ワンポイントコラム

<韓国朝鮮 歴史のトリビア>

94. 暗行御史アメンオサ

 

 

 

 

韓国で今月から最新時代劇ドラマ「アメンオサ暗行御史:朝鮮秘密捜査団」が放送を開始しました。

 

ドラマは腐敗を清算し不正に対抗して

民衆の無念を晴らす、朝鮮王朝時代の王室直属の秘密捜査官・暗行御史たちとその仲間たち“御師団”の活躍を描いた痛快なコメディー・ミステリー捜査劇です。

 

 

春香伝やパクムンスでも有名な

アメンオサ暗行御史、今回はこれについて述べます。

 

アメンオサ暗行御史とは朝鮮王朝時代、王が側近の官吏を地方の郡県に密かに派遣して密命を遂行させた特命使臣です。

 

 

一時職の密使として送られ、地方官吏の善し悪しと民の苦労を聞き込みして戻り、王にありのまま報告することを職務としました。

 

日本で言えば水戸黄門や遠山の金さん、隠密同心の大江戸捜査網と言った感じですが、コチラは実在しました。

 

<ドラマヘチでのパクムンス(クォンリュル)>
 

暗行御史は、朝鮮王朝11代王中宗の時から地方に派遣したと記録に有ります。

 

朝鮮王朝時代には王が臣下と民衆の上で絶対的な権力を行使しました。

しかし交通通信設備が未発達な為、王が地方の隅々で働く地方の官吏を監視して統治することは容易では有りませんでした。

なので王はこっそり官吏を派遣し、地方の官吏が仕事をキチンとしているか、間違いはないか報告させたのです。

 

 

<春香伝>

 

もちろん中宗以前にも、地方の官吏の管理と監視がなかった訳ではありません。

 

サホンブ司憲府では「ヘンデ行台監察」という司憲府の官吏を各地方に派遣したり、地方に「プンデオサ分台御史」という司憲府の分所を置いて地方官吏を調査しました。

 

警察署が複数の交番を設置しているイメージですが、このようにしても地方の監視と調査が適切に行われず、地方の貪官汚吏の横暴が深刻になって行ったので、王が直接「アメンオサ暗行御史」を派遣したのです。

 

 

<ドラマ オルチャン時代、オルチャン春香伝でのリモンリョン>

 

暗行御史は科挙に合格した、若くて能力のある者のうちから王が直接任命し派遣しました。

とは言えドラマの主人公の様な若い官吏では無く、中堅以上の有る程度経験と年季を重ねた官吏から選抜されました。

 

全国のすべての地域に、常に暗行御史を送る事は出来ないので通常2年に1回、地方の暗行御史の送り先を抽選で決めて派遣しました。

 

1度使臣を送る時に全国の半分位の地方に送ったので、地方ごとに通常4年に1度ずつ暗行御史が派遣される計算です。

その地方と関連がある人は派遣しませんでしたが、これをサンピジェ(相避制)と言います。

 

王が暗行御史を任命するときポンソ封書とサモク事目、マペ馬牌などを一緒に授けました。

 

<ポンソとマペ>
 

まず、

①封書は「誰をどの地方の暗行御史に命ず」と言う辞令のようなもので、表には「南大門を超えてちぎって見ること」「派遣された地方に到着して開けて見る事」などと書かれていました。

派遣先とその任務の秘密保持の為でしょう。

 

②事目は暗行御史がなければならない事や守るべきことを定めた本です

 

③マペ(馬牌)には馬が描かれ、1頭描かれていると1マペ、2頭描かれていると2マペ、3頭描かれている場合3マペとし、

 

全国大通りの街角ごとに有る郵駅にてマペを示せば、マペに描かれた馬の数だけ馬を利用することができました。

 

↓↓郵駅についてはコチラ

 

マペ馬牌暗行御史だけのものではなく、地方に派遣される官吏も持ち歩き、馬牌を示せば馬だけでなく、駅卒(駅で働く軍令)も動員することが出来ました。

 

後にはこの馬牌が、馬を借りる記しだけでなく、暗行御史の身分を証明する記しとされました。

又、この馬牌は潜行御史が印鑑としても使用しました。とても大きな印鑑です。

 

 <ドラマ アメンオサより>

 

暗行御史は王のみその存在を知り、誰も分からなくなっていました。

必要な場合にのみ自分の身分を明かして、本格的な職務を始めました。

 

暗行御史が出頭するときは部下や駅卒を率いて官衙前にて「暗行御史出頭!」と叫びました。

すると府使や牧使郡主県監のような、その地方のスリョン守令(首長)を除いた全ての官員が出て暗行御史を迎えました。
 

暗行御史が入ってくると守令は官服を着用して挨拶をしたのち東軒(職務室)を出て別室で処分を待たなければなりませんでした。

これらの段取りはチュニャンジョン春香伝に詳しいです。

 

暗行御史はその官衙の文書を確認、倉庫を調査、罪人の罪を再調査し、冤罪人が居ないか確認しました。

 

 

 <ドラマ アメンオサより>
 

もし誤りが判明した場合、文書や物品を押収して倉庫を封じ、観察使や王に報告しました。

守令の誤りが非常に大きく緊急な場合には直接罷免もしました。

 

暗行御史は、自分の使命をすべて終えた後、書啓別単という2つの報告書を王に提出しました。

 

書啓は観察使や守令の善悪を具体的に記録したレポートです。

別単は自分が見聞きした人々の事情と生活状況、親孝行者や烈女などの美しい行いなどを書いたレポートです。

 

王は暗行御史から書契と別単を受けて誤りは罰し、正しきは表彰しました。

 

 

< 退渓リファン李滉>

 

有名な暗行御史としては、

我が国著名な儒学者退渓リファン李滉

説話文学で韓国で知らない人が居ない程有名なパクムンス朴文秀

百科全書的な実学者チョンヤギョン丁若鏞

朝鮮最高の名筆で有名な秋史キムジョンフィ金正喜などが居ます。

 

 アメンオサは長距離、長期間に渡る激務で有り、精神肉体的負担も多かったと言います。

また、貪官汚吏として糾弾した相手がその後出世して目の仇にされるなど、決して割の良い仕事では有りませんでした。

その上、朝鮮王朝は構造的欠陥を抱えて居た為、この様な正義の官吏を動員して以っても汚職が改善する事はありませんでした。

 

こうして、アメンオサの派遣にも関わらず根本的な問題は解決しないまま朝鮮王朝は近代を迎える事になりました。

 

 

<参考文献>

한국민족문화대백과사전

감사원 홈페이지 

 

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