『獣人騎士の求愛事情 一角獣の騎士様は、獣な紳士でした…』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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こんにちは!

一迅社文庫アイリス試し読み第2弾は……
『獣人騎士の求愛事情 
一角獣の騎士様は、獣な紳士でした…』


百門(ももかど) 一新:作 晩亭 シロ:絵

★STORY★
獣人貴族の蛇公爵(♂)を親友に持つ、人族のエマ。魔法薬の生産師として働く彼女のもとに、親友から持ち込まれた依頼。それは、聖獣種のユニコーンの獣人で近衛騎士であるライルの女性への苦手意識の克服作戦で!? 特訓の内容は、手を握ることからはじまり、恋人同士みたいなやり取りまで……って、なんだかスキンシップが激しすぎませんか!?
ユニコーンの獣人騎士とのレッスンからはじまる求愛ラブ。大人気★獣人シリーズ第2弾!

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 朝食を終えて紅茶を口に付けたタイミングで、ジークがようやく本題を切り出した。

「幼馴染みのような奴がいるんだが、同時に俺の部下でもあってな。そろそろ見合いをさせようと思っている」

 それはまた、随分と唐突な内容である。
 エマは、紅茶のカップを片手に持つジークの横顔を見つめた。突然そんな相談を持ち掛けられても、こちらは『ジークの幼馴染み』とやらを知らないのだ。彼はあまり自分の交友関係については話さないし、どうして今そんな話をするのかも分からない。
 視線から疑問を察したジークが、「うむ、実はな」と言い、紅茶のカップをテーブルに戻してエマを見つめ返した。

「奴もまた獣人なんだが、馬科の中でも珍しい聖獣種のユニコーンでな」
「ユニコーンって、伝説の一角獣?」
「大げさに言えば伝説だが、太古には竜も巨人もいたんだ。一角獣の馬くらい当然いるだろう。王都の博物館には、巨人族の骨も展示されているぞ。背丈はだいぶ縮んだが、子孫に戦闘部族のナーガスというのもいる」

 博識な親友に当然のように語られ、彼に嘘をつかれた事もないエマは「そうなのね」と素直に頷いた。獣人は神獣を祖先に持っているとされているので、そう考えると不思議でもないのかもしれない。
 聖なる不思議な生物が実在していたという実感はないが、いるといいな、と夢に見るぐらいの乙女心はある。もしかしたら、有翼馬といわれている『ペガサス』の血と性質を引いた獣人もいるのかも、とエマは想像を巡らせた。

「お前もどこかの本で見た事はあるだろう、ユニコーンは額に角を持っている。一族は『成長変化』を迎える前は全員が一角持ちなんだが、奴は角が未発達で生まれていてな」
「未発達……? 小さかったって事?」
「まぁ、そんなものだ。俺が見た時には、指先程度の長さの角だったな。奴らの角はクリスタル製で、人族には宝石がはえているようにも見えるらしい」

 エマの興味津々の表情から質問を見て取り、ジークが角についても余分に説明してから話の先を続けた。

「奴らについて説明する上で外せないのは、ユニコーン種は本来、角にある感覚器官で異性との相性を測っているという事だ」
「確か獣人は、本能的に相性を見て結婚相手を選別するのよね?」

 獣人の求愛から結婚までのしきたりは、人族と違った手順と独特の法律が施行されている。彼らは情が深く、必ず恋愛結婚なのだと噂にも聞いていた。
 エマはその内容を思い返して、確認するように声に出して指折り上げてみた。

「確か、相性が良くてお互いが了承したら、ひとまずの婚約者候補として『仮婚約』、結婚相手が決まったら正式に婚約して、準備期間の後に結婚する――それで合ってる?」
「正解だ。人族でもあるだろう、こいつとは馬が合わないだとか、気が合うなと思ったりする事が。そういうものを俺達が、敏感に感じ取れるというだけの話だ。出会って言葉を交わせば、それを間違える事なく理解する事が出来る」

 そういえば、とエマは十三年前の彼との出会いを思い起こした。精神的な発作で苦しんでいたところを保護した後、迎えの馬車に戻る際、幼い彼に「今日からお前は俺の親友だ」「必ずまた来る」と言われたのだ。
 幼いエマは考えもせず「友達ね! 分かった!」「じゃあクッキー用意して待ってる!」とすぐに答えたが、思えば一目見た時から、ジークとは良き友達になれそうだと感じていたためなのだろう。多分、それが『相性が良い』というやつなのかもしれない。
 突拍子もないところもあるが、ジークは一番の大切な親友だ。なるほど、人族と変わらない感覚なのね、とエマは簡単に解釈した。思案がすぐ顔に出る彼女を見て、ジークが「それでいい」と頷いて話の先を進める。

「獣人は本能で相性を感じ取る。だが特別な角を持った連中は、そこに宿った一族特有の器官を頼り過ぎる節があってな。奴は本能で相性が測れないからと決めつけて、異性に対して苦手へと転じたらしい」

 実に下らん、とジークが長い足を組んだまま、椅子の背にもたれかかった。
 幼馴染みで部下でもある人物について語るにしては、かなり辛辣な感想である。エマは思わず、犯罪紛いの光景が広がるそちらへ、ちらりと視線を流し向けてしまった。ジークが同じ方を見て、忌々しげに獣目を細める。

「獣人の本能で感知すればいいものを、角だけに頼るからそうなるのだ。……しかも、毎年ある時期になると鬱陶しくてかなわん。だから早々に見合いをさせてやろうと思ってな」

 その時、入室してから約一時間、一言も発せずにいた第三者が、口に巻かれていたタオルをようやく外して美声で悲鳴を上げた。

「そんな気遣いは要りませんから、やめて下さいジークッ」

 普段通りの様子で話すジークの横には、入室当初からずっと、全身を縄でぐるぐると巻かれた美青年が転がされていた。馬車から降りて早々、彼が縄で縛り上げていたその被害者がユニコーン種の獣人らしい、とエマは遅れて気付いた。
 床に転がる青年は、装飾品の多い白を基調とした騎士服に身を包んだ、ジークとは違った美貌の持ち主である。温厚そうな目鼻立ちに、長過ぎず短過ぎず清潔感がある見事な白銀の髪。切れ長のブルーサファイヤの瞳は、光の角度によっては虹彩がエメラルドにも光っても見えて、実に神秘的である。
 腰にはジークと同じ、王宮に属する軍人が所持している金の装飾が施された剣があった。まさに正統派の騎士様といった風貌で、若干泣きそうな顔も美麗さを引き立てるくらい、物語に出てくる王子様のようなイケメンである。

「……ジーク。本人、すごく嫌がってるみたいなんだけど」

 町で見慣れない騎士様をまじまじと見つめてしまったエマは、思わず正直に感じた事を口にした。視線がパチリと絡み合い、美青年がじっと見つめ返してきて少し落ち着かなくなる。彼はどこか少し驚いているような、それでいて不思議そうにも思っているような表情をしていた。
 頬杖をついたジークが「気にするな」と言い、指先だけを床に転がる幼馴染みへと向けた。

「コレはユーニクス伯爵家の次男で、ライル・ユーニクスだ」
「うわぁ……コレって紹介する時点で、ジークの彼への扱いが雑過ぎるのが分かるわね」
「ちなみに、俺やお前と同じ二十四歳だ。国の重要人物の専任護衛役も回ってくる、王族直属の近衛騎士隊の副隊長でもある」

 王族と王宮のための精鋭部隊の一つが近衛騎士隊だ、と以前に話を聞いた覚えがある。その副隊長というくらいだから、エマからしたら雲の上のような人である事に変わりはない。
 そんな伯爵家の次男を縛り上げ、床に転がした上でコレ呼ばわりとは……。
 エマは、もう一度彼の様子を確認してしまった。しかし、床に転がったままこちらを見続けている騎士、ライル・ユーニクスの美麗な顔をずっと直視していられず、どうして良いのか分からないまま視線を逃がした。
 なんというか、妙に緊張してしまうのは気のせいなのだろうか。ジークの話からすると、女性に対して苦手意識があるという話だったが、初対面であるにもかかわらず、向こうの騎士様の方が、冷静で落ち着いているような気もしてくる。
 すると、ジークが再度、彼に指を差し向けて「ライルだ」と口にした。

「いや、あの、私が呼び捨てにするのは――」
「構わん、俺が許す」

 一応相手は伯爵家の人間で、王宮の近衛騎士様なんですけど……。
 エマは困ってしまった。そばで縛られているライルが、ふと我に返ったように顔を起こしてジークを見上げた。

「ジークッ、そもそも何であなたは、勝手に殿下達とパーティーの予定まで進めているんですか!」

 聞いているだけで同情してしまう、なんとも可哀そうな台詞である。
 エマは、こっそりと横目に美貌の騎士様の様子を盗み見て、それを痛感した。

「あの、ジーク? 彼、本気で嫌がって今にも泣きそうなんだけど……?」
「だから気にするなと言っただろう。そろそろ婚約者を、と少し前から口にしていた男だ。もとよりユニコーンのオスは『女性に優しくするのが幸福』みたいな種族なんだぞ。それなのに苦手としているというのも、心底哀れで可哀そうだと思わんか?」
「……うーん、そう言われてみれば、ユニコーンって女の人を崇拝するレベルで信頼している気がする……」

 獣人は、それぞれがルーツとなった獣の性質を持っている。本や絵で伝えられているユニコーンという存在から想像すると、女性に弱くて、ころっと落ちてしまうイメージがすぐに浮かぶ。
 ライルはとても誠実で優しそうに思えるので、もしかしたら、第一印象を裏切るダメさでもあるのだろうか?
 そう真剣に悩み始めたエマを見て、ライルが途端に慌てて、ジークに「そんなんじゃありませんッ」と主張を返した。

「そもそも、父や兄がおかしいんですよ! あの人達、特に『清らかな女性』にはめっぽう弱いんですからッ。騎士としては、どうかと思う最大の弱点です!」
「面白いから問題ない。そして露骨ではないとはいえ、お前もその予備群だ」
「そんなわけないでしょう!?」

 床に転がるライルの嫌がりようを見て、ジークが軍靴の先でつつき「ははは、愉快愉快」といつもの低温で冷やかな笑みを浮かべた。しかし、すぐに飽きたのか、ふっと表情から力を抜いて長い足を組み直す。
 ジークの黄金色の髪がさらりと揺れて、美しい瞳がゆっくりとエマに向けられた。

「つまり、こいつに見合いをさせるから、異性の耐性をつけさせるために協力しろ」
「え。……いやいやいや、なんでそうなるのよ!?」
「こいつは女を前にすると、阿呆なくらい緊張感を持つ癖があってな、そういう苦手意識に拍車が掛かってかなり状況は悪い。このまま交流パーティーに放り込んだとしても、成果が出ない事は目に見えている」

 俺は効果を出さないものに対して、むざむざ腰を上げて無駄な労力を使うのはごめんだ、とジークは当然のように言ってのけた。真面目な顔でテーブル越しにずいっと顔を近づけたかと思うと、エマの目と鼻の先で「そこで――」と、しっかりと頷く。

「――お前の出番だ」
「なわけないでしょッこの阿呆!」

 エマは反射的に、近くまで寄っていた頭を思い切り叩いた。
 ジークが低テンションで「いてっ」と条件反射のように、痛くもない癖にいつもの形だけの声を上げ、不服でならないという表情で見つめ返した。その一連の流れを見ていたライルが、目を丸くする。

「エマ、突然何をするんだ?」
「それはこっちの台詞ッ」
「適任だろ。アレは一応、俺も認めている幼馴染みだからな。お前以外に任せられる相手もいないし、奴ならば全く問題なくお前に任せられるという訳だ」
「意味が分からないんだってばッ。そもそも何で私なのよ!?」

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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