『生まれ変わっても君を愛すると言ってくれたのは婚約者の弟でした』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

一迅社アイリス編集部

一迅社文庫アイリス・アイリスNEOの最新情報&編集部近況…などをお知らせしたいな、
という編集部ブログ。

こんにちは!

一迅社文庫アイリス6月刊の発売日が近づいてきました!!
本日は気になる新刊の試し読みをご紹介します爆  笑ラブラブ

試し読み第1弾は……
『生まれ変わっても君を愛すると言ってくれたのは婚約者の弟でした』

著:そらほし 絵:練間エリ

★STORY★
国に豊穣の恵みを与え繁栄させるという宝石眼の乙女。それゆえに毒殺された前世の記憶をもつ男爵令嬢のステラは、今世では引きこもり、王家とは関わらないと決めていたけれど――。貴族の務めとして出席したデビュタントで第三王子・ギルフォードにダンスを申し込まれ、以来積極的にお誘いが! 前世で弟のように可愛がっていた彼の懐かしい面影に絆され、ステラ好みのプランにつられてうっかりデートを重ねていたら、「どうか僕と結婚していただけないでしょうか?」と大勢の前で言い出して!? 逃げたい令嬢とじわじわ囲いこむ王子の前世から続く溺愛執着ファンタジー!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「萌え出る花のように美しい人。どうか僕と踊っていただけますか?」

 一瞬の沈黙の後、阿鼻叫喚——ほとんど女性の声が響き渡る。そしてそれを遠巻きに見ていた人たちは皆、呆気に取られた顔をしている。
 近くまで戻ってきていたお兄様もグラスを持ったまま固まっている。かく言うわたしもその台詞に全く動けなかったうちの一人だ。
 ひたすら目立たないよう、最善の注意を払っていたのに、いったいこれはどういうことなの?
 顔の横を押さえながら目の前の青年にどう対処するべきかを考えていると、爽やかな笑みをたたえているはずの彼の右眉がほんの少しだけ下がった。
 ……この表情、どこかで。
 わたしが首を傾げるのを見て、彼の口元がゆっくりと上がる。そうして、大広間に響き渡るようにはっきりとした声でこう言った。

「申し遅れました。僕はギルフォード・イル・レーミッシュ。魔法騎士団で団長を拝命しております」

 ギ、ギ……ギルフォードぉお⁉ 嘘、でしょう? あの、小さなギルフォードが? え、は?
 たしかに紺色の髪も緑の瞳も記憶の中のギルフォードと同じ色だし、長い睫や形の良い鼻筋も、こうして近くで見れば面影がある。
 いつかはイリニエーレ様の背も抜かしてしまいます、と笑っていた彼だったが、こんなにも逞しい美青年になっているとは……。
 いいえ、彼も二十五歳になるはずだもの……それは、そうよね。……でも。

「あの、お名前を聞かせてもらっても?」
「……っ、はい……ス、ステラ・コートン、です。その、男爵家の……。っ、あ、あの、ギルフォード殿下、お立ちになりますようお願いいたします」

 ギルフォードは魔法騎士団長だと自己紹介したが、れっきとした第三王子で継承権だって持っている。そんなことはこの場にいる者ならば誰でも知っている。
 いつまでもギルフォードの成長に驚いていてはいけない。慌てて立ってもらえるようにお願いするも彼は首を傾げて、はて? というような素振りをする。

「あの……ギルフォード、殿下……。お立ちください、ますか?」
「なぜですか、ステラ嬢?」

 なぜ? そんなことは決まっている。ギルフォードがこの国の王子で、わたしがただの男爵家の娘だからだ。たかが男爵令嬢が王子殿下を跪かせるだなんて図々しいにもほどがある。

「しかし、僕はまだステラ嬢からダンスの了承をいただけていませんから」

 うっ、う……ギルフォード……!
 悪びれもしない誠実な台詞が、今のわたしにはとてつもなく怖い。いつの間にか静かになった大広間では、この成り行きを皆がどうなるのかと注視している。
 目立ちたくないのに……。
 こうなってしまえば断っても受け入れても好奇の目に晒されるのは間違いない。貴族というものはそういうものだと、前世からわかっていることだ。だったら……?
 ギルフォードへと視線を落とせば、爽やかな微笑みを向けられる。
 ダメだ。イリニエーレの記憶を持つわたしもギルフォードのお願いには弱いらしい。

「……その、わたしで……よろしければ」

 ギルフォードの差し出す右手に手を伸ばすと、彼の顔がパッと明るく輝いた。その屈託のない笑顔が眩しくて懐かしさがグッとこみ上げる。

「それではさっそくダンスのお相手をお願いしてよろしいでしょうか? ステラ嬢」

 差し伸べた手を取ると、ギルフォードはそのままわたしの手の甲に唇を落とした。
 ふぇっ⁉ ちょ……ギルフォード?

「ははっ。焦らされたお返しです」
「じ、焦らしてなどしておりません!」
「そうですか? でも大丈夫です。あなたのためでしたら、僕はいつまでだって待てますから」

 そう言うとギルフォードはスッと立ち上がり、わたしの腰に手を回す。その動作があまりにも素早く自然で、気がつけばあっという間にダンスホールへと連れ出されていた。
 ゆったりとした音楽の伴奏が始まると、ギルフォードがわたしの体へとぴったりと寄り添ってきた。
 彼の香水なのだろうか。爽やかなライムとグリーングラスの香りが鼻腔をくすぐる。とても似合っているけれども……。

「あの……ギルフォード殿下……少しばかり体勢が……」

 近い、近い! 顔も、近いのっ!
 身長差があるため見下ろされるような姿勢になっているけれど、ギルフォードが息をするたびにわたしの耳元に彼の息がかかる。

「殿下、もう少し離れていただけると……」
「ギルフォード。そう呼んではくれないのですか?」
「……まさか⁉ 第三王子殿下に、そんな恐れ多い……」

 子どもだった頃ならいざ知らず、婚約者でもないのに成人した王子殿下の名前を呼び捨てにするだなんて……。
 イリニエーレは婚約者であっても、アーノルド殿下の敬称を外して呼ぶことは許されなかった。それなのに、どうして一介の、しかも今日会ったばかりの男爵家の娘が呼べるのだろうか。
 無理です、絶対に無理。前世を懐かしがって心の中で呼ぶだけならまだしも。
 全力でお断りをさせてもらうと、またギルフォードの右眉が小さく下がった。他の人にはわからないほどの微かな違いだけれども、わたしにはわかる。
 これはギルフォードが寂しい気持ちを抑え込んでいるときの表情だ。
 ううう……うう。どうなの? どうしよう……。いや、でも。

「あー……。ギルフォード様……で、よろしいでしょうか?」

 わたしの返事にギルフォードは満足したようにふっと笑った。
 今だけ、今だけだ。どうせ宮殿を出てしまえばわたしはいつもどおりの引きこもり生活に戻るし、ギルフォードだってすぐに魔法騎士団長として魔物の討伐に出発するだろう。
 きっと何かの酔狂だ。その相手にわたしが選ばれたのはなんとなく因縁めいた感じもしないではないけれど、少しだけ……そうほんの少しだけ、昔を思いながらダンスを楽しんでみよう。
 始まりのステップを踏み出して目を合わせると、思わずダンスの練習相手になったときの小さなギルフォードの真剣だった顔を思い出してフッと笑いが漏れた。

『イリニエーレ様、僕のステップ遅れていませんか?』

 一生懸命背伸びをしてイリニエーレに合わせていたギルフォード。今はむしろ成長した彼の長い足がわたしを軽やかに踊らせてくれる。

「ステラ嬢、ダンスがとてもお上手ですね」
「いいえ、全て殿下のエスコートのおかげでございます」

 前世を含めても、これほどのびのびと踊れているのは初めてだと思う。
 本当に大人になったのだなあとギルフォードの成長を噛みしめながら、わたしは最初で最後になるだろうダンスを楽しんだ。
 そうして一曲踊りきると、向かい合って挨拶となる。重ねた手を離そうとしたところ、グイッと引っ張られてギルフォードの胸に体が飛び込んでしまった。引き締まった体躯がわたしをしっかりと抱きとめる。彼の香りが一段と匂い立った。

「……え?」
「では、ステラ嬢……いいえ、ステラでよろしいですね。また今度お目にかかりましょう」

 ふわりと体が反転したと思ったら、そのまま側に来ていたお兄様へとわたしを預け、ギルフォードはするりと大広間から去っていった。
 あの、またって……? ええっ⁉

 どうして? 何で、ギルフォードはわたしをこんなにグイグイ押してくるのよっ⁉

~~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~~~