第7章 韓国ドラマ映画
257.御史(オサ)とジョイ❶ 2021年
NHK BS アジアドラマ枠で新しい韓国時代劇ドラマが始まりました。
2021年に韓国tvNで放送し2022年日本のケーブルTVの「衛星劇場」で放送された今作「御史(オサ)とジョイ」。
今回から何回に掛けこのドラマについて語る事にしましょう。
以前も語りましたが、時代劇が低調だった2020年を挽回するかの様に、このドラマが放送された2021年は韓国で時代劇が大きく復権した年でした。
その年に放送を開始した時代劇ドラマとしては「王女ピョンガン〜月が浮かぶ川」「ボッサム〜愛と運命を盗んだ男」「ホンチョンギ紅天機」「恋慕ヨンモ」「赤い袖先」「太宗(テジョン)イバンウォン」 「花が咲けば月を想い」そして今作「オサとジョイ」までなんと8作品も有り、2020年下半期から2021年初めまで放映された作品「チョリン哲仁王后」、「アメンオサ〜朝鮮秘密捜査団」まで加えれば10作品にもなります。
3作に留まった前年度と大きな違いでしたが、その多くのドラマが高視聴率をマークし、「時代劇復権」が大きく叫ばれました。
「チョリン哲仁王后」、「アメンオサ〜朝鮮秘密捜査団」はそれぞれ17.4%、14.0%という高い視聴率で終映し史劇に対する高い関心を証明しましたが、それ以外の史劇も「赤い袖先」のブームを筆頭に日本でも人気を博した「恋慕ヨンモ」など視聴率ばかりかそのクォリティを世界的にも認められた作品が目立ちました。
このドラマ『オサ御史とジョイ』について言えば全国4.035%、首都圏4.440%で始まった視聴率がそれぞれ最高視聴率5.257%、6.063%、平均視聴率4.157%、4.47％と少々ヒット作とは言い難い残念な成績でしたが、朝鮮王朝時代の離婚を描くと言う題材の目新しさや考証の良さが好評を呼ぶなど様々な話題を振り撒き終映しました。
私も視聴出来る日を待ち侘びましたが、NHK BSと言う一般の人に訴求しやすい媒体で放送されるとは嬉しい限りです。
このドラマは美食家の暗行御史アメンオサと離婚ホヤホヤの女性が悪事を暴く正義とトキメキの捜査劇です。
まずは概要を。
ハラが減っては捜査はできぬ
美食家で料理も得意な名家の青年ラ・イオン。
科挙に主席で合格し、しぶしぶ役人になるも、仕事や出世にはまったく興味がなく、頭の中はおいしいもののことばかり。
ところが突然、地方の不正を取り締まる王の密使「暗行御史アメンオサ」に任命されてしまう。
危険な任務で誰もやりたがらず、イオンにお鉢が回ってきたのだ。
仕方なく気心知れた従者２人と赴任先へ行くが、さっそく不審な２件の事故死に出くわしてしまう。
面倒な取り締まりなどせずに食べ歩きに精を出すつもりだったが、持ち前の正義感がうずいて気になってしょうがなくなり、少しだけ事件の謎を調べてみることにする。
一方、望まぬ婚姻で姑(しゅうとめ)にこき使われていたキム・ジョイは、自らの自由と幸せを求め離婚を申し立てていた。
偶然出会ったイオンのおかげで離婚が認められたジョイだったが、不審な事故死の1人はジョイの親友だった。
事件の謎と不正を暴くため動き出したイオンとジョイ。２人はやがて、その裏に潜んでいた、とてつもない陰謀の真相に近づいて行く。
(引用 NHK公式サイト)
意図せずアメンオサ暗行御史になってしまった若いイケメンと若い女性との異色の組み合わせのドタバタ捜査劇と言うと、「離婚した若い女性」と言う多少の特色は有れど「イケメン・アメンオサ暗行御史ものがたり」として同年人気を博したKPOPアイドルグループ「インフィニティ」のエルことキム・ミョンス主演で大ヒットした『アメンオサ〜朝鮮秘密捜査団』とドコとなく被(かぶ)って居ます。
ましてやコチラの主人公は「赤い袖先」で大ブレイクしたジュノの居る人気アイドルグループ「２ＰＭ」の人気メンバーテギョンと来てますから、上記ドラマに真っ向から勝負でしょうか？
彼は時代劇初挑戦との事ですが、初の悪役を演じた『ビンセンツォ』出演時にオファーを受け、脚本を読み役者としてのモチベーションをもらい快諾したと言います。
俳優については次回以降また語らせて頂きます。
以前にも何度か述べて居る様に「アメンオサ暗行御史」は朝鮮王朝時代に実際に存在した国王が派遣した臨時の官吏で、日本で言う所の「水戸黄門」と言えますが実際にこのドラマの主人公たちの様に若い官吏が任命される事は有り得ない事でした。
何故なら地方の官庁に赴いて地方長官「スリョン守領」の悪事を暴くにしても有る程度の職務をこなした人物で無ければ悪事を見抜けないと言え、基本的に官職の経歴を重ねた中年以上の文官を中心に派遣しました。
↓アメンオサ暗行御史についてはコチラ↓
特にその中でも地方のスリョン守領を経験した経歴を特に重要な条件として見たと言いますから、実際にその役目をやった経歴がなければ現場での実務と実情を良く知る事が出来ないと言う考え方から出た選抜でしょう。
なので実際の記録に残ったアメンオサたちは若くても30代中後半、多くは50代を超える官僚たちが大多数だったと言います。
若めの官吏で地方行政とその地域に対する経験も知識も不足していた為、きちんと業務を処理できず処罰されたと言う記録も残って居ます。
しかしながら韓国で時代劇ドラマは今やイケメン俳優の登竜門で、視聴者層も若い女性中心と言う事で完全にイケメン頼みになって居ますからヒゲも生やさぬ若い俳優が大挙登場します。
セジャ世子でさえヒゲを生やさず登場するのはパク・ポゴムの『雲が描いた月明かり』の頃から定番です。
ヒゲを蓄える事がファッション的にもイケメンの必須条件だった朝鮮王朝時代とは打って変わり、現代においてヒゲは俳優・視聴者共に敬遠される模様です(笑）。
現在1話から3話まで放送終了しました。特定の時代背景を排除した「仮想ヒュージョン史劇」ですが、中国・清による『丙子胡乱ピョンジャホラン』が描かれ、主人公の友で捕虜になった世子が帰還して謎の死を遂げる描写、ヒロインのジョイの母親が捕虜として清に抑留され帰国する(還郷女ファンヒャンニョ)描写などから朝鮮王朝後期、仁祖インジョの治世(1623〜1649)時代を念頭に描かれたと見る事が出来ます。
以前ワンポイントコラムで書きましたが、リャンミン良民(リャンバンでは無い身分)の離婚が描かれる事がとても新鮮です。
家と家との婚儀だった為に大っぴらに離婚する事が出来なかったリャンバン両班とは異なり、一般庶民の間では実際に「サジョンパウィ事情罷議」「ハルクプヒュソ割給休書」と言う名の離婚が可能で、多くの事例が存在しました。
↓離婚の実態はコチラ↓
その形式は
❶事前協議の上、手形を書いて離婚書類を交わす協議離婚(サジョンパウィ事情罷議)。
❷ナイフでチョゴリの前裾(まえすそ)を切って、それを相手に離婚の意思として与え、相手がそれを受け取れば離婚を受け入れるという意味になるユニークな別れ方で、チョゴリの切れ端を受け取る事から「ハルクプヒュソ割給休書」と言う離婚形式でした。そのカタチからナビ(蝶)と呼びました。
❷は日本で言う「三行半(みくだりはん)」がそれに当たります。
我々が知るより遥かに女性の権利が存在した朝鮮王朝時代のこの様な風習が描かれる自体このドラマは時代考証に忠実だと言えますが、女性の置かれた状況を現代に準(なぞら)えて自由奔放な人物を描く事には注意が必要です。この時代よっぽどで無い限り、殆ど女性一人で生活して行く術(すべ)は現代と違い存在しなかったのですから。
ポッサムやスプチョプ習妾されない限り自立生活はムリで、その為離婚後も仕方なく前夫と同居する事も有ったと言います。
ポッサムやスプチョプについては次回説明します。
最後に主人公の名前について。
ジョイと言う名前は朝鮮王朝時代に多かった女性の名前だそうで、ソサ召史がチョシに訛(なま)り、更にチョイ(ジョイ)に訛った模様です。
このチョイを英語のジョイJOYに掛け、人生を楽しむ事を望むヒロイン像を表したと言えるでしょう。
一方の男性主人公の名前はラ・イオンですが、漢字は「羅二言」で、頭音法則：ナ・イオンで無しにラ・イオンと呼びます。
コレは恐らく英語のイアンもしくはライアンに掛けたと思われ、いみじくもヒロインの英語風名ジョイと対称をなします。
調べた所、ライアンとはアイルランド起源の「小さな王」を意味すると言いますから制作サイドが何処まで掛けたかは不明ですが、なにがしの言葉の遊びを掛けたのではないかと想像します。
余談ですが更に調べた所、イギリスに1970年代『ジョイ・ディヴィジョン』と言うロックバンドが存在し、そのボーカルがイアン・カーティスでした。イアンのジョイ？
いささかこじ付けが過ぎたかも知れません(笑)。
他に従者の名前がユクチル（６と７）とクパル（９と８）と言うのもぶっ飛んでいます。
朝鮮王朝時代には、特にノビ奴婢など賤民には実際にその様なふざけた(？)名前が多かったと言いますからあながち考証に忠実なのかも知れません。
元のタイトルは『オサジョイ伝』だったそうで、韓国では『オサとジョイ어사와조이』が『어서와 조이オソワジョイ』(ようこそジョイ=Welcome joy)と言い間違いが多かったそうな。
現在3話目でアメンオサ暗行御史ラ・イオンのおかげで正式にジョイの離婚が成立し、本格的に推理捜査に突入して行きます。
本筋が始まったばかりなので、今からでも遅くありません。
視聴環境に有る方、是非ご覧下さい。
追っかけ再放送も必ず有る筈ですから。
回数が重なった頃、再度出没します。
では。
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