『お見合いはご遠慮します』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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という編集部ブログ。

こんにちは!
いよいよ発売日直前です!

ということで、今日も試し読みをお送りします( ̄▽+ ̄*)

第2弾は……
『お見合いはご遠慮します』
お見合いは1
著:佐槻奏多 絵:ねぎしきょうこ

★STORY★
仕えている少年王子が大好きすぎる女官サリカ。彼女は、わけあって日ごろから結婚をしないと公言していたのに、急に女官長から執拗にお見合いを勧められてしまう。きっぱりと断っても、女官長は止まらい! 無理やり出会いの場を作られ、サリカは窮地に立たされてしまって!? 
「小説家になろう」で人気の王宮ラブコメディがついに書籍化ラブラブ

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「初めてお目にかかります。ゾフィア女官長より、貴方のお見合い相手として選ばれて幸運に思っております。想像以上に優しそうな方で、安心いたしました」

 じっと見つめてくるロアルドに、サリカは背筋が寒くなる。
 サリカは会いたくなかったし、紹介してほしくもなかったのだ。とにかく断らなければならない。でもどうやって……と思った時、サリカの頭の中にひらめいたのは、母から送られてきた巻物。その中に綴られていた文字だ。

『二 見合いを仕組まれた場合、なるべく相手の嫌がる事をして幻滅させる』

 これを実行すべく、一度こほんと咳払いして、思い切り冷たい表情を作ろうと無表情を心がける。

「えっと、お見合いのお相手だと仰るのなら、こんな風に突然訪ねて来るのは、いくらわたしが貴族ではないとはいえ、失礼すぎるのではありません?」

 上から目線で素っ気なくされれば、プライドの高い貴族ならば不愉快になるはずだ。間違いなく『こんな女と結婚なんて!』と言ってくれるはずだとサリカは考えたのだ。
 だがロアルドは、サリカの返答に表情も動かさない。

「ええ、これは正式なものではありません。ゾフィア女官長から、貴方が恥ずかしがって逃げてしまうかもしれないから、一度会って安心させて欲しいと言われたのですよ」
「…………」

 サリカは言葉に詰まった。
 女官長の行動は正しい。予告が必要な『正式な見合いの場』であったなら、まずサリカは仮病を使ってでも出ない。ロアルドに会おうともしなかっただろう。だから女官長はこんな突撃企画を思いついたに違いない。敵はサリカよりもずっと上手だったようだ。
 自分でも眉間にしわが寄っていると分かるほど悩んでいると、ロアルドに言われた。

「……困っていらっしゃるようですね」

 サリカは思わず彼を見上げる。

「本当は、お見合いなんてしたくない、と思っているのでは?」
「そうです……結婚するつもりはないので」

 尋ねてくれたからと、正直にその気がないことを話した。

「貴方が結婚を嫌がっていることは、叔母であるゾフィア女官長から聞きました。もしかして、過去に男性が嫌いになるようなご経験でもなさったのですか?」
「えっと……」

 男性が嫌なわけではない。でもどう答えたらいいのかとまごついている間に、ロアルドが傍に近づいてきていた。

「傍にいるのは嫌ではないのですよね?」
「ええ。男性に近づけもしないのなら、仕事ができませんから」
「では、これはどうですか」

 あっさりと彼に手首を握られる。自然な動作に、サリカはついそれを許してしまった。

「男性恐怖症、というわけではないんですね。良かった」

 手首を握って軽く持ちあげたロアルドは、邪気のなさそうな微笑みを浮かべている。それを確かめるためだけに手を握ったのかと思えば、サリカは怒る気が削がれてしまった。でも抗議はしなくては、と思ったが、さらに先制攻撃が来た。

「手を握られるだけでも、戸惑いましたか? 可愛いですね、サリカさん」

 褒められてあっけにとられた間に、敵は畳みかけてくる。

「結婚を嫌がってると聞いて、これを心配しておりましたが……問題が無くて良かった。実は昨日、貴方の様子を遠くから拝見して、とても可愛らしい方だと思いました。ぜひ後日、正式な場でお会いしたいと願っておりますサリカさん。私の招きに応じて下さいますよね?」
「え!?」

 可愛いとか、今まで言われたことがないので驚いてしまう。
 同時に、だからこそサリカはロアルドを警戒した。自分に対して褒め言葉があっさりと出てくるあたり、何か思惑があって嘘をついているのに違いないと断じた。
 なにせ能力のことを知らないのなら、サリカを嫁にもらう利点などない。では何が原因か……と考えたサリカは、自分の血筋のことに思い至る。
 サリカ自身は平民身分だが、祖父は辺境伯だ。そちらは能力を受け継がなかった母の兄一家が継ぐ予定だが、彼らが皆殺しにでもされたら伯爵位はサリカの元へやってくるだろう。それを目論んでいるのではないだろうか。

「美人でもないわたしがいいなんて、貴方は辺境伯家の親族を殺して乗っ取るつもりなんですか!?」

 ついサリカがそう疑問を口にすると、ロアルドはぽかーんと口を半開きにして硬直した。けれどすぐに、皮肉気な笑みを浮かべる。その様子に、なぜか巨大な食虫花を連想したサリカは、ぞっとした。
 次の瞬間、掴まれていた手を引かれ、サリカはロアルドに抱きしめられていた。
 両腕ごと抱きしめられ、ロアルドの胸に頬を押しつけられる。
 サリカは身動きがとれなくなった。逃げようとしてもがいたが、彼は筋骨隆々な人でもないのに、ふりほどけない。

「貴方の予想は外れですよ。それにしても楽しい発想をされる方なんですね。しかもご親族を心配して私を警戒するとは、優しい方ですね。ますます気に入りました、サリカさん」
「えっ、やだ、離して!」
「お見合いをする、と言っていただけたら離しますよ?」

 それは嫌、とサリカは叫びたかった。お見合いの席などについたら、こんなことをする人のことだ、一気に婚約発表までされてしまうかもしれない。でも見知らぬ異性に抱きしめられるという状態に、慌てていたサリカは反論しようにも言葉が出てこない。
 いっそロアルドの心を操って、この部屋から出て行かせようかと考えた。でも力を使ってしまえば自分の秘密がバレて、家族を危機に陥れかねない。
 だってサリカの力は、家族の中で一番小さい。使うまでに時間がかかったり、その間に相手に気取られることも多くて使い勝手が悪いのだ。
 せっぱつまったサリカは、心の中で『誰か助けて!』と絶叫した。
 助けてくれるなら誰でもいい、奇跡が起こらないかと願ったものの、そんな都合のいいことが起こるわけがない。諦めて、礼儀作法を無視してロアルドの足を踏みつけようとしかけた時。
 突然、部屋の扉が開かれた。
 まさか本当に助けが来た!? と思いながら振り返ったサリカは、そこにいた意外な人物の姿に目を瞬いた。

「ラーシュ、様……?」

 黒灰の髪の、けだるそうな表情をした国王の騎士ラーシュだった。


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~