『引きこもり令嬢は話のわかる聖獣番6』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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という編集部ブログ。

こんにちは!

今週20日は、一迅社文庫アイリス5月刊の発売日♪
ということで、今月も新刊の試し読みをお届けいたします(≧▽≦)

試し読み第1弾……
『引きこもり令嬢は話のわかる聖獣番6』

著:山田桐子 絵:まち

<STORY>
「実家で過ごすというのは、どうだろうか」
聖獣のお世話をする「聖獣番」として働いている伯爵令嬢ミュリエル。夏バテで聖獣たちがそっけなくなったある日。婚約者である色気ダダ漏れなサイラス団長から、訓練も兼ねて避暑地へ向かうという話が! これで聖獣たちも元気になると喜んでいたけれど、その間、聖獣番は休みだと言われ――。
引きこもり令嬢と聖獣騎士団長の聖獣ラブコメディ第6弾!

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「お、お願い、します……。私も、連れて行ってください……」

 サイラスの胸に触れたことで持ち上がってしまっていた前髪を、大きな手がすいてくれる。優しい手つきが嬉しくて、もっと触れてほしいと思う。一か月も二か月も、この手の届かぬ場所にいるとなれば、きっととても苦しい。

「離れたく、ないんです……」
 服につかまる両手に力を込める。すがりつく指先に、願いを込めた。ゆらゆら揺れる紫の色が、柔らかく甘い色へと変わりますように、と。恥ずかしさに頬は染まり、結局押しきれずに弱気になってしまえば唇も震える。そして、懸命な気持ちが溢れれば翠の瞳は潤むのだ。

「それとも、サイラス様は……。私と離れても平気、です、か……?」

 なかなか望む言葉を発してくれない形のよい唇が、今はとても意地悪に思えた。しかし、ふと気づく。いつもなら、きっと自分の方がこんなふうにサイラスを焦らしているのだろう。

「駄目だなんて、言わないでください……」

 思わず右手を持ち上げて、人差し指をサイラスの口もとで立てる。触れてはいないので、言葉を遮る物理的な効力はない。

「では……」

 だからサイラスの呟きは、ミュリエルの指先に吐息になって触れた。

「君が望まない言葉など言わないように、私のこの口をふさいでくれ」
「っ!?」

 言葉を続けたサイラスは、ミュリエルの右手に優しく指を絡ませ下ろさせる。さらに服につかまっていた手は、上から包まれて動かせない。かがむように近づく綺麗な顔が、重なるのにちょうど良い角度へと傾いていく。
 しかし、最後の少しの距離を残してサイラスは動きを止めた。いくらミュリエルでもわかる。提示されているふさぐ方法は、一つだ。

「……ミュリエル?」

 見たいと願っていた色が、至近距離で艶めいている。その色に誘われるままに、ミュリエルはゆっくりあごを上げた。翠の瞳にまぶたを落としていくのと同じ速度で、紫の瞳も伏せられていく。しかし、息をすることさえ憚る距離でミュリエルの動きは止まった。けして焦らそうとしたわけではない。

「……、……、……や、やっぱり、無理で、んんっ!」

 自ら口をふさがれにきたサイラスにより、ミュリエルのお決まりの台詞は音にならなかった。

『チョロすぎる……』

 成り行きを直接見ずとも完璧に状況を把握しているアトラが、二人からはまったく聞こえない場所で歯を鳴らした。なんとも言えない顔でされた歯ぎしりに、レグ以下四匹も異口同音に賛同する。
 ここぞとばかりに強請る方も、簡単に流された挙げ句上手く転がされてしまう方も大概だ。だが結局どちらの立場であったとしても、想いをよせあう二人には、さしたる問題ではないのだろう。

     ◇◇◇

 日を改め、場所は実家であるノルト伯爵家だ。ミュリエルの帰宅になぜかリュカエルも合わせたことで、居間には久々に家族四人がそろっていた。なぜ昼間に時間を作ってまで帰宅したかと言えば、サイラスから夏合宿の同行には家族の了承を取ってくるようにと言われたからだ。
 目的ありきの帰宅だが、ミュリエルはまず、妊婦である母の目立ってきた腹をなでさせてもらっている。望む反応はなかなかもらえないが、このなかに弟か妹がいると思うともうそれだけで可愛い。

「それでミュリエルちゃん? 今日は、なんのおねだりがあって帰ってきたの?」
「えっ!?」
「うふふ。だってミュリエルちゃんてば、最近用がなければ帰ってきてくれないんだもの。ねぇ? あなた?」

 ミュリエルの向こうからのぞき込むようにして声をかけられたノルト伯爵は、軽い内容のはずの問いかけに重々しく頷いた。

「……嫌な予感しかしないな。はぁ。まぁ、ちょっと待て。すーはーすーはー。よし、聞こう」

 やや前かがみで深呼吸をしたノルト伯爵は、動じぬ精神もまずは格好から、とでも言うようにどっかりと肘掛け椅子に座り直す。それを大人しく待ってから、ミュリエルは口を開いた。

「えっと、その……。サイラス様に頑張っておねだりをしたら、お父様とお母様の許可を取ってくるように言われたんです。それで、その、長期外泊の許可を……」
「ごふっ!!」

 上質な演奏でも聞くかのように目を閉じて指を組み、静かに構えていたはずのノルト伯爵は、ミュリエルの発言を聞いた途端鼻水まで噴射する勢いでむせた。なぜ吹き出したのかわからないミュリエルは、おろおろとするしかない。

「お、おま、お前! こ、婚約したとはいえ、が、がが、外泊ぅ!? うぐっ、げふっ、がふっ」

 どうにも動揺の咳き込みが収まらないノルト伯爵は体を丸め、ローテーブルに手をついた。

「あらあら。長期外泊ってリュカエルちゃんの言っていた、聖獣騎士団の夏合宿のことかしら? ミュリエルちゃんも、それについて行きたいの?」

 ミュリエルと一緒に長ソファに座っていたノルト夫人はゆっくりと立ち上がると、夫の傍まで行きその背をなでた。そして動作と同じくらいおっとりと口を開く。

「あ、はい。それです」
「い、言い方が悪いぞ、ミュリエル! はぁ、もう、ちゃんと考えてから言いなさい……」

 強い一声を浴びせたノルト伯爵は突然の虚脱感に襲われたのか、椅子から滑り落ちるように床に膝をつくと、ローテーブルに突っ伏した。

「えっ、あの、す、すみません。えっと……、近々聖獣騎士団が、聖獣達の避暑と騎士の体力向上を目的として、夏合宿に行くんです。それで、私も聖獣番としてそこに帯同したくて……。えぇと、なので、長期外泊の許可を、お父様とお母様からいただきにまいりました!」

 最初は父親のつむじに向かって説明していたミュリエルだが、途中から気を取り直したのかノルト伯爵が椅子に座り直したので、ちゃんと顔を見て説明を終えた。ちなみにノルト夫人はリュカエルがそつなくソファまでエスコートしており、再びミュリエルの隣に座っている。
 そして、ミュリエルがちゃんと簡潔に要望を述べられたことに満足したのか、ノルト伯爵は腕を組んでうんうんと頷いた。しかし。

「うむ。許可できない」
「……、……、……えっ!?」

 父親の態度と返答が噛み合っていなかったために、ミュリエルの反応は一拍以上遅れた。聞き間違いだと思ったが、続く台詞も否定を重ねるものだ。

「そんなもの許可できるわけがないだろう。考えてみなさい。お前は曲がりなりにも妙齢の伯爵令嬢なのだぞ。リュカエルの話では、夏合宿という名のサバイバル生活だそうじゃないか。お前ができるはずもないし、ついて行ったとて迷惑になるだけだ」

 とうとうと流れていく全面的な否定の言葉を、もとより反論に慣れていないミュリエルが止める手立てはない。

~~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~~~

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