『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。7』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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こんにちは!

本日はアイリスNEO8月刊の試し読みをお届けしちゃいます!
о(ж>▽<)y ☆

試し読み第1弾は……
『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。7』

著:天壱(てんいち) 絵:鈴ノ助

★STORY★
ゲームのラスボス女王・プライドに転生した私。悲劇を未然に防ぐ為がんばった結果、未来は変化し早まった同盟国の防衛戦を勝利に導くことに。同盟した国々との関係も良好で、はじめは最悪な印象だったサーシス王国のセドリック王子との関係も良い調子みたい。フリージア王国に戻り束の間の穏やかな日々を過ごす中、私は密かにあるサプライズ計画を進めてーー。 気づけば、周囲に物凄く愛されている悪役ラスボス女王の物語、第7弾登場!

2023年7月よりTVアニメ放送中!!
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コミカライズ新章、コミックゼロサムにて連載中!!

コミカライズ①~③巻発売中!


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 チャイネンシス王国、サーシス王国との国境。そこに私達が到着した時には、既に大勢が溢れ返っていた。貴族も、民も、兵士も変わらず入り交じり、酒を酌み交わしながらジョッキや瓶を仰いで今か今かと合図を待ち続けていた。馬車を降りた私達も人混みに加わり、それを見上げた。
 チャイネンシス王国とサーシス王国、二国を隔てていた国境の壁だ。
 ヨアン国王……チャイネンシス王国がサーシス王国を戦火に巻き込まない為に築いた壁だ。終戦後には民もお構いなく登って乗り越えたり部分的に崩れた壁の隙間を潜り抜けていたらしい。現に今も子どもから大人まで軽々と壁の上に乗り上がって手を振ったり、酒瓶片手に仁王立ちをしている。だけど、正式に壁を破壊するのは今この時だ。
 ガラァンッ……ガラァァン……ゴォォンッ、と。突如チャイネンシス王国の鐘が一斉に鳴り始めた。城に併設された鐘だけじゃない、呼応するようにチャイネンシス王国中の鐘が鳴り始めた。途端に誰からともなく「おおおおおおおおっ!!」と咆哮が轟いた。壁の最前に立っていた人達が嬉しそうに持っていた酒を放り投げると、代わりにハンマーを手に取った。
 大きく掲げ壁に向かって振り下ろすと、殆ど同時に壁の向こう側からも同じくらい激しい衝撃音が響いた。一人が数度ハンマーを振り下ろすと、また別の力自慢にハンマーを譲り渡す。国を隔てるほど果てしなく長い国璧を、国民が挟むように取り囲み一斉に壊し剥がしにかかる。
 もともと急拵えで作られた壁だからか、数人繰り返すうちに容易く崩れ大穴を開けた。互いの姿が見えたことに興奮し、更に壁を叩く音が増していく。チャイネンシス王国の民がサーシス王国側から壁を叩き、サーシス王国の民がチャイネンシス王国側から壁を剥がす。
 大人も子どもも男も女も民も貴族も兵士もそして、王族も。

「お願い致します、ヨアン国王陛下」

 兵士から仰々しく手渡されたハンマーをヨアン国王が手に取った。さらりとした白髪に金色の瞳、細縁眼鏡をかけた彼は、今私達がいるチャイネンシス王国の国王だ。ヨアン国王は一瞬だけ重そうにふらついた後、すぐに両手で握り直し、壁に向けて振り上げた。周囲の民が歓声を上げながらヨアン国王の一挙一動に目を丸くする。
 中性的な顔つきを男らしく力強い笑みに満たし、次の瞬間には勢いよくハンマーを振り下ろす。ガンと鈍い音の後、向こう側からも応えるように壁を強く叩く音が聞こえてきた。薄くなった壁を通して向こう側の歓声も聞こえてくる。ガン、とこちらが叩けば反対側からもハンマーの音がまた返る。交互に壁を叩き合っていくうち、とうとう先に向こう側からのハンマー音と同時に壁がベコッと抉れハンマーの一部が顔を出した。途端に民が沸き、ヨアン国王が汗を滴らせながら「ははっ」と笑ったのが見えた。金色の瞳が眩しいほどに輝いている。
 向こう側からのハンマーが引かれると同時に再びヨアン国王が勢いよくハンマーを振り下ろした。ガゴンッと音が鳴り、貫通された穴がまた大きくなった。一際大きな歓声が響き、ヨアン国王も楽しそうに笑いながら額の汗を自分で拭った。
 そうしてとうとう穴が完全に貫通されると、ヨアン国王の背後に控えていた兵士達がハンマーを手に穴を一気に広げ始めた。反対側でも同じことが行われているのだろう。屈強な兵士総動員の結果、あっという間に人一人が潜れるほどの大穴があけられた。そこから現れた人物に再び歓声が上がる。

「ヨアン! 久々の肉体労働は堪えたか?!」

 快活に笑うランス国王が同じように汗を滴らせながらチャイネンシス王国に踏み入った。前髪ごと後ろに流す金色の髪も今は少し垂れている。燃えるような赤い瞳を持つ、サーシス王国の国王だ。
 ランス国王の背後にセドリックも続き、握手を交わし合うランス国王とヨアン国王の姿を一歩引いた位置から見守っていた。国王二人の握手に民の歓声と拍手が波のように激しく沸き続ける。
 国同士の開通。ここからランス国王は一度チャイネンシス王国に、その後はヨアン国王がサーシス王国にそれぞれ訪問する。国王が揃ったことでイベントとしてはこれが正式には最後だ。でも破壊しきられず残っている壁に民はハンマーの他にも各自で持ち込んだ工具を振るう手をまだ止めない。壊せ、剥がせ、貫通させるぞ! と怒声にも似た声量でこの上なく楽しそうに壁を壊す。

「どうぞ、宜しければプライド第一王女殿下も」

 ヨアン国王が自ら私へハンマーを手に歩み寄ってきてくれた。思わず「えっ?!」と声を漏らして聞き返すとすかさず「ステイル第一王子殿下、ティアラ第二王女殿下、……そして騎士の方々も是非」と笑ってくれた。まさか国としての決定的瞬間に私達まで加えてくれるなんて。
 遠慮より先に嬉しさが勝って、確認するようにステイルや騎士団長に目を向けてしまった。二人に目で許可を得て、私はハンマーを握る。すごく重いから若干引きずるようにして歩けば、民が道を開けてくれた。その真ん中を歩き壁の薄い部分を狙って振り上げようと力を込めるけど、重過ぎて完全には振り上げられず数十センチ浮かせるだけで精一杯になる。それでも第一王女として格好をつけたい欲と、さらにどうしても参加したい欲だけを糧に思いきりそのまま振った。
 カツン、と少し拍子抜けした音と共にハンマーが壁にぶつかりそのまま地に突き刺さる。穴は全くあかなかったけれど、皆の歓声が身に染みるほどに温かかった。
 もう数回持ち上げようとしたら、腕力が結構限界だった。それでも負けまいと力を込めたらふいに腕が軽くなる。何かと思って振り向くと、ティアラとステイルが一緒に私のハンマーを持ち上げてくれていた。まるで前世の餅つきのようなポーズではあるけれど、お陰で今度こそちゃんとハンマーを振り上げ三人でもう数回ハンマーを叩きつけることができた。ガツッ、ガツッと壁に力強い音が響き、主にステイルのお陰でやっと壁に穴があけられた。
 更に歓声が強まり、第一王女としてやりきれたことが嬉しくて汗を拭うのも忘れて笑った。

「さて、……ですがプライド第一王女の威厳の為にもこれだけでは終われませんね」

 突然ステイルが、やりきった感いっぱいの私からハンマーを回収した。何かと思ってティアラと同時に振り返れば、ステイルがにっこりと笑顔で私達に笑みを返してきた。

「プライド第一王女の力、ここに示して頂きましょう。……我らが近衛騎士の力をもって」

 そう言うとおもむろに私の背後に控えてくれていたアラン隊長にハンマーを手渡した。第一王子であるステイルからの命令にアラン隊長は少し驚いた表情をした後、ニカッと楽しそうに笑った。
 周りの騎士達も歓声を上げる中、アラン隊長は騎士達のほうを振り向くとアーサーを名指しで呼んで私の背後を任せてくれた。そしてハンマーを片手で持ち、壁に向かい思い切り振り上げた。
 ドガァッ!! と耳を直接殴られたような破壊音が響き、たった一度で壁に大穴があいた。更に数回振り下ろせばあっという間に子ども一人潜れるくらいの穴になる。流石アラン隊長。
 騎士達やそれを目撃した民からも歓声が上がる中、アラン隊長は笑いながら手を挙げて歓声に応えた。そのまま今度はアーサーにハンマーを手渡す。俺もですか?! と言わんばかりのアーサーに、アラン隊長はその背中を遠慮なく叩いて壁のほうへと送り出した。騎士達からも行け行けと楽しそうな声が送られる。ステイルもその様子にすごく楽しそうに口端を引き上げていた。
 少し戸惑った表情をしたアーサーも、最後は覚悟を決めたように私達に背中を向けると壁に向かって駆け出した。アラン隊長よりも勢いをつけるように壁よりかなり手前で跳ね上がるとハンマーを剣のように振り上げ、上部に叩きつけた。
 ドガッッ!! とまた大きな破壊音が響いたと同時に大穴があく。着地した直後にはハンマーを今度は別の壁面に向かって数回振り下ろした。ガンッガンッとアラン隊長よりは回数があったけれど、それでもたった数回で見事に大穴を壁にあけてしまった。
 歓声を受けるアーサーがハンマーを片手に「エリック副隊長は御不在なので……」と、今度はカラム隊長に手渡そうとした瞬間。
 ロデリック騎士団長が、そのハンマーを横から掴み取った。
 銀色短髪蒼目の騎士団長はアーサーの父親だけど、ものすごく厳格な人だ。まさかの登場に騎士達全員がざわつくしアーサーもぽかんと口を開けている。私も驚きのあまり目を皿にして向けてしまう中、騎士団長はハンマーを手に私達へ身体ごと向き直った。

「今回、エリックが負傷したのは私の責任でもあります。なので、ここは私が代わりに」

 おおおおぉぉおおおおっ?! と騎士達から嬉しい雄叫びが上がる。騎士団長がこういう力比べのようにも見えるものに自ら参加してくれるなんて滅多にない。壁の前まで歩む騎士団長の背中に、次第にアーサーの目まで輝き出した。騎士団長が出るぞー!! と騎士達から叫び声が上がると、更に多くの人達がこちらに注目した。壁へハンマーを振るう人達も一度手を止めてしまう。貫通した先から騎士が壁向こう側の人達に「危ないので下がって下さい!!」と声を荒げた。騎士団長が壁の前に立った時にはすでに大勢の人達が距離をあけていた。
 無言でハンマーを振り被る騎士団長は、片足で地面を強く踏みしめる。そして大きく縦に振り下ろしたその瞬間。ズガンッッ!!‌!! と地響きのような音をたてて壁に大穴があいた。……騎士団長一人が余裕で潜れるような大穴が。
 騎士達の興奮が一気に最高潮になったように声が弾み、「流石です!!」と口々に騎士団長への賛辞が飛び交った。信じられないのだろう光景に目を白黒させるハナズオの民は「あれが特殊能力か?!」「今何が起こった?!」と声を上げている。壁の向こう側にいるサーシス王国側からも同じような騒ぎ声が聞こえてきた。

「……お見事です、騎士団長。…………本っ当に」

 あまりに凄まじ過ぎて口元が引き攣ったまま笑ってしまう。カラム隊長に軽い様子でハンマーを手渡した騎士団長からは「ありがとうございます。ですが、大したことでは」と短い謙遜の言葉が返ってきた。ハナズオの兵士よりも遥かな威力を見せたアラン隊長やアーサーを余裕で凌ぐ破壊力だ。騎士団長のこの威力を凌ぐ人間なんてきっといないだろう。これでまさか実際は腕力とは関係ない斬撃無効化の特殊能力者だなんて誰も思わない。……あれ? 特殊能力――……。
 ドッガァァアアアッ!!‌!!
 今までで一番大きな衝撃音と振動が、肌を揺らした。一瞬、また投爆でもされたのかと本気で思った。驚いて壁のほうに振り向くと、騎士団長が壊した壁とはまた別の壁が丸ごと崩れ落ちる瞬間だった。一箇所の亀裂が広がり全体に及び、雪崩のように壁が崩落していった。

「……流石、カラム隊長」

 感心したようにステイルが賞賛の言葉を漏らした。……そうだった、カラム隊長の〝怪力〟の特殊能力こそこの場では最強だった。怪力の特殊能力でハンマーを一振りしただけではない、どれくらいの力をどうやってどの場所に集中すれば良いかも計算した上での渾身の一撃だ。たとえ同じ怪力の特殊能力者でも同じようにあのハンマーだけで壁を一撃粉砕するのは難しいだろう。
 騎士達はもう大盛り上がりだ。カラム隊長の特殊能力を知らない民も目を丸くしながら歓声を上げている。騎士の中でも比較的に細身のカラム隊長が壁を崩壊させるなんてイリュージョンの域だろう。壁の向こう側の人達もちゃんと避難させた後で本当に良かった。というかカラム隊長が敵勢力じゃなくて本当に良かったとつくづく思う。

「ちゃっかりハンマーは壊さないのがお前だよな」
「その程度の制御はして当然だ」

 アラン隊長が軽く右手を掲げたままうんうんと頷くと、カラム隊長が手の甲だけで軽く当てて返した。どうやらカラム隊長の本気はこれ以上らしい。
 壁が広範囲で崩れ落ちきった後、一気に互いの民が交差し合った。カラム隊長が恭しくハンマーをチャイネンシス王国の兵士に返却すると、他の騎士達も何人かが火がついたようにまだ聳え立っている壁に駆けていった。やはり力自慢には黙っていられないイベントだ。流石に特殊能力なしで騎士団長を越えられる人はいないだろうけれど。
 無事に私やティアラ、ステイルの分も力を示してくれた騎士達のお陰で、滞りなく壁の撤去作業が進んだ。わいわいと我が国の騎士達も加わったことで、更にお祭り感が増した壁の撤去はどこからも騒ぎ声が耳を埋めた。そろそろ私や王族は城に戻る頃かしらと思ったその時。

「プライド第一王女殿下!!」

 何百もの騒めきを超える快活な呼び声に振り向けば、ランス国王だ。ヨアン国王そしてセドリックと共にこちらまでわざわざ足を運んでくれた。国王とセドリックの名を呼びながら正面から迎えれば、ステイルとティアラも私の一歩引いた位置に並んでくれた。

「この度は祝勝会参列だけではなく、このような場にも足を運んで頂き感謝致します」
「いえ、こちらこそこんな素敵な場に立ち会わせて頂きありがとうございました。この後もどうぞ宜しくお願い致します」

 ランス国王からの挨拶に私からも答え挨拶を返す。ざわざわと周囲の騒めきでこんなに至近距離で話してもお互いに耳を澄まさないと聞き取れない。私の傍にいてくれるステイルとティアラやアラン隊長とカラム隊長は聞こえるだろうけれど、きっとそれより離れた人にはさっぱりだろう。

「本当に、ハナズオ連合王国と同盟を結ぶことができ嬉しく思います。遠き地ではありますが、是非我が国にも機会がありましたらいらっしゃって下さい」

 母上も心からお待ちしていますと続けると、国王二人がそれぞれ優しい笑みで頷いてくれた。

「同盟時の契約通り、我がハナズオ連合王国は国内が完全に整い次第、フリージア王国との貿易を開始します。それ以外でも何か我が国にできることがあれば、何でも仰って下さい」
「フリージア王国への大恩は必ず返させて頂く」


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。』シリーズ①~⑦巻好評発売中!
①巻の試し読みはこちらへ――→『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。』を試し読み♪
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『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。』特設ページ♪

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