『壊滅騎士団と捕らわれの乙女』重版出来!! | 一迅社アイリス編集部

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好評発売中のシリーズ『壊滅騎士団と捕らわれの乙女』の1~4巻が重版されました(≧▽≦)

12月の最新刊『壊滅騎士団と捕らわれの乙女6』とともに、書店様へお届けしておりますので、ぜひこの機会にお手にとってお楽しみくださいラブラブ

壊滅重版


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『壊滅騎士団と捕らわれの乙女』
壊滅1cov
著:伊月十和 絵:Ciel

★STORY★
田舎貴族の娘フィーリアは、行方不明の姉を捜しに王都へ来た途端、牢屋へ!? その窮地を、幼馴染みで黒十字騎士団団長ヴィンセント王子に救われたものの、意地悪な彼に助けられても嬉しくはなかった。けれど、姉捜しに協力してくれるヴィンセントは、以前よりなんだか優しいような? と、彼のことを見直していたある日、フィーリアは知ってしまった。彼の衝撃的な、本性を――

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 暖炉の薪がはぜるような音を聞いて、フィーリアはゆっくりと瞳を開けた。
 視線を巡らせると、至近距離にあった人の顔を見つけて思わず身構える。

「ぎゃっ! 私を食べても美味しくありませんよ! 肉なんてほとんどありませんからね!」
「……気付いたのか。良かった」

 耳の奥にまで響く、バリトンの声。
 誰だろうと寝起きの頭でぼんやりと考えるが、暗がりでよく顔が見えない。
 目を凝らし、ようやくその者の姿を確認することができた。
 フィーリアの顔を覗き込んでいたのはヴィンセントだった。
 ヴィンセントはフィーリアの頬に手の甲を這わせると、立ち上がって視線を別の方向へと向けた。

(気のせいか……今なんだか、とっても安心したような表情に見えたんだけど)

 いや気のせいだ、きっと暗がりだからそう見えただけだと即座に否定した。
 フィーリアは大きな樫の木の根元に座らされていた。
 記憶をたどる。
 ついさっきまで砦の中の、出口などひとつもない小部屋に娘たちと監禁されていたはずだ。
 それがどうして屋外に? と不思議で仕方がなかった。ここはどうやら森のようだった。枝と葉の天井の隙間から、月を望むことができる。
 捕らえられていた場所からすぐに森が見えた。ここはその森なのだろうか。

(もしかして、助けてくれた、の……?)

 半信半疑で、ヴィンセントの姿を見つめる。
 彼の横顔が、橙色の炎に染まっているように見えた。
 視線を転じると、そこには燃え上がる砦が見えた。恐らくは、フィーリアが今まで閉じ込められていた砦である。

「ちょっと、一体どういうこと!」

 一気に眠気が吹き飛んだ。
 フィーリアは立ち上がり、燃えさかる砦を見つめた。
 フィーリアたちが居るのは、やっぱり砦から少し離れたところにある小高い丘の上だった。砦からは少し離れた場所だ。街で言うと、一ブロックくらいの距離だろうか。
 しかし、砦が燃え上がる炎でこちらまでほのかに明るい。
 よくよく見ると、燃えているのは砦にかかっている橋だった。砦はぐるりと掘に囲まれていて、砦に入るにはその橋を渡らなければならない。

「あの、もしかして助けてくれたの?」
「知らない男にひょいひょい付いていくな」
「付いていったわけじゃないけど」
「……けっ、怪我はないのか」

 蚊の鳴くような小声で言われ、初めはなにを言われているかピンと来なかった。
 視線を前に向けて、フィーリアのことなどちっとも見ようとしないヴィンセントの横顔を見つめているうちに、なにを聞かれたかじわじわ理解できた。

「あっ、怪我ね。ちょっとお尻打ったけど、別に怪我というほどでは」
「ずぶ濡れなのはどういうことだ? 逃げようと思って掘にでも落ちたのか? 間抜けだな」

 ヴィンセントはふふんと鼻で笑う。

「違うわよ。麻袋被されて、なんか変な薬みたいなものかがされて眠らされて攫われて、なかなか起きないからって水ぶっかけられたのよ」
「ほう」
「あと、無理矢理に腕掴まれて歩かされたり、石の床に叩きつけられたり。きっと青アザができているわ、今もじんじん痛むもの。もうちょっと淑女として扱って欲しかったわ」
「なるほどな」

 なんてことない相槌なのに、なんだかすごい恨みが込められている気がするのは、ヴィンセントの瞳が炎を映して、赤く揺らめいて見えるからかもしれない。

(お前なんて、荷物として扱われて当然。どこが淑女だって噛みついてくると思ったのに)

 なんだか張り合いがない。
 今日のヴィンセントはなんだか変だ。

「そういえば、私と一緒に何人か女の子が居たはず……」

 フィーリアが言うより前に、ヴィンセントは歩いて行ってしまった。
 なにかと思って見ると、どうやら誰かがこちらに来たらしい。ヴィンセントと同じ黒い軍服を着ている、黒十字騎士団の人だ。
 彼はヴィンセントの目前まで来ると、ビッと敬礼した。

「砦へと通じる橋も、地下通路も、全て破壊しました。これで奴らは袋のネズミです」
「ご苦労だった。そのまま砦を燃やしてしまえ」
「は? このまま生け捕りにするのではないのですか?」
「あいつらに、公平な裁判など受けさせてやる必要などない。お前らがやらないなら、俺がやる。……いや、ただ焼死させるなんて生ぬるい。そうだなぁ、まずは足の腱を切って動けなくしてから生爪を」

 それ以上は聞いていけない。心の平穏のためにフィーリアは耳を塞いだ。
 ヴィンセントは不穏な笑みを浮かべながら男の肩を押して道を空けさせると、砦に向かって歩き出した。

「ちょっとちょっと! ちょっと待って!」

 フィーリアは慌ててヴィンセントの目前へと回り込んだ。

「私と一緒に捕らえられていた女の子たちは? まさか、まだあの砦の中に?」
「ああ、そういえばそのような者が居たような気がするな」

 ヴィンセントが呑気に言って、顎に人差し指をあてる。
 年頃のかわいらしい女の子が十人もいたのに、まるで眼中になかったかのような言い方だ。

「それにっ。私を攫った人たちだって、そりゃあ嫌な人たちだけど、砦に閉じ込めて焼き殺しちゃうのはどうかと」

 本当はそれ以上のことをしようと言っていたようだが、その発言には触れなかった。

「お前は黙ってろ」

 ヴィンセントは触れたら切れてしまうような鋭い口調で言って、フィーリアを押しのけて行こうとする。
 どうしたものかと落ち着かない気持ちでいたところへ、こちらへ向かって走って来る娘たちの姿を見つけた。
 彼女たちを先導しているのは、ロクだった。フィーリアたちの姿を見つけると、大きく手を振って走って来た。

「なんとか間に合いました。いやいや、全員残らず捜し出すのに苦労しました」

 いつも冷静な彼らしくなく、焦っているような表情だった。

「そうか。ならば、もうなんの問題もないな」

 ヴィンセントは黒い笑みを浮かべた。
 なんとも言えない気迫を感じる。
 これが、壊滅騎士団と呼ばれた騎士団の団長の姿なのだろうか。
 確かに、砦に居た者たちは犯罪者だ。なんの罪のない娘を攫って、金持ちにでも売り飛ばそうとしていたのだろう。だからといって、残虐な方法で始末するのはやりすぎである。

「ちょっと待って! 彼らは人身売買組織の者たちのようだったわ! 彼らで組織の全員だとは限らない。彼らを捕らえて、話を聞かないと」

 言いながら、どうして自分を攫った者たちをかばっているのだろうか、頭が混乱していきた。

「だったら、ひとりを残してあとは殺す。一番口が軽そうな奴を残そう」
「いやいや、そういうことじゃなくて!」

 なんと言っても聞きそうもない。
 すっかり困り果てているところで、ロクがすっとフィーリアの横にしゃがみ、耳打ちをする。

「一刻も早く私を連れて帰って、とおっしゃってください」
「え? なに? なにそれ、どういう意味?」
「団長の気を変えさせたいのならば、それが一番効果的です」
「は?」
「甘えるように言えば、更に効果があるでしょう」

 一方的に言って、ロクは助け出された娘たちの所へと行ってしまった。
 ロクがなにを言っているのかよく理解できなかったが、他に方法もない。
 なにか企んでいるような顔のヴィンセントを見つめつつ、フィーリアはこほん、とひとつ咳払いをした。

「ヴィンセント、その……そんなことより私早く帰りたいの」

 ちょっとはかわいらしく見えるように、小首を傾げてみた。

「夜風は冷たいわ。髪も濡れたままだし、このままだと風邪を引いてしまいそう」

 肩をすぼめて、シナを作ってみる。

「それに……こんな怖い思いをしたところは一刻も早く離れたいわ。ヴィンセントが一緒ならば、安心して帰れるのだけれど」

 今度は不安そうな顔をしつつ、上目遣いでヴィンセントを見つめた。
 ヴィンセントはなにも言わず、じっとフィーリアを見下ろしていた。

(ヤバい。バカにされる……。なにやってんだって鼻で笑われるわ。やっぱり、こんな方法でヴィンセントの気持ちを変えることなんてできないのよ。しかも相手は私だし。姉さんくらいの美人だったらいざ知らず)

 諦めのため息を吐き出そうとしたとき。

「そうか、ならば早く帰るか」

 あっさりと言って、身を翻した。
 もう砦のことなど、どうでもいいというような態度だ。
 そして。
 ヴィンセントが次にとった行動に、フィーリアは度肝を抜かれそうになった。
 自分の上着を脱いで、フィーリアの頭に掛けたのだ。

(は……?)

 フィーリアはぼんやりとヴィンセントを見上げることしかできない。

「どうした。さっさと帰るぞ」

 そうして、ヴィンセントはフィーリアを軽々と持ち上げると、部下が引いて来た黒馬へと乗せた。

「後のことは任せる」

 ヴィンセントはロクにそう命じて、フィーリアを背後から抱き抱えるような形で馬に乗り込むと、鋭く鞭を入れた。
 フィーリアは、馬から振り落とされないようにとヴィンセントの腰にしがみつきながら、頭の中には疑問符ばかりが浮かんでいた。

(え? なに? 一体なにが起こっているの? あれほどやる気満々だったのに、こんなにあっさり砦を部下に任せるなんて。……もしかして私に言われて行動を変えた? あのヴィンセントが? どうして?)

 納得のいく答えなど、得られそうもなかった。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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