『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。2』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

一迅社アイリス編集部

一迅社文庫アイリス・アイリスNEOの最新情報&編集部近況…などをお知らせしたいな、
という編集部ブログ。

こんにちは!

アイリスNEO3月刊の発売日までもうすぐ!
ということで、本日も試し読みをお届けしますо(ж>▽<)y ☆

試し読み第2弾は……
『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。2』

天壱(てんいち):作 鈴ノ助:絵

★STORY★
8歳で、乙女ゲームの極悪非道最低最悪のラスボス女王・プライドに転生していたと気づいた私。待ちうけるのは破滅の未来――!? 人望と王女の権威、ラスボスチート能力を駆使して、悲劇を防ぎ民や攻略対象者を救いたいのだけど……。周囲と円満な関係を築きつつ迎えた13歳のある日、なんだか覚えのある出来事が? これって、隠しキャラが絡んだ破滅ルートのアレじゃない!?
気づけば、皆に物凄く愛されている悪役ラスボス女王の物語第2弾。
ゼロサムオンラインにて、3月より連載開始予定の人気シリーズ最新作!!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 乙女ゲーム〝君と一筋の光を〟という作品がある。シリーズ化もされ、ファンには「キミヒカ」とも呼ばれた大人気ゲーム。それが、十八年間の人生を地味に生きてきた私の密かな楽しみだった。

「もうっ……兄様ったら先に行っちゃうなんて」

 私の隣で頬を膨らましたのはこの国の第二王女、ティアラ・ロイヤル・アイビー。金色のウェーブがかった髪と瞳を持つ、天使のように可愛い女の子だ。
 十一歳のティアラは、一足先に姿を消してしまった兄のいた場所へ目を向けた。さっきまではそこにいたのに、残すは十数メートルというところで消えてしまった。文字通り、一瞬で。

「仕方ないわ。だってすごい試合だったもの。きっとステイルも嬉しくて仕方ないのよ。許してあげて」

 私達も急ぎましょう、とティアラを宥めるように手を繋ぎ、護衛と共に足を速める。ドレスを汚さないように気をつけながら、私達は騎士団演習場の門へと向かった。楽しみね、と笑いかければティアラは満面の笑みで返してくれた。

「はいっ、お姉様!」

 第一王女、プライド・ロイヤル・アイビー十三歳。ウェーブがかった真っ赤な髪と紫色の目が鋭く吊り上がった私は、これでも正真正銘可愛いティアラの姉である。

「ッどうだこれで満足かよステイルッ!!」

 向かう途中で、騎士団演習場の門の方から元気の良い声が聞こえてきた。アーサーだ。やっぱりステイルもいるらしい。ティアラと顔を見合わせた私は、相変わらずの様子であろう二人を想像して早くも笑ってしまう。
 世界で唯一特殊能力者が産まれる国、フリージア王国。その第一王女である私は、五年前に王位継承者の証である予知能力を覚醒させ、晴れて正式に第一王位継承者となった。

「アーサー! ステイル!!」

 門を出ればすぐに二人は見つかった。嬉しさのあまりか門前で仲良く手合わせ中だった二人だけど、名前を呼べば動きをピタリと止めてくれた。構えを解き、ゆっくりとこちらに振り返ってくれる。
 私とティアラにとって大事な存在。第一王子のステイルと、友人のアーサーだ。

「プライド様、ティアラ」

 最初に声を上げてくれたのはアーサーだ。身体ごと向き直り、正面から私達を迎えてくれる。
 アーサー・ベレスフォード。去年、騎士団入団試験に受かり新兵になった十五歳の彼は、二年ほど前から私達の友人だ。殆ど毎日稽古で手合わせを交わし合っていたステイルとは親友と言っても良い間柄でもある。長い銀髪を頭の上で一本に括り、蒼色の瞳を持つ彼は今日、記念すべき時を迎えたばかりだった。

「アーサー、騎士昇進おめでとう」
「おめでとうございます! アーサー!」

 今日行われた騎士団本隊入隊試験。アーサーは、主席で本隊入隊を確定させた。
 二年前のあの日から、アーサーは父親である騎士団長とステイルと鍛錬や稽古を重ね、翌年十四歳になった年に、新兵として騎士団に一発合格で入団していた。
 新兵になるには入団希望者同士で戦い、半数以上に勝ち抜いた者だけが二次試験に進むことができる。そして騎士団の一人と手合わせをし、勝敗に関わらずその戦い方で入隊を審査される。その中でアーサーは一度も負けずに二次試験へと進み、手合わせをした騎士相手に一本まで取った。
 今日行われた騎士団本隊入隊試験では、百名近くいる新兵の中から本隊に入隊が確定できるのはいわゆるトーナメント戦での優勝者一名のみ。それ以外はその年の補充必要人数に応じ、上位勝ち抜き者や戦い方の優れた者から評価されて選ばれる。
 その中で、アーサーは見事優勝を勝ち取ったのだから。

「今日は……わざわざ御足労頂き、ありがとうございます」

 私に続きティアラにお祝いを言われたのが嬉しかったのか、アーサーは少し照れ臭そうに私達へ頭を下げてくれた。その様子にステイルも無表情ながらすごく満足げだ。

「当然よ、他ならないアーサーの大事な日だもの」

 初めて会った頃は話し慣れていなかった敬語だけれど、今のアーサーはかなり板についていた。稽古中にステイルから教えてもらったらしい。ただ、それでも「うっす……」と言うアーサーは相変わらず私には腰が低い。まだ決勝の熱気も引いてないのか、頬も少し赤い。

「アーサー、とても素敵でした!」
「おう、……ありがとな」

 跳ねたティアラがそのまま手を握れば、アーサーも柔らかく笑んで彼女の頭を撫でた。まるでティアラのもう一人の兄のようだ。
 ステイルとアーサーが手合わせを重ねる中で、私やティアラもアーサーと会うことが増えていた。最初は私達二人に辿々しい敬語だったアーサーだけれど、今ではステイルだけでなくティアラにも人前以外では敬語敬称なしで話してくれている。……ただし、私には、

「そういえば騎士団長と副団長にはお会いしたの? きっと御喜びになったのでしょうね」
「いや、まだっす。どうせ二人共報告しねぇでも見て知ってますし、……ンな改まって言うことも別にないんで」

 この通りだ。私からは何度も「人前以外なら敬語敬称不要よ」と言ったのに、どうしても私にだけは譲れないらしい。初対面の時よりは敬語が大分砕けてくれているのだけが唯一の救いだ。
 ステイルとティアラも私に対してはがっつり敬語だし、次期王位継承者だからとか色々言われたけれど、私としてはすごく寂しい。

「ッここにいたのか、アーサー!」

 私達の話し声で目立ったのか、背後から更に二つの人影が現れた。振り返れば、ロデリック騎士団長とクラーク副団長だ。二人とも王族三人が揃っているのを確認すると、急ぎ挨拶を済ませてくれる。二人の登場にアーサーも無言で向き直り、低めた声を返した。

「……なんすか、騎士団長」
「なんだではないだろう、本隊入隊の手続きを終えたら騎士団長である私のところに挨拶へ来るように説明があったはずだ」
「っせぇな! どうせ叙任式は明日だしわざわざ身内に挨拶なんざ恥ずかしくてできっかよ親父!」
「その叙任式の説明も一緒にする予定だったんだよ、アーサー」

 突然始まる二人の親子喧嘩に、騎士団長の背後から顔を覗かせた副団長が穏やかな声を掛けた。そのまま自分にアーサーから視線が向けられると「本隊入隊おめでとう」と嬉しそうに微笑んだ。
 騎士団長と仲の良い副団長もアーサーとは昔からの知り合いだ。アーサー曰く副団長には奥さんはいるけれど、お子さんはいなくて年の離れた妹さんがいるだけらしいし、きっとアーサーのことを息子か弟のように思っているのだろう。

「ロデリック、注意より先にお前も褒めてやったらどうだ?」

 一番祝いたいのはお前だろう? と副団長が騎士団長の肩を叩く。それでも、騎士団長は動じない。

「褒める必要はない」

 両手を組み、はっきりと言い放つ父親にアーサーはケッと吐き捨てた。騎士団長達が現れてから不機嫌を露わにしていたアーサーが唇まで尖らせる。……けれど

「……お前なら必ず入隊できると信じていた」

 そう言ってアーサーの肩に優しく手を置く騎士団長は本当に誇らしそうだった。アーサーもそれを受けた途端「……だろ?」と少し照れ臭そうに笑みを向けた。クラーク副団長も嬉しそうだ。
 すると今度はさっきまで黙していたステイルがアーサーへと手を伸ばす。騎士団長が置いた肩とは逆のアーサーの肩にポンッと叩くように置いた。

「……この一年は俺のお陰もあるがな」
「アァ?! ステイル! 今回は俺の実力だろォが!」

 ステイル・ロイヤル・アイビー、十二歳。整えられた髪と同じ漆黒色の瞳を持つ彼は、この国の第一王子だ。元々庶民から養子になった彼は、私やティアラと血は繋がっていない。私の義弟、ティアラの義兄であり、大事な兄弟だ。〝瞬間移動〟の特殊能力者である彼は、女王の片腕たる摂政となる為に私の補佐として傍に付いてくれている。とても頭が良くて優秀な第一王子だ。

「騎士団長との稽古をしなくなった分、俺との稽古を増やさせたのはどこの誰だ」
「テメェも望むところだとか言ってたろォが!!」

 背後から水を差してきたステイルにアーサーが噛み付く。新兵として入隊した後から、アーサーは騎士団長との稽古はしなくなっていた。新兵になって自分だけが本隊入隊試験前に騎士団長である父親に稽古を付けてもらうのは気が引けたらしい。そしてその分この一年はステイルとの稽古の時間が増えていた。

「プライド様、……誠に申し訳ありません。我が愚息のせいでステイル様にまで影響を……」
「い……いえ。以前にもお伝えした通り、ステイルもとても楽しそうですし何よりちゃんと公務中は変わらずなのでご安心下さい」

 頭を痛そうにしながら私に頭を下げる騎士団長にやんわり断りを入れる。このやり取りをするのももう何度目だろうか。
 アーサーとステイルは稽古を重ねるようになってから、アーサーの言葉遣いがかなり改まったのに対し、ステイルはまた別の方向に言葉遣いが変わっていた。自分のことを〝俺〟と呼び、アーサーに対して〝お前〟と呼び、大分崩れた話し方もするようになった。勿論、公務の時は昔と変わらず敬語に〝僕〟口調だけれども。

「言っとくけど、コイツは俺と会った時から腹黒ぇぞ」
「一言余計だ馬鹿」

 自分を指さすアーサーの指をステイルが返すように指先で弾いた。
 いってぇなコノヤロウ、とアーサーが食ってかかるのを見て、騎士団長がまた肩を落とす。副団長はもう見慣れたのか、喉を鳴らして笑っていた。賑やかで暖かなこの光景は、今や私の日常だ。


 五年前、前世の記憶を思い出し、己が罪と運命を知ったあの日から。


 ――プライド・ロイヤル・アイビー。ティアラの姉、ステイルの義姉、第一王位継承者である私は五年前、前世の記憶を思い出した。この世界が前世でプレイした〝キミヒカ〟の第一作目の世界で、今はゲームスタートの五年前。愛しい妹は主人公で、ステイルとアーサーは攻略対象者。

「とにかく、……とにかくだアーサー。明日の準備について説明する。くれぐれも恙なく進められるようにしろ。……明日は、騎士にとって大事な日だ」
「……うっす」

 ――攻略対象者は五人。前世でキミヒカシリーズを網羅した私だけれど、大好きだったのは第三作目だけだったから、この第一作目の記憶はかなり朧気だ。最初はゲームの大筋以外殆ど思い出せなかったほどだ。すぐに思い出せたことは、自分が主人公のティアラの姉であること。そして、

「明日はよろしくお願いしますね、アーサー」

 ゲームでは最低外道のラスボス女王であるということだけだ。
 ――攻略対象者の心に消えない傷を付け、憎まれ、最後には断罪される。その攻略対象者の心の傷を癒し、共にプライド女王へ立ち向かうのが主人公のティアラだ。
 それに比べ、私は前世の記憶を思い出さなかったらステイルやアーサーにも取り返しの付かないことを犯していた。ステイルは実の母親を自分の手で殺させられていたし、アーサーは父親と多くの新兵や騎士を見殺しにされていた。

「……はい。よろしくお願いします」

 そう言って、はにかむように笑ったアーサーの笑顔は本当に嬉しそうだった。
 ――今は、こうしてステイルもアーサーもそしてティアラも、私と親しくしてくれている。ゲームのように私に酷い目に遭わされることもなく幸せそうにしてくれている彼らを見ると、本当に嬉しい。叶うなら、彼らの幸福がこのまま続いてくれればと心から思う。

「行くぞ、アーサー」

 騎士団長と副団長が私達に頭を下げ、ゆっくりと背を向ける。そしてアーサーも私達に挨拶を終えると、片手に抱えていた団服に袖を通しながらそれに続いた。
 ――彼らの、攻略対象者の、民の幸せの為に。第一王女として、できる限りのことをしたい。
 騎士団長達と同じ白の団服をはためかせたアーサーを見送りながら、そう思った。


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

待望のコミカライズは、2020年3月19日(木)より、ゼロサムオンラインにて連載開始! 初回以降は、毎月第3金曜日更新予定です★

『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。』シリーズ①巻好評発売中!
①巻の試し読みはこちらへ――→『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。』を試し読み♪