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2月の試し読みを本日よりスタートします~
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第1弾は……
『薬の罠に気をつけて2』
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著:宮野りう 絵:ひだかなみ
★STORY★
王弟公爵フィオンへの気持ちを自覚した男爵令嬢のコレット。しかし、フィオンの身分ゆえに想いを伝えられずにいた。そんな中、惚れ薬の解毒薬をフィオンに飲ませることが決まり……!? 甘く切ない恋物語、待望の続巻!
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フィオンの視線が、コレットの首筋に落ちた。そこにあるものを確認すると、フィオンの指がコレットの肩のあたりにそっと触れた。
「着けてきてくれたんだね。ありがとう」
夏至祭の後、フィオンがプレゼントしたムーンストーンのネックレス。それをなぞるようにフィオンの指が動く。
鎖骨のあたりにフィオンの指先を感じ、コレットの視線が泳いだ。ちらりと視線を上げると、フィオンがネックレスを見ながらとっても嬉しそうに微笑んでいる。フィオンの笑顔一つで、コレットの胸がぎゅっと締めつけられるように痛んだ。
愛しくて、嬉しくて、切なくて。
「……先日はすまなかった。兄上が急に呼び出して、驚かせてしまったね」
少し静かな時間が流れた後、フィオンが口を開いた。
急に話題が変わり、びくんとコレットの肩が震える。
今日、フィオンに会うことになると決まったときから、この話題がのぼることは覚悟していた。覚悟はしていたが、聞きたくない。聞いていたくなかった。
耳をふさぎたい衝動を必死でこらえて、コレットは首を横に振る。
驚いたのは事実でも、フィオンが謝る必要などまったくない。それは王がフィオンやコレットのためを思ってしてくれたことだと、コレットにはよくわかっている。むしろ今、フィオンに謝られることの方が辛かった。
「兄上からも聞いた通り、僕はこれから解毒薬を飲まなくてはいけない」
「……はい」
フィオンの言葉に、コレットは頷いた。
頷いた拍子に少しだけ顔を上げると、自分を見つめているフィオンと間近に視線が絡んだ。思考がうまく働かず、視線をそらすことすら忘れて、コレットはじっとフィオンを見つめる。
少し寂しそうに笑うと、フィオンはぽつりとつぶやいた。
「そうしないといろいろ納得しない人たちが多くて、困ったものだね」
困ったように笑いながらも、フィオンの瞳には迷いがなかった。
そう、彼は決めてしまったのだ。解毒薬の服用とその後のことも……。
王命が下り、フィオンもコレットもそれを受け入れた。それはフィオンを思うゆえの命令だったから、もちろんコレットに拒否などできるわけはないが、自分でもよく考え覚悟を決めたはずだった。
それでも、気持ちは素直に従うことができない。
いったい自分はどうしたいのだろう。
解毒薬を服用することになれば、もうフィオンの言動に薬の影響があることを不安に思う必要もなくなる。国内もこの騒ぎに終止符を打ち落ち着くことだろう。だが、解毒薬を服用することですべてが以前の通りになるのなら、フィオンとの接点も、こうして言葉を交わすこともなくなってしまうかもしれない。すべては事件前に戻るだけ。
飲んで欲しい。
でも、飲んで欲しくない。
フィオンのため、国のため、いろいろな理由をつけて自分を納得させようとしても、コレットの中でもどうしたいのか、どうなって欲しいのか、混乱していてよくわからない。
コレットの目蓋が熱くなって、涙が出そうになる。それをぐっとこらえるように、体に力をいれた。
それに反発するように、喉の奥がひりひりと痛んでくる。涙を見られるのを避けるように、コレットは膝の上に置いた手に視線を落とした。
フィオンの手が、ソファの背もたれに伸ばされたことを気配で感じた。少しだけ意識をそちらに向けた刹那、フィオンがコレットの耳元に顔を寄せる。触れるか触れないかというその距離に、空気をつたってくるわずかなぬくもりすら熱い。
「君にとって、僕の想いは迷惑でしかなかった?」
「……えっ?」
耳元でささやかれた声に、ぱちぱちとコレットは目を瞬かせる。
一瞬、何を言われているのかわからなかった。
(迷惑……?)
迷惑だなんて思ったことなどなかった。
惚れ薬の一件で戸惑ったことは多かったし、危険な目にも遭った。それでも、フィオン本人を迷惑だなんて思ったことなど一度もない。迷惑どころか、いつも助けてもらっていたような気がする。辛いときも、困ったときも、危険な目に遭ったときも、いつもフィオンがコレットのそばにいてくれた。
「どう……して?」
顔を上げれば、辛そうな表情をしながらまっすぐに自分を見つめてくるエメラルドの瞳がある。それは、自分が不安に押しつぶされてしまいそうな表情をしているからだと、コレットには気がつくことができない。
ぽろりとコレットの瞳から涙がこぼれた。
迷惑なんかじゃない。
ただ、好きで、そばにいたくて。でも、だからこそどうしていいのかわからなくて。
「ごめん。君には辛い思いをたくさんさせた」
「ち、ちが……」
否定しようと口を開く。
でも、涙が止まらなくて、胸が苦しくて、喉が締め付けられるように痛むから、うまく声がでない。それでも、フィオンの言葉を否定したくて、コレットは必死で首を横に振った。
(違うっ! 迷惑でも、嫌いでもないんです。わたしは……)
何とか声を絞り出そうと息を吸い込んだ次の瞬間、コレットはフィオンに引き寄せられた。背中に大きな手のぬくもりを感じながら、ぎゅっと抱きすくめられる。動きを封じられるようにすっぽりと抱き締められれば、フィオンが好きだということ以外何も考えられない。
少しだけ力が緩められ、フィオンはコレットの顔を上に向ける。ゆっくりとフィオンの唇がコレットの目元に落ちてきた。それを受け入れながら、コレットは静かに目を閉じた。
濡れて冷たくなった頬に熱いほどのぬくもりを感じる。熱い吐息とともに唇が離れると、コレットは目を開く。間近に見えるエメラルドの瞳に、もう我慢することなんてできなかった。
「……わたし……」
これから解毒薬を服用しなくてはいけない。だから、思いを伝えては迷惑になると思っていた。
それでも。
なんとか絞り出すように言葉をつむぐ。
「わたし……っ! フィオンさまのことが、す……」
「失礼します」
コレットが言い終わらないうちに、その声に覆いかぶさるようにしてノックの音が響いたかと思うと、部屋の扉が開かれた。
「準備が調いましてございます。別室へのご移動をお願いします」
従僕の言葉が聞こえなかったように、フィオンはコレットを見つめたまま動かない。
「フィオンさま。ご移動を……」
聞こえなかったのかとなおも食い下がる従僕に、フィオンは小さくため息をついた。
「君は、誰に命令している?」
「い、いえ、決して命令しているわけでは……」
慌てたように、従僕は頭を下げた。
「もうしばらく、待っていろ」
有無を言わさず命じると、自分を見上げるコレットにフィオンは優しく微笑みかけた。コレットの頬に手をあて、涙を拭う。
「時間だね」
「あっ……」
「コレット、君が好きだよ。……もし、君も少しでも僕を好きだと思ってくれるのなら、この先何があったとしても僕を信じて欲しい」
「フィオンさま」
コレットに微笑みかけ額にそっと口付けると、フィオンはソファから立ち上がった。コレットに手を差し伸べ、その手をしっかりと握り締める。コレットが立ち上がるのを確認し、部屋の隅で待機していた従僕に顔を向けた。
「行こう。案内を」
~~(続きは本編へ)~~