『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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という編集部ブログ。

こんにちは!

アイリスNEO6月刊の発売日までもうすぐ!
ということで、今月も試し読みをお届けしますо(ж>▽<)y ☆

第1弾は……
『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。』

天壱(てんいち):作 鈴ノ助:絵

★STORY★
8歳で、乙女ゲームの極悪非道ラスボス女王プライドに転生していたと気づいた私。攻略対象者と戦うラスボスだから戦闘力は高いし、悪知恵働く優秀な頭脳に女王制の国の第一王女としての権力もあって最強。周囲を不幸にして、待ち受けるのは破滅の未来!……って、私死んだ方が良くない? こうなったら、攻略対象の悲劇を防ぎ、権威やチート能力を駆使して皆を救います! 
気づけば、周囲に物凄く愛されている悪役ラスボス女王の物語。

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「大丈夫か」
「はい、急に頭が痛くなって……」
「医者からは命に別状はないとの話だが……ローザもとてもお前を心配していた」

 ローザ、それが母上の名前だ。この国の女王。この国で最高権力者は父ではない。私の母上、ローザ・ロイヤル・アイビーこそがその人だ。女王の公務で私は殆ど母上に会ったことはない。公務で忙しい、本当はお前に会いたいといつも言っていると父上は話してくれていたけれど、今ならわかる。本当の理由は…………

「父上」

 ん、なんだい? と寝ている私の顔を覗く父上を目だけで捉える。

「私には六歳になる妹がいたのね」
「!?」

 そう、ここがゲームの世界ならばもう存在している。ティアラ・ロイヤル・アイビー。私の二つ下の妹、この国の第二王女でありそして……この世界の、主人公が。
 前世の記憶を取り戻したばかりだった私はまだ、この発言の重大さに気付いていなかった。

「何故それを……?!」

 父上がここまで驚愕したのを見るのは産まれて初めてだった。
 ……あれ? でもこれ、どこかでみたような……

「まさか、お前はもうローザと同じ〝予知能力〟を……?! 倒れたのもそれが原因か!!」

 まじまじと私の顔を覗き込み、そっと額に掛かる髪を撫でてくれた。父上譲りの深紅色と母上譲りのウェーブがかった髪だ。

「嗚呼……おめでとう、プライド。我が国の正真正銘、第一王位継承者よ」

 そう言って目にうっすらと涙を浮かべた父上はにっこりと笑ってみせてくれた。でも、その父上の笑顔とは真逆に私は自分のやらかした発言に言葉が出なくなっていた。金魚のように口をパクパクとさせては叫ばないように必死で堪える。
 そうだ、今の私の発言……ゲームで見たプライドの幼少回想シーンそのままじゃない!!
 この乙女ゲーム「君と一筋の光を」の舞台は〝フリージア王国〟という大国。世界で唯一、特殊能力を持った人間が生まれる不思議な国だ。
〝予知能力〟…………数百人に一人の確率で産まれるという特殊能力者。中でも貴重とされたのが、その国の王位継承者だけが授かるという〝予知能力〟。特殊能力は人それぞれ違いはあるものの予知能力だけは数十年に一度、王族にしか覚醒しない。その多くは第一王位継承者である人間、特に女性が授かってきており、フリージア王国ではこの予知能力を得た人間を〝次なる王の啓示〟として、次の王位を継がせることが、ならわしとされている。
 ゲームではプライドが八歳の時に急に倒れ、目を覚ましたらまだ秘密にされていた妹の存在を言い当てた場面があった。父親が妹のことをプライドに明かそうと決めた日のことだ。それこそがプライドが予知能力を、そして王位継承権を得た瞬間だった、と。
 もうまんま今の状況じゃない!! これを語った攻略対象者には「それがこの国の悲劇の始まりだった」とか言われてたし!!
 喜んでくれる父上には申し訳ないけれど、ゲームの通りに進んでいるであろうこの状況に改めて絶望するしかなかった。何とか金魚状態から予知能力ではないという言い訳を探そうにも良い案は出てこない。父上はそんな茫然とする私に一頻り喜んでくれた後「今はゆっくり休みなさい。まだお前にはわからないだろうから後で話そう、妹の……ティアラのこともな」と言って母上に伝えに行ってしまった。父上と入れ替わりに部屋の外に出ていた衛兵や侍女達が入ってくる。

「妹…………」

 周りに聞こえないように小さく呟いて今度は庭を見下ろせる部屋の窓の方へ顔を向ける。

「もう……全部知っているのに」

 気高く思慮深い母上と、その母を補佐する心優しい王の父。その両親の思慮深さと優しさを受け継いだのが私の妹、ティアラ・ロイヤル・アイビー。第二王女であり、この乙女ゲームの主人公。産まれた時から身体が弱く、暗殺や誘拐の危険から六歳の誕生日までその存在を秘匿されていた、かよわくも可憐なお姫様。家族でありながら幼いプライドもまたその存在をずっと知らされていなかった。
 ティアラ……見るからに高飛車な名前のプライドと違い、なんて愛らしい名前なのだろう。だめだ、八歳の身体で感傷的になってしまうと涙が出てくる。極悪非道のラスボスにこんなのは似合わないわと、私は涙と一緒に鼻が垂れそうなのをズズッとすすって堪えた。
 ……そう、私はこの世界のラスボスだ。主人公や攻略対象者の宿敵であり、極悪非道の自己中女王となるのがこの私、プライド・ロイヤル・アイビー。そして、ゲームのどのルートであろうと必ず攻略対象者や主人公に断罪され死ぬ悪役、言い換えればラスボスだ。まぁバッドエンドでは逆にティアラか攻略対象者が死ぬんだけど……。だからって、この前世の記憶のチートを活かしてバッドエンドに持っていこうという気にはなれない。何故ならそれほどまでに主人公のティアラと攻略対象者は善人で、ラスボスであるプライドは死んで当然レベルの極悪非道な女王だからだ。
 〝キミヒカ〟は大好きなゲームだけど、プライドのことは私を含めて百人中百人が好きにはなれないと言うだろう。特に攻略対象者が好きなら好きに比例してプレイヤーに嫌われる。そのプライドに今私がなっているのだと思うと腹が立ってくる。思わずいつもの調子でベッド脇にあるミニテーブルをガンッと足で蹴飛ばすと横にいた侍女の肩がビクッと跳ね上がった。

「あ……、…………ごめんなさい」

 しまった、こういうのが極悪女王になる積み重ねなのよね……そう思いながら謝ると、テーブルを無言で立て直した侍女が目を丸くさせた。口だけはか細く「とんでもございません……」と答えてくれるけど、明らかに動揺している。
 そりゃそうよね、今までの私は父上がいないと我儘放題で何人もの侍女をクビにしたり、罰を与えてやる、死刑だと喚いたりもしたのだから。勿論、罰や死刑に関しては父上の手で全部止められていたけれど。それでもいつもならテーブルを蹴り飛ばしたところで「早く立て直してよ!!」と逆にぎゃあぎゃあ騒いだだろう。でも正直、前世の地味な庶民根性と倫理観が戻ってきてしまった上に自分の成れの果てを知った今はとてもそんなことはできない。大体プライドは予知能力なんてすごい力を目覚めさせておきながら、ゲームの中で全く良いことに役立てていない。むしろ、攻略対象者を嵌めたり、悲劇が起こることを予知しても高みの見物をしたり……今回の予知だって、妹がいたことを予知するくらいならもっと別のことを予知してくれれば。たとえばそう、父上の――……

「あっ!!」

 はっとして私は勢い良くベッドから飛び起きる。部屋にいた侍女がみんなで振り返り、扉の外の衛兵までもが飛び込んできた。口々にどうかなさいましたか、お加減でもと侍女や衛兵が集まってくるけどそれどころじゃない。

「父上はどこ?!」
「王配殿下ならば、先ほど女王陛下へ御報告に向かわれましたが…………」

 まずい、このままじゃ……

「今すぐ止めて!! 馬車に乗せちゃダメ!!」
「は……女王陛下ならば王室にいらっしゃるので馬車の必要は無いと」

 駄目だ第一王女の侍女とはいえ、女王の突発的な予定まで把握している訳ではない。特に今までずっと倒れた私につきっきりになっていたのだから。
 窓から身を乗り出すと庭園が見える。そしてその手前に馬車が停められていて、今まさに父上がそこに乗ろうとしていた。女王である母上が急用の公務で城下に降りた為、それを追う父上の為に用意された馬車だ。
 だめ、その馬車に乗ってはいけない!

「父上ーー!!」

 力の限りそう叫ぶと父上の足が止まり、呑気に手を振っていた。違う、見送りじゃない。馬車に乗っちゃだめと言ってもきっと子どもが駄々をこねているとしか思ってもらえないだろう。
 …………ならば。
 窓枠に足を掛けて身を乗り出す。父上もさすがに驚いたらしく完全に私の方へと向き直った。
 さすが第一王女の部屋。一軒家の屋根よりも高いだろう。ラスボスに成長したプライドならばともかく、ここから八歳の子どもが飛び降りれば大怪我では済まないかもしれない。

「姫様?! おやめ下さい姫さ」
「来ないで! 止めたら許さないから!!」

 我儘宜しくに侍女へと怒鳴り返し、完全に窓枠の上に仁王立ちする。一度でもふらついたらこのまま真っ逆さまだろう。風が向かい風になって真正面からぶつかってくる。長い髪が顔や首に絡みついてきて息苦しい。父上が下から「やめなさいプライド!!」と血相を変えていた。
 良かった、完全に私に注目してくれた。
 落ちないように柱を片手でしっかりと掴み、大きく息を吸い込む。父上に、声がはっきり届くように。

「父上! その馬車に乗ってはいけません!! その馬車は車輪が壊れています! 貴方は母上に会う前に事故に遭います!!」

 遠目からでも父上が驚いているのがよくわかった。本日二度目の驚き顔だ。全部言い切った途端、後ろからにゅっと鎧の手が伸びてきた。衛兵だ。気付いた時には身体が捕まり、部屋の中に引きずり込まれてしまった。一瞬のことでポカンとしていると、窓の外から父上の「直ちに車輪を確認しろ!!」という叫び声が聞こえてきてほっとする。
 良かった、これで一安心だ。
 ゲームの中でプライドの父親はプライドの無事と予知能力覚醒をいち早く女王に伝える為に馬車を出し、そこで壊れた車輪のせいで事故が起こり大怪我をする。即死は免れて城に運ばれた時には虫の息で、女王が戻るまで繋ぐのが精一杯だった。そして死の際にプライドの予知能力の覚醒を女王に伝え、息を引き取ってしまう。
 ゲームでプライドは父親の事故は予知できなかった。でも私は前世でゲームを知っていたから未然に引き止めることができた。…………良かった、本当に良かった。
 そこまで思っていると、私が抵抗をしなかったからか衛兵の手が緩められた。はっと気がつき、部屋を見回すと思わず「ひっ」と変な声が出た。私を止めようとして逆に怒鳴られた侍女が、その場でうずくまって泣いている。周りの他の侍女達もその場から動けないようで立ち尽くし、全員顔を青くしている。そして私を部屋へと回収した衛兵だけが「お怪我はございませんか」と声を掛けてくれた。その声に返事をする前に、今度はうずくまっていた侍女の前に少し年配の侍女が割って入ってきた。その場に平伏して「も、申し訳ございません!! この娘は行く当てもなく、この無礼をどうか、どうか…………」と身体を震わせながら何度も謝っている。
 まずい、これはさすがにやり過ぎたかもしれない。
 私は今第一王女。そして前世の記憶を取り戻す前はかなりの我儘娘だった。そんなのが「止めたら許さない」と怒鳴ったのだ。そして、衛兵によってすんなり止められてしまった。侍女からすればどんな八つ当たりで罰せられるか想像するだけでも恐ろしいのだろう。
 …………怖がらせてしまった。また、プライドの、私の我儘でこんなにも…………

「ご……」

 考えれば考えるほど頭がパニックになる。よく考えれば衛兵もプライドに罰せられることを覚悟の上で止めに入ってくれたのだろう。大事な女王と王配の愛娘である私の為に。

「ご……ごめんなざい〜!!」

 感情が八歳の身体に引きずられてしまったからだろうか。何か苦しいものが込み上げてきたと思えば涙が止まらなくなってしまった。衛兵も侍女も皆おろおろしている。父上が血相を変えて部屋に戻ってきてくれるまで、私はひたすら泣きながら迷惑を掛けた侍女と衛兵みんなに謝り続けた。
 十八年生きてきた前世の記憶があるからよくわかる。権力を持つことの恐ろしさ。それに振り回される人の辛さ。あとたった十年の命だけど、このことだけは忘れないようにしたい。
 私は、この国の第一王女なのだから。


 泣きわめく私を父上が宥めに宥めて、やっと喋れるようになってからもう危ないことはしないようにとお咎めを受けた。車輪を確認させたところ一つにヒビが、もう一つの車輪は取りつけに不備があったことを教えてくれ、私が予知能力でそれを知ったと話したら「お前は私の命の恩人だよ、ありがとう」と言って抱きしめてくれた。そうされた途端、また涙腺が緩んで声と一緒に涙が止まらなくなった。
 その後、城に帰ってきた母上に父上は事のあらましを全て説明してくれ、女王が知ったことで私が王位継承者となったことが大々的に国中へと伝えられた。侍女と衛兵に関しては事情を聞く父上と彼らとの間に思いきり割って入り、私が悪いのです、この人達は私の身を案じてくれました、罰なら私が受けますと訴えた。父上も最初から罰する気はないとのことで、結果的にお咎めは全員なしで済んだ。
 その夜、久しぶりに父上は私が眠るまで傍にいてくれた。そのまま、まるで昔話を語るようにゆっくりと妹のティアラの存在を話してくれた。妹がいることを私に今日話すつもりだったこと。一ヶ月後のティアラの誕生日に会えること。身体が弱いティアラと公務の為に母上がなかなか私に会えなかったこと。そしてどんな女の子なのか。何度も何度も父上と母上譲りの私の髪を撫でては話してくれた。

「だが、お前もティアラも私達の大事な娘であることに変わりはないよ」

 そう言ってくれた時の父上は本当に優しい目をしていた。
 そう、その言葉だ。父上が生きて、この言葉をプライドに語りかけ続けてくれたらあそこまで捻くれは――……したかしら、やっぱり。この時点から既に我儘放題だったもの私。
 最後に私も正式な王位継承者として学ぶことが格段に増えるという話から帝王学や民俗学、礼儀や儀式の話で段々と眠くなってきた。最後に女王となるお前の補佐として弟を早く養子に――……というところで意識が途切れた。
 あれ…………弟……??


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~