『指輪の選んだ婚約者4』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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アイリスNEO7月刊が来週いよいよ発売!
待ちきれないあなたのために、試し読み第2弾ですラブラブ

『指輪の選んだ婚約者4 妖精の試練と騎士の花嫁』

著:茉雪ゆえ 絵:鳥飼やすゆき

★STORY★
いよいよ結婚を目前に控えた、刺繍好きの伯爵令嬢アウローラと近衛騎士フェリクス。
彼の実家であるクラヴィス領に向かったアウローラは、“フェリクスの花嫁”という視線にさらされつつ、式の準備に奮闘する。王太子夫妻もお忍びでお祝いに駆けつけてくれ、喜びも忙しさも最高潮!
そんな時、彼女とフェリクスを結び付けてくれた、婚礼の指輪がなくなってしまい――!?

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(ち、沈黙が痛い……)

 応接室を辞し、美しく飾られた長い廊下をしずしずと歩みながら、アウローラは引き続き、冷や汗を流していた。
 なにしろ、エリアスは「ご案内します」と扉を出たきり、一言も口にしないのである。客人の付き人であり、エリアスよりも身分の低いカイやクレアが口を開くこともないため、エリアスの導く一行には、ひどく気詰まりな空気が流れている。

(最初の頃のフェリクス様を思い出すけど……、今思い返せば、フェリクス様の視線は最初から、こんなふうに冷たい感じじゃあ、なかったわね)

 アウローラは婚約者の振る舞いを思い出す。女性が苦手だという彼は無口で無表情で口下手で、最初はアウローラにもさほど興味がない様子ではあったが、言葉もなく同じ空間にいても、気まずくなったりはしなかった。
 前を行く、すっと伸びた背筋は、乳兄弟だからなのかフェリクスに良く似ているが、妙に張り詰めている。一体何をそんなに気負っているのかと、不思議に思うほどだ。

(……でもきっと、今後はこうして誰かに値踏みするような目で見られるのも、当たり前のことになるのだわ。次の領主の妻はどんな人かと、しばらくはどこにいても、こうやって見られるはず。気合を入れていかなくちゃ)

 しかし、そんなことを考えていても仕方がない。アウローラは少しだけ首を振って、頭を切り替えようと試みた。

(ここが、フェリクス様が子供時代を過ごしたお屋敷……)

 アウローラはほう、とひとつ息を漏らした。
 目の前には、細部まで上品な装飾の行き届いた長く美しい廊下が伸び、曇りひとつないガラス窓の向こうには、回廊を持つ中庭が見える。今でこそ、庭師によって整えられた常緑の木々のみが色を持つ、少々寂しい冬の庭だが、葉のない茂みはどうやら、バラやつるバラのようだ。春がくればそれは美しく、見事に咲き誇るのだろう。

(春がくれば、わたしもここの住人になるのね。……内装が美しすぎて、あんまり実感が湧かないけれど)

 アウローラの生まれ育った、ポルタ家のクストディレ城もそれなりに美しく整えられた城ではあるが、何しろ城塞だった経歴を持つ建物である。外見は無骨だし、ある程度現代的に改修済みの内装も、これほど優美にはできていない。庭も、森に溶け込むような体裁で整えられており、野生動物が迷い込んでくることもあった。
 要するに、繊細・優美・華麗のアルゲンタム城とは、趣が全く違うのだ。アルゲンタム城は、中庭も、庭の向こうに見える反対側の棟も、『月の精霊に愛された街』の領主の住まう城に相応しい上品な佇まいである。
 辺境を治めるポルタ伯爵家という身分も決して低くはない。しかし、田舎の武張った城で育った自分が、この優雅な侯爵家の城の住人になるというのは、アウローラをひどく不思議な気分にさせた。

(フェリクス様は小さい頃、このお庭で遊んだりしたのかな。今は、フェリクス様の形跡は全然、なんにもないけれど……。ああ、ポルタを出てからお手紙も通信鏡もお休みしているから、ちょっと寂しい。お声が聞きたいな)

 アウローラはドレスの隠しにしまってある鏡を、ドレスの上からそっと撫でた。この冬に、フェリクスから贈られたものである。


 ――昨年の、冬至の祭日。
 ポルタで刺繍をして暮らすアウローラのところにフェリクスから、小さな鏡が届けられた。
 片手に乗るほどの大きさのそれは、曇りひとつなく磨かれた鏡面を銀星花の彫りがぐるりと取り囲んだ、華奢で可憐な逸品である。アウローラはひと目見て気に入り、ドレスの隠しや裁縫箱などに入れて、この冬の間、いつも持ち歩いていた。
 しかし、この一見、婚約者への可愛らしい贈り物としか見えない鏡は、『通信鏡』と呼ばれる魔道具だったのだ。国内ぐらいの距離間であれば、お互いの魔力を流すことで顔を映して会話ができるというとんでもない代物で、元は軍事、特に諜報機関用に開発された、大変貴重な品なのである。

『貴女の文字も愛しいが、声が聞きたい、顔が見たいと思ったのだ。――例の耳飾りは、せいぜい同じ建物の中でぐらいしか、声を届けられない』

 というのが、そんな貴重な物を婚約者に送りつけた、彼の言い分である。
 なにしろ、昨シーズンのフェリクスは、大変に多忙だった。妻帯した王太子は職務の範囲が広がり、公務で国内を飛び回っていたからだ。それは社交のオフシーズンになっても続き、付き従うフェリクスにはほとんど休みがなかった。
 それでも、シーズン中はわずかな時間を捻り出して、なんとか顔を合わせていたのだが、シーズンが終わり、アウローラがポルタ領に帰ってからは、一度も生身で会えていなかった。冬の間、ふたりの逢瀬は、この鏡越しでしか実現しなかったのである。


 その鏡越しに語り合った、数日前のフェリクスを思い出し、アウローラはそっと頬を染めた。

『明日、ポルタを出て、五日後にアルゲンタムに到着する予定です』
『そうか。……そちらはまだ雪深いのだろう? 充分に気をつけてくれ』
『はい、充分に気をつけますわ』
『貴女が髪の一筋でも損なわれることは口惜しい。私のためにも、怪我などしないでくれ』
『……はい』

 告げられた言葉に、アウローラは瞳を潤ませた。フェリクスが目を細めてアウローラに手を伸ばし、カツンと鏡面に阻まれて口惜しげな顔になる。アウローラはぷっと吹き出して、ころころと笑った。

『私も、式の二週前には休暇に入り、そちらに戻る予定だ』
『……やっと、お会いできますね』
『ああ、やっとだな……。しかし、貴女は式の直前には一度、ポルタに戻るのだろう?』
『はい』
『では、会えるのはほんの数日だな……』

 目に見えて不満げになったフェリクスに胸が甘く締め付けられるのを感じて、アウローラは胸を押さえた。

『早く、毎日ともにいられるようになればいい』
『……もうすぐですわ、フェリクス様』
『ああ、あと三月ないな――待ち遠しい』

(――思い出したらドキドキしてきたわ)

 熱く見つめられたことを思い出し、アウローラはほう、と熱の籠もった息をついた。それからもう一度周囲を見渡し、当然ながら、フェリクスの姿の影も形もないことに気落ちする。

(ご実家なのに、フェリクス様がいらっしゃらなくて、それなのに、わたしはいる。なんだか不思議だな。……ああ、駄目だ、お会いしたくなってきた)

 遠い目をして、アウローラはぎゅっと手を握りしめる。薄手のレースの手袋の下で、指先が薬指の指輪に触れると、わずかに気持ちが落ち着いた。

(春にはフェリクス様の、つ、妻になるんだもの、毎日お会いできるようになるんだもの……)

 決意も新たに前を向く。むん、とひとり気合を入れ直したところで、ふいにエリアスの足が止まった。何事かとあたりを見渡しても、そこは廊下を曲がる角の少し手前、何の特徴もない場所である。

「……ポルタ嬢」
「はい?」

 立ち止まったエリアスが、くるりと振り返る。何かしら、とアウローラが何気なく首を傾げて見せれば、エリアスの眼鏡の向こうの瞳が、ギュッと細くなった。

「一言、お伝えしてもよろしいでしょうか」
「……ええ、何なりと言って頂戴」

 エリアスは眼鏡の端を指先で押し上げた。光ったレンズの向こうから、例の視線を向けられて、アウローラはごくりと生唾を飲み込む。

「先ほどの、団長の姿をご覧になって、お分かりかとは思いますが――、円満に奥方を迎えることが難しいであろうと言われた若君に嫁いでくる女性として、侯爵家の皆様も、騎士団の者も、皆、貴女を歓迎しております。……しかし、そもそも、その前提がおかしいのです。若君は、『円満に奥方を迎える』ことが難しいのではありません」
「そうでしょうね」

 何しろフェリクスは、侯爵家の嫡男である。その上職業は、国軍の中ではエリート中のエリートである近衛騎士、それも魔術と剣術の両方に長けた魔法騎士だ。そして更に、類まれな美貌で名を知られ、貴族の令嬢どころか王都中の乙女が胸を焦がしたと言われる、少々規格外な青年なのだ。
 本人に全くその気がなかったのが災いし、アウローラに出会うまでは想い人も恋人も婚約者もいなかったが、無口無表情で社交が苦手、という貴族としては致命的な問題にさえ目をつぶれば、引く手数多でお相手など選び放題の、超優良物件……だったはずの男なのである。
 アウローラとて、それは良く知っている。だから彼女は、こくんと頷いた。するとエリアスは、我が意を得たりと言わんばかり、先ほどのアウローラよろしく手を握りしめ、廊下に響き渡らぬ程度の音量で声を上げた。

「……そもそもですよ! 若君ほどの! 古の賢者もかくやという英明なる頭脳! 乱世の覇者たる英雄をも凌ぐ武勇! そして精霊にも匹敵すると言われる神代の美貌を持つ方が! そう易々と、婚礼を結ぶべき、類まれなる相手に出会えるわけがないではありませんか!」
「は、はあ」
(こ、この手の賞賛には覚えがあるぞ……!)

 冷たく無表情と思われたエリアスの瞳は、今や灼熱の炎を湛えて炯々と光っていた。アウローラの口の端がヒクリと引きつる。
 フェリクスに対する、この手の謎の賛美、アウローラにはいやというほど覚えがあった。似たような言葉を聞いたことがあるのである。
 それは、フェリクスと初めて参加した夜会で暴露され、彼はフェリクスを『己の至上のライバル』と敵視しながら『越えがたい壁である男』と賞賛し、『その壁である男の妻になる娘がこんな女だなんて認められない!』と、おかしな方向に捻くれていた。その人の名は――

「若君の隣に並び立ち得る女性など、世界広しと言えどもそう簡単に見つかるわけがない。そもそも、あれほどの方に比肩する存在など、いるはずがないのです。ですから、若君は『円満に奥方を迎える』ことが難しいのではない。『若君に相応しい奥方を迎える』ことが至難なのです! この違いがお分かりになりますか!?」

(や、やっぱり! この方、ルーミス様と同じ感情を、尊敬の方向に思いっきり振り切って拗らせてる……!!)

 そう、その人の名は、ユール・イル・レ=ルーミス。大層な美貌と、フェリクスに並び立つ身分と地位を持つ、自称フェリクスのライバルである。

(男性にここまで思わせるだなんて、フェリクス様、なんて罪な方なの……)

 思わず遠い目をしてしまう。
 アウローラは目を細め、どう思う、と思わず己の後ろを振り返る。すると、侍女も護衛も、何事もなかったかのような無表情で佇みながら、わずかに肩を震わせていた。主が謎の言いがかりをつけられているというのに随分な態度ではないかとアウローラは頬を膨らませたが、それは彼らの腹筋を余計に震わせるだけに終わる。
 呆然とする客人、腹筋を震わせるその従者。何とも言えない空気となった廊下に気づくことなく、ひとり盛り上がったエリアスは、ビシリとこう、締めくくった。

「今更、何があったとて、若君のご婚礼が取りやめになることはないでしょう。若君が選んだのが、貴女であることも存じております。彼の方の目に、間違いはないだろうとも思います。ですが! 他の誰が認めようとも、私だけは! 貴女が若君の奥方に相応しい女人かどうか、己の目で! 見極めさせていただきたく存じます!」

(あの視線の理由はこれか……!)
「み、見極めるのは、構いませんから、お手柔らかにお願いしますね……」

 他に言えることもなく、額に手を当てアウローラは呻く。エリアスはこほんと喉を鳴らした。

~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~

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