『竜騎士のお気に入り9』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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という編集部ブログ。

こんにちは!

来週、20日は一迅社文庫アイリス7月刊の発売日!
ということで、本日より新刊の試し読みをお届けいたしますヾ(≧▽≦)ノ

試し読み第1弾は……
『竜騎士のお気に入り9 ふたりは宿命に直面中』

著:織川あさぎ 絵:伊藤明十

★STORY★
竜が集まる辺境伯領の領主ヒューバードの妻となった侍女メリッサ。秋の収穫祭のころも、メリッサは青の竜とすごしていたのだけれど……。緊急を知らせる馬車がやってきたことを知ったメリッサは、すぐさまヒューバードの執務室へと向かい――。
堅物騎士と竜好き侍女のラブファンタジー第9弾!

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「いよいよ王太子殿下が成人前の最後の公務で、辺境にいらっしゃる日程が決まったらしい」

 ヒューバードが、つい先ほど届けられた手紙二通を見せながら、執務室に揃った一同に視線を向けた。
 部屋の中には、メリッサをはじめとして、前々辺境伯の夫人であり、ヒューバードの母であるヴィクトリア、そして執事のハリーと侍女長のヘレン。以上の現在辺境伯邸を動かしている主要な人々がヒューバードの前に勢揃いしている。
 メリッサにとっては王太子殿下の視察と言われても、具体的なことはなにひとつ分からないため、しっかり覚えておくためにヒューバードの話に集中していた。
 王太子の、成人前の国内視察。
 これは代々、王太子が成人したときの恒例行事としてイヴァルトで行われてきた行事である。
 現在の国王も、かつて王太子時代に、国内のすべての領土を自分の目で見て確認し、成人の式典を迎えたのだそうだ。
 イヴァルト王国の王太子、カール殿下は、メリッサより二歳年下である。王太子は今年十五となり、正式に騎士見習いとして城に登録され、来年、成人して正騎士となることが決まっている。
 その騎士修業の合間を縫って成人前に国を回り、顔見せをおこなっていたらしい。

「王太子殿下の成人は、来年の夏でしたよね」

 メリッサが問いかけると、ヒューバードは軽く頷いた。

「成人になると、殿下はすぐに二年ほど騎士としての実務経験のために軍に入隊することになる。その間、王太子としての公務はおこなわない。それがあるから、成人する前に、顔見せとして各地を回るんだ」

 ため息交じりに母親譲りの黒髪をかき上げながらヒューバードは語る。
 国中の領地を回ることにはなっているが、王太子が宿泊する領地ははじめからある程度決まっている。メリッサは知らなかったが、代々辺境伯領は、最後の宿泊地として王太子を迎えることが決まっているらしい。
 王太子自身から、簡単な挨拶と共に、派手なことを望んでいないと伝えられている。さらに成人前ということで、大々的な歓迎の宴などは催せない。
 結果、招待客の人数を絞り、昼にガーデンパーティなどをおこなうことになるそうだ。

「……人数が絞られるなら、準備も少しは楽にできるでしょうか」

 思わず義母にそう問いかけたメリッサは、その返答を聞く前に、義母の表情からその答えをえてしまった。
 義母は、メリッサが見ていた手紙とは違うもう一通の手紙に視線を向け、ヒューバードそっくりな秀麗な表情を曇らせながら、僅かに首をひねっていたのだ。

「……難しいですね。むしろ、通常より手間取るでしょう」

 義母の表情は、苦悩をそのまま表すような気鬱が表れている。いつも淡々と仕事をする義母らしくないその姿に、メリッサはその話を聞く前からどれだけの混乱が訪れるのかと震えそうだ。

「そもそも、王太子殿下がご滞在の領地は、伯爵位以上……それも歴史のある家が多い。さらには王太子殿下はまだご婚約の話も出ていません。となれば、王家の望みは王太子殿下と歳の合う、貴族子女との顔合わせでもあるのでしょう。殿下のお歳に合わせるとなれば、その子女はまだ社交を始めたばかりでしょうから、簡単に顔合わせをしておいて、気に入った令嬢がいれば、成人の儀式のときに開かれる王宮の祝宴に招く、といった流れでしょうか」

 どうやら義母が見ていたのは、王妃陛下からのお言葉が書かれた手紙だったらしい。くれぐれもよろしくと書かれたその手紙を見て、ヒューバードと義母が、そっくりな青の目を眇めてため息を吐いた。

「それぞれの滞在場所に令嬢がいた場合は、もちろんその令嬢が顔合わせの相手となるが……うちのように、対象の令嬢がいない場合、近隣の領地の令嬢が殿下と顔を合わせるために大量に詰めかけてくる」

 義母とヒューバードの言葉を聞き、メリッサにもその難しさが理解できた。

「……令嬢の宿泊も考えなければならないわけですか」

 義母はメリッサの問いに静かに頷いた。

「当然ながら、当家で世話をすることになります。さらには、誰を選ぶのかというのも、問題です」
「……それは、誰が」

 選ぶというのか。メリッサの問いに、義母はにっこりと微笑んで答えた。

「もちろん、あなたですよ、メリッサ」

 その言葉を受け、メリッサの表情は固まった。

「殿下がこちらの領地にいらっしゃるまで、おそらく連日客人がクルースに訪れることでしょう。もちろん、その理由は分かりますね?」
「参加希望のご家族、でしょうか」

 義母は、よくできましたとばかりに微笑みを浮かべて頷いた。

「ええ。今まで、この近隣の領地での付き合いは私がおこなっていましたが、今回はあなたに任せます」

 メリッサは、思わず息を呑んだ。

「もちろん私も一緒に作業に当たりますが、今後のお付き合いのこともありますから。人選などは、あなたがおこなうのです。……今まで、私と学んできたことを遺憾なく発揮して、頑張りましょうね」
「……はい!」

 いよいよ、メリッサも辺境伯夫人として、近隣領地との付き合いを学ぶのだ。これまでは、竜を最優先とされたメリッサが、辺境伯夫人の仕事を引き継いでいくために、最も重要なことだ。
 身を引き締め、義母に答えたメリッサだったが、それを見ていたヒューバードは静かに視線をそらし、そっと頭を押さえていた。

「……母上。一応聞きますが」

 ヒューバードが、視線を背けたまま問いかける。

「メリッサの滞在場所は、コーダでは……ありませんよね」
「コーダでは無理ですね。当然、クルースとなります」

 メリッサは、目の前でおこなわれている会話の意味が理解できず、首を傾げた。しかし、ヒューバードが頭を抱えている意味を、経験豊富なハリーとヘレンは理解してしまったらしい。二人揃ってヒューバードと同じ方向を見て、あ、とつぶやいた。

「メリッサがクルースに長期滞在するとして……客層から考えて、竜達はしばらくクルースには……」

 そこまで言われて、さすがにメリッサも気がついた。

「立ち入り禁止ですね」
 フギャァアァァァァ!

 義母からの無情な宣言に、ヒューバード、ハリー、ヘレンの視線の先にある竜の庭から、悲痛な叫びが響き渡った。

~~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~~~

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