第8章 韓国ドラマ映画 
127.緑豆の花❸
 
 
 
 
「緑豆の花」のDVDをレンタルして22話から30話(DVD単位では15巻相当)まで観終わりました。
 
全48話(上記で全24巻)の前半のクライマックス29話が圧巻でした。
もしこのドラマを未だご覧になって無い方は騙されたと思ってこの巻(15巻)だけでもご覧下さい。
保存版です。
 
 
何が描かれているかと言うと、日本軍の朝鮮王朝王宮襲撃です。
 
以前、歴史篇でも述べました。
 
記事はコチラ

 

これは1894年日清戦争の前に朝鮮と日本の正規軍同士が闘った「朝•日戦争」「景福宮戦闘」とも
「甲午カボ倭乱ウェラン」とも呼べる戦闘です。
 
 
1882年壬午軍乱後の済物浦条約で日本軍の漢城駐屯が認められました。
1884年甲申政変での日清の軍隊衝突及び日本公使館放火と居留民殺害について日本と清の間で責任のなすり付け合いが続きましたが、日本軍朝鮮政府には「漢城条約」で責任をなすり付け、清国とは「天津条約」を交わし、お互い朝鮮から撤収し軍隊派遣の際は通知する旨を約束します。
 
 
1894年甲午農民戦争で農民軍が5月31日全州城を占領するや戦争危険が目に見えるにも拘らず国王高宗と朝鮮政府はあろう事かまたもや清に出兵を要請し、清軍は6月8日牙山湾に上陸しました。
 
 
待ち構えていた日本軍は6月9日仁川に上陸し首都漢城(한성)に進軍し始めます。
国土が戦場になる事をよしとしない農民軍は6月11日政府側と「チョンジュ全州和議(전주화의)」を結び停戦に応じました。
 
 
この模様を観たい方は「緑豆の花」22話から25話(11巻〜12巻)をご覧下さい。
 
口実の無くなった日本は清に朝鮮の内政改革を呼びかけますが、清の拒否を受けると6月21日(新暦7月23日)午前4時、手薄になっていた漢城の景福宮を襲撃し午後2時までの10時間、朝鮮軍と激戦を繰り広げこれを制圧しました。
 
 
当時宮殿を守って居た300名からなる平壌軍精鋭は死に物狂いで反撃しますが、日本軍は宮の西門、迎秋門ヨンチュムンを爆破しこじ開けると一斉に雪崩れ込み、恐怖の余り避難も出来ず後宮・宮女達の居処・咸和堂(ハムファダン함화당)に隠れていた国王高宗と明成王后を脅迫して反撃を止める様に強要します。
 
 
未だ命を賭して戦う兵士をよそに高宗は直ぐさま武装解除を指示、これで全てが決しました。
すなわち景福宮の武装解除によって朝鮮政府は日本の傀儡と化しその後の命運が定まりました。
 
この闘いがドラマ「緑豆の花」のDVD 29話で丁寧に、とても生々しく描かれました。
 
 
当時朝鮮王朝軍の本隊京軍甲午農民戦争の農民軍の鎮圧に向かって居たので、ピョンヤン平壌の監営軍300人が守備に当たっていましたが、軍事準備を巡る大院君明成皇后のいざこざ、日本軍との駆け引き、1894年6月21日(新暦7月23日)に日本軍が景福宮を攻撃する過程が丹念に描かれ、観て居てまさに手に汗握ります。
 
 
朝鮮軍は猛烈に応戦し、日本軍を相手に一歩も引かず闘います。

これ程歴史事実に即して描かれたのは初めてと言って良い程です。

 

勿論、ドラマ内で景福宮の戦闘過程は実際の歴史と多少違って居ます。

 

ドラマではまず、光化門での銃声を筆頭に戦闘の火ぶたが切られた景福宮の戦いが描かれます。

 

 
実際の光化門は非常に大規模で、当時のリュクチョ六曹通り(現在の光化門広場)は朝鮮随一の大通りでしたから、日本で言えば東京駅から皇居前通りをイメージしてもらえば良い程の広さですが、ドラマはセットなのでそのスケールは小さく描写されざるを得ませんでした。
これはドラマと言う制約上仕方の無い事と言えるでしょう。
 
 
セット場が小さいのでドラマで見る戦闘は大規模な戦闘に見えませんが、1894年の実際の戦闘現場は非常に巨大で熾烈でした。
不思議な事に、1894年に起こったこの事件の歴史的用語はありません。
景福宮クーデター、景福宮占領、景福宮戦闘、甲午倭乱などの表現が使用されて居ます。
 
 
ドラマ「緑豆の花」は『カボウェラン甲午倭乱』という名称を使用しました。
「倭乱」と言う名称は日本の蔑称を含んで居る為、日本で大っぴらに使用する事は非常に憚れますが、1592年豊臣秀吉の侵略戦争を朝鮮で「イムジンウェラン壬辰倭乱」と呼んでいる事に比肩して、非常にインパクトが有る名称だと思います。
 
<ドラマでのカンファムン光化門>
 
日本軍は夜明け4時頃から猛烈に攻撃を加え、朝鮮軍も勇猛に応戦しました。
日本軍の激しい砲撃を受ける光化門がドラマでしっかり描かれます。
 
 
史実で景福宮ヨンチュムン迎秋門を爆破して日本軍は宮殿に雪崩れ込みました。
セットの限界で景福宮ヨンチュムン迎秋門も実際の姿とは非常に異なってました。
 

<ヨンチュムン門>

 

日本軍が強烈な攻撃を浴びせたヨンチュムン迎秋門は、ドラマに出た様な小さな路地に位置する門ではなく、石材で建てた堅固なとても大きな城門でした。
​彼らは爆薬を仕掛け、城門を斧でこじ開けて門を壊し突入しました。
 
<ヨンチュ門を壊しこじ開ける場面>
 
一国の宮殿を占領するというのは普通の事では有りません。
いくら国力が弱くても、宮殿は次元が異なります。
その宮殿を攻撃したのです。
 
これが戦争で無くて何でしょうか?
この様な事実を日本は隠蔽して、朝鮮を平和裡に併合したと言って居ます。
ネトウヨはこのドラマの描写を「いつもの過度の反日だ」とほざき、「ドラマの歴史捏造」だと騒ぎ立てる事でしょう。
 
 
しかし、これはオーバーでは無い歴史的事実です。
ドラマは予算上、規模を小さく描くしか有りませんでしたが、この描写から史実のイメージを膨らませて頂きたいと思います。
ただの戦闘ではなく、完全に戦争レベルだったと言えます。
 
 
夜を超えて昼間まで続く景福宮の戦い。実際の景福宮の戦闘は夜明け4時に始まり、10時間後の午後2時に終了しました。
日本軍は予期せぬ朝鮮軍の強力な反撃に簡単に光化門を突き抜けません。
ドラマでは日本軍が火をつけた藁(わら)を光化門に突進させるシーンまで入れました。
​ここの所はフィクションかも知れません。

 

大砲まで動員した双方の攻撃は非常に熾烈な物でした。
韓国で作られた旧韓末の映像を見ると、ほとんど朝鮮軍は外国軍隊と戦う度に押されて死んで行く情け無い場面だけ出てきます。
これらの描写は、「我々の先祖は何もしなかったし、能無しだった」という誤った先入観を植えかねません。
 
 
しかし、ドラマ「緑豆の花」は毛色が異なり、1894年の朝鮮軍が日本軍と勇敢に戦った史実を反映して日本軍と対等に戦う姿を描いています。
ゲートリング機関銃やクルフ砲など最新の武器を使用する描写も有ります。
 
当時、開花改革が進み、朝鮮王朝軍の軍備は非常に高いレベルでした。
残念ながらこの戦闘で敗北し、日本軍により武装解除され、当分の間武器を持つ事も許されず、その後も劣悪な武器しか持てない様に日本にコントロールされてしまったのです。
 
 
余談ですが、明成皇后(閔妃)がその後(1895年)、王宮内で一国の公使の主導により日本軍と日本人浪人集団に弑害されると言う悲惨な事件「ウルミサビョン乙未事変」が起こりますが、この事件もこの時のこうした日本軍の武装制圧と朝鮮軍の武装解除と言う布石が有って実現可能な蛮挙だったと言う事を付け加える必要が有ります。
 
<ドラマの明成皇后>
ヨンチュムン迎秋門が突き破られ日本軍が一斉に進撃しますが、この時光化門ではまだ激しい戦闘が行われる最中でした。
しかしながら恐怖の余り避難も出来ず後宮・宮女達の居処・咸和堂(ハムファダン함화당)に隠れていた国王高宗と明成王后は脅迫され、反撃を止める様に強要する日本軍に促され、未だ命を賭して戦う兵士をよそに高宗が直ぐさま武装解除を指示、これで全てが決した事は既に述べましたが、ドラマでも印象的に描いて居ました。
 
<武装解除を告げる高宗>
 
​実際の戦闘で日本軍の死傷者は、あれ程多く出ては居ませんが、これ位のドラマの誇張は許容範囲でしょう。
それ程戦闘が熾烈だった事を物語って居ると言えます。
 
この様に、ダイナミックな1894年を理解する上で、ドラマ「緑豆の花」は必見と言え、長く面倒で全部観てられないとおっしゃるので有れば、述べる様に29話(15巻:出来れば全州和議の22話:11巻から)前後だけでもご覧になる事をお勧めします。
 
 
別にこのドラマはいつも韓国で常套の『反日』要素は全く無く、史実を多少のフィクションを交えて『ファクション(事実ファクト+フィクション)』として描いているだけなのですが、余りにも酷(むご)く、日本の方が観るのはシンドいでしょう。
 
そこの所は覚悟して掛かる必要が有ります。
私のブログを読んで下さる方々には特に不要でしょうが(笑)。
 
 
このドラマは多分日本の地上波で放送される事は無いでしょう。
余りにショックが大き過ぎますので(笑)。
NHKの大河ドラマの幕末維新物でこの戦闘の模様を描いてくれると良いのですが、それも期待は出来ません(笑)。
 
 
日本が悪役の中心になるドラマ「不滅のイスンシン」「明成皇后」は地上波で放送されて居ません。
「ミスターサンシャイン」はNetflixで配信されて居ますが、反日要素よりも「恋愛」「映像美」が強調されて居ます。
 
 
これも残念ながらと言うしか有りませんが、上記のドラマは実際『反日』が過剰な面が有ります。
市中で誰かれとも無く銃をぶっ放したり、平気で日本人が朝鮮国王を侮蔑したり。
 
 
この「緑豆の花」所詮は「ウソ」の固まりで「オーバー」な「夢物語」と日本の人々に曲解されるとしたら、それは悲しい事です。
 
韓国ドラマ映画は国内世論におもねり、過剰に描くでは無しに歴史的リアリティーを優先してもらいたいと思います。
 
 
くれぐれも歴史ドラマを政治の道具に使って欲しくは無いのです。
真実の史実を語り継いで行く事に主眼を置いて描いて欲しいのですが、今回のドラマ「緑豆の花」はこの要素を多分に含んだ良質なドラマと言え、日本の人々に「反日フィルター」無しに史実を描いた秀作として、是非ご覧になって頂きたいです。
 
ドラマレビュー❹完結編はコチラ

 

 
 
<参考文献>
한국민족문화대사전
PD져널 혁명은 실패했지만 ‘녹두꽃’은 옳았다   
조선일보 '녹두꽃' 갑오왜란, 잊지 말아야 할 치욕의 역사 '참담'
녹두꽃 29~30회, 일본군의 경복궁 점령 '갑오왜란'
블로그  조선이 사실상 망한 1894년 갑오왜란