする。とはいえ折角の討伐に、町はお祭騒ぎだ。
討伐の様子が見られる喫茶店は混雑しているだろうし入れるだろうかと思ったが、そこは公爵家と侯爵家の力が合わさればどんな無理もまかり通る。ようはお金次第ということだ。
といっても無理やり他の客を追い出したわけではなく、元々貴賓席として席料が高めに設定されている場所を利用したということだけど。
「イリーナ様は、ミハエル様が討伐している姿を見たことはあるのかしら?」
「はい。この間も、土の神形の討伐に参加したのですけれど、とても勇敢に指示を出しておりまして、まさに神のような――」
「ん? ちょっと待って下さる? 土の神形の討伐に参加?」
「はっ」
ヴィクトリアが明るいエメラルドグリーンの瞳を半眼にしたため、私は失敗したと自分の口を慌てて押さえた。
私が幼い時に護衛兼傍仕えとして彼女の家で働いたことがあったのでヴィクトリアは私が戦えるということは知っている。そのため、つい気が緩んで口を滑らせてしまった。そろりとヴィトリアを見て、へらっと誤魔化すように笑ってみる。しかし誤魔化されてはくれないようで、眉間にしわが寄っている。
「直近で土の神形となると、もしかしてこの間の地震の関係かしら?」
「あっ、ヴィクトリア様は大丈夫でしたか? とても揺れましたよね? 私、あんなに揺れるなんて知らなくてとてもびっくりしました」
「ええ、ありがとう。丁度王都に向けて出発している時だったからびっくりはしたけれど大丈夫だったわ。それでね、話を戻すけれど、まさかその討伐に参加したの? 妊娠しているのに?」
なんとか話題をそらそうとしたけれど、そらしきれなかった。ヴィクトリアに強制的に話を戻され、私は眉を下げた。
「えっと……その時はまだ妊娠していることを知らなくて……はい。参加しました。重いハンマーを振り回して、土の神形を退治しました。ごめんなさい」
「いや。私に謝らなくてもいいのよ? ただイリーナ様も大きな怪我なく、お腹の子も無事で本当によかったわ。イリーナ様が強いのは知っていますけど、あまり無茶はしないで下さいね」
妊婦が持つべきではないハンマーを振り回したことは白状してしまったけれど、足を怪我したことは黙っておこう。
もう治ってしまったのだからないのと同じだ。私はニコリと笑った。
「ご心配して下さりありがとうございます」
「土の神形の討伐に参加なさったということは、もしかしてイリーナ様は水の神形も討伐したことがあるのではないの? ……そう言えば、臨時討伐武官の募集には性別による選別がなく、女性でもなることができると聞いたことがあるわ」
ヴィクトリア様……鋭すぎます。
何も言っていないのに当てられてしまい、私はへらっと笑った。
「ご想像にお任せします」
「まあ、大っぴらに話せることではないですものね。でも、未成年で護衛業務までしたイリーナ様ならできて当然な気もしますわ」
「ほほほほ。そちらもできればご内密に……」
完全に見抜かれている。何も言わなくてもやっていたことにされて、私は顔を引きつらせた。他にも色々言うべきではないネタは沢山ある。
これ以上余計なことを言うのは止めておこう。
「大丈夫よ。私はイリーナ様が不利になるようなことだけは、決して誰にも言いませんわ」
「ヴィクトリア様?」
どこか雰囲気が変わった気がして、私は首を傾げた。
「私は昔、連れ去られそうになった時に、イリーナ様に助けていただいたことを本当に感謝しておりますの」
「えっと。……そこまで思っていただけて光栄です」
「ですから、イリーナ様だけは裏切りませんわ。絶対に」
彼女を助けられたのはたまたま偶然でしかないけれど、そう言っていただけるのはとても嬉しい。
「……今日はミハエル様の討伐姿が見られるといいですわね」
「それは本当に!」
力拳を作り気合を見せれば、ヴィクトリアは苦笑いした。
「私からミハエル様の話を振っておいてなんですけれど、家でも彼の姿を見ているのではないの? それとも帰りが遅くてすれ違っているの?」
「いいえ。毎日朝晩顔を合わせています。でも武官で働くミハエル様は別腹です」
家でのくつろぎミハエルと、対私の甘えっ子ミハエルと討伐時のりりしいミハエルは別物だ。たとえ素材は同じでも、何度でも美味しくいただける。
私が力強く言うと、ヴィクトリアはくすくすと笑った。
そんな時不意に誰かから視線をもらった気がして、私はなんとなく振り返った。振り返った先には、大きなひさしのある帽子をかぶった、美しい女性がいた。なんだ。エミリアか。
もう一度ヴィクトリアの方を見てから、私は慌てて二度見した。
えっ? エミリア様?
「あら、イリーナじゃないの」
「ご、ごきげんよう」
さっきエミリアのことを思い浮かべてはいたけれど、まさかこんな場所で偶然会うなんて。
エミリアは私と目が合ったため、にこにことしながらこちらに近づいてくる。今日の彼女の服装は一年ほど前に、お忍びで王都内を回った時のようないいところのお嬢様チックな服だった。手には可愛らしい日傘を持っており、小物まで完璧だ。ただし金に輝く鮮やかな髪は結われ、帽子であまり見えなくされていた。
異国の王女様にも王太子妃にも見えない服装だけれど、たたずまいが美しく、お洒落さも群を抜いているため、妙に目立つ美女となっている。
「今日はお友達と一緒なのね?」
「はい。昔からの知り合いで、異国からこちらに里帰りしてこられたので、一緒にお茶をしていました」
明らかにお忍びの姿だけれど、一体どういう状況なのだろう。
私はエミリアの現在のテーマをどう聞き出そうか考える。間違いなくお忍び中なので、王女扱いは駄目だろう。
「今日は観光ですか?」
少し悩んでから、普通のご令嬢でも理由になりそうなものを挙げてみた。身分を隠す気ならば何か反応してくれるだろう。
「違うわ。今日は、家出をしてきたの」
いえで……家出?!
同意が得られる、もしくは別の無難な回答がもらえると思ったのに、彼女から飛び出て来たとんでもない言葉を前に、私は固まる。そんな私にエミリアはニコリと笑いかけた。
~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~
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