発売日まであと少しです!
2月の試し読み第2弾は……
『壊滅騎士団と捕らわれの乙女4』
著:伊月十和 絵:Ciel
★STORY★
黒十字騎士団団長ヴィンセント王子に一途に思われすぎて、ついに婚約してしまった田舎貴族の娘フィーリア。ところが、国王から突然「結婚を認めた覚えはない。認めて欲しければ皇太后に結婚の許可をもらってこい」と言わたフィーリアは、売り言葉に買い言葉で皇太后の住む港町へと旅立つことになり――。
◆詳しくは、一迅社文庫アイリス「壊滅騎士団と捕らわれの乙女」特設ページへ⇒GO
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「ところで、皇太后もよくお嬢様に会う気になりましたね。元はどこかの国の第一皇女だったと聞きますし、生まれつき身分とか、伝統とかしきたりとかに厳しい方ではないんですかね? それが、皇太后にしてみたらどこの誰だが分からない娘に突然会うと言い出すなんて」
クロッシアが思いっきり話の腰を折った。あなた私の従者で、私の味方じゃないの? と歯をギリギリと噛みしめたいところだ。
「それは団長も意外だとおっしゃっていました。あのババ……失礼、皇太后様がなにか企んでいるのではと危惧しておりました」
「まさか。考えすぎよ。ただ、手紙でやりとりするよりも直接会って話したい、とそれだけでしょう?」
皇太后からの手紙に書かれていたのはただひと言だけ。
『まずは私に会いに来なさい』
初めはなんのことかよく頭に入って来なかった。二度、三度、その言葉を見つめて噛み砕いて、とにかく会いたいということだな、と理解した。そう言われて会いに行かないわけにはいかないと、急いで準備を整えてフェリングへ向けて出立したというわけだ。
「結婚の許可を取るために皇太后の許へ。お嬢様はなんだかんだ言って、ヴィンセントの旦那と結婚する気満々ですね」
「ちっ、違うわよ!」
「なにが違うのですか? 団長は皇太后様の許可など必要ないとおっしゃっているのに、フィーリアさんはそれでも皇太后様に会いに行くとおっしゃる。皆に祝福されて団長と結婚したいというお気持ちでしょう?」
ふたりににやにやと見つめられてしまった。
「違います! これはあのいけ好かない国王陛下の鼻を明かすためです」
フィーリアは拳を振り上げて熱弁を奮った。
クロッシアとロクは若干引いている様子だが、そんなこと構うものか。
「一度は結婚の許可をしたはずなのに、そんな覚えはないだの、猿の分際で本気で我が息子の嫁になれると思ったのか、夢を見過ぎだとか、ウッキーとか」
「国王陛下が本当にそのようなことをおっしゃったのですか?」
ロクが眉をひそめる。
よくよく考えるとそこまでは言われていないように思うが、訂正はしない。屈辱的な言葉を投げかけられたことに違いはない。
「私は皇太后様のお気に入りになって、結婚の許可なんて速やかにもぎ取ってみせるの。そしてあの高慢な国王が『どうかヴィンセントの嫁になってくれ』と床に額を擦り付けて頼んできたところで『誰がお前の息子の嫁になどなってやるものか!』と華麗に断ってやるわ!」
フィーリアは、ほぉーほっほと高らかに笑った。フィーリアが考える、高級貴族の令嬢らしい他者を見下す高飛車な笑い方だ。
「……要は、国王陛下に小馬鹿にされて悔しかったと、そういうことでしょうか」
「……そんなことだろうと思っていました。あの恋愛ごとには疎いお嬢様が結婚に対して、ここまで情熱的になるなんて考えられませんから」
「団長は口には出しませんが『俺のために皇太后に結婚の許可を取りに行くなんて』と感動したに決まっています。皇太后様の許可などいらないと言いつつ、フィーリアさんの出立を止めようとはしませんでしたからね」
「ヴィンセントの旦那も気の毒に」
「これが、フィーリアさんをお嫁にもらうということなのでしょうか」
「そうでしょうね。とにかく、お嬢様に恋愛方面で期待しても無駄です」
ふたりは以前にフィーリアがヴィンセントに対して思っていたのと同じようなことを、フィーリアに対して言っている。
半分は当たっているが、半分は違う。
国王の鼻を明かしたい気持ちはもちろんある。だからといって、本気で国王にぎゃふんと言わせるためだけにヴィンセントと婚約破棄しようなんて気はない。
本当は、恥ずかしくて照れくさくてなかなか言えないが、ヴィンセントの嫁として彼の家族に認められたいだけなのだ。
(皇太后様に認められない嫁よりも、認められている嫁の方がいいに決まっているわ。それでなくてもいろいろ言われている人なんだから。私が足を引っ張るようなことは極力したくない。家柄とか容姿とかは今更どうにもならないから)
フィーリアだってフィーリアなりにヴィンセントのことを考えているのだ。
人の目の前で堂々とこそこそ話をしている我が従者と真面目すぎる騎士は気付いていないようだが。
(皇太后様に会ったら、まずは心を込めて挨拶しましょう。それから近況をお話して……王都を離れてお寂しく暮らしてらっしゃるでしょうし、話し相手に飢えてるかもしれない。だからこそ私にも会ってくれると言ってくれたのかもしれないし!)
そんなことをあれこれと考えながら馬車に揺られ、予定通り三日後の昼にはフェリングへたどり着いた。
~~(続きは本編へ)~~