<映画 王の願い>

 

2 2 近- 朝鮮のルネサンス世宗期

 

 

 

 

日本では1970年代から、長らく明治維新以降否定されて来た江戸時代が脚光を浴び、空前の江戸ブームが続いて居ます。

今ではもはやブームを超えてスタンダードと言えそうです。

享楽と倹約、華美と質素など江戸の「粋」ライフスタイルが窒息感を増している現代に於いて眩しく感じられるのでしょう。

実際江戸時代の生き方に習うべき所が多いと感じます。

 

    <浮世絵 江戸 日本橋>
 

韓国でも80年代以降経済成長につれ過去を見直す動きが始まりました。

李朝の民画が人気を博し、富裕層が李朝時代の葉銭(サンピョントンボ상평통보)を買い漁り、そうした古物が品薄で値段が釣り上がる現象も起こりました。

 

こう言う意識を反映してか2000年代以降の歴史ドラマを観ると街並みも服装も皆カラフルで商品に溢れ、庶民達も楽しそうに動き回ります。

特に流行りの퓨전사극(ヒュージョン史劇:フィクション物)に於いて著しい様です。

 

 

<ドラマ テワンセジョン大王世宗>

 

しかしこれはドラマの為かなり誇張されており(日本では捏造と言ってますが)真実ではありません。

商業が盛んでさほど今と変わらぬ江戸時代とは根本的に異なるのです。

 

こうしたバラ色の歴史観は専門家からも考証がひどいと酷評を受けています。

 

一例として朝鮮初期のドラマで酒幕(チュマク주막)が出ますが、これは貨幣経済(常平通宝の流通)が活発になった後期の事で、まだ存在しなかったのです。

劇の構成上仕方ないとしても明らかに誤謬で、他にも色々目立ちます。

 

     <金弘道 両班と農民>

 

基本、朝鮮王朝社会は儒教社会で何事にも質素な自然経済(商品を排除)であり、農本主義を採り商業の発展を抑えました。

商品経済が活発になったのは朝鮮後期で、後期でもその枠を大きくはみ出る事は無く、科学技術も軍事など特定の分野を除き技術革新が起こる事は有りませんでした。

 

<映画 王の願い>

 

その為朝鮮王朝後期に資本主義的な生産関係が芽生え発展したのも鉱山業など普段の生業とは縁の少ない業種でのマニュファクチャーが中心でした。

 

その朝鮮王朝に於いて輝ける時代が2回有ります。

その最初の一つが世宗(セジョン세종)です。(1418年即位〜1450年逝去)

 

      <世宗大王 銅像>

 

朝鮮でも知らない人は居ないと思われますが、第4代王の彼は訓民正音(フンミンチョンウム훈민정음)の創始を始め、成三問(ソンサンムン성삼문) ,朴彭年(パクペンニョン박팽년)などの学者を重用した集賢殿(チプヒョンジョン집현전)の運営、北方の46陣の設置、農書「農事直説(ノンサチクソル농사직설)発行など農業、文学、音楽、法学、工学、哲学、天文学等様々な分野で今も我が国に輝く事業を次々と成し遂げ、一番の聖君と崇められて居ます。

 

   <国宝 訓民正音解例>

 

世宗を描いたドラマ・映画は多いですが一番有名なのは「大王世宗(テワンセジョン대왕세종)でしょう。

人気も有り、今でも再放送されて居ます。

 

映画では20209月に日本で公開のチェミンシクハンソッキュ主演の「世宗大王 星を追う者たち」世宗と官奴婢出身の科学技術者,蔣英(チャンヨンシル장영실)との友情を描いています。

 

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  <映画 世宗大王 星を追う者たち>

 

史実でも世宗は農業に不可欠な天文学にも多大な関心を持ち、賎民である蔣英実チャンヨンシル尙衣院(サンウィウォン상의원)別坐(ピョルチャ별좌)と言う重要職に付け様々な発明品を開発させます。

身分に捉われなかった世宗の人柄を物語る貴重なエピソードです。

 

<映画 王の願い>

 

世宗を描いた作品として一番新しい所では2021年日本公開映画『王の願い ハングルの始まり』(原題나랏말싸미ナラッマルサミ)が有ります。

 

この映画はセジョン世宗をソン・ガンホが演じた史劇エンタテインメント作品で、朝鮮独自の文字ハングルを生み出した国王世宗の奮闘と葛藤の日々を描いて居ます。

 

 

あらすじに軽く触れると〜朝鮮第4代国王の世宗は、上流階級層だけが中国の漢字を使用できる現状に疑問を抱いていました。

そこで庶民が使える朝鮮独自の文字を創生するため、最下層ながら外国語の有識者である和尚シンミたちに協力を仰ぎます。

しかし世宗の臣下たちはシンミの身分を快く思わずと流れて行き、史実にフィクションを交えた「ファクション」作品となって居ます。

ソンガンホ、パクヘイル始めそうそうたるメンバーで臨んだ意欲作でしたが、残念ながら韓国ではさほどヒットしませんでした。

 

 

14世紀中期から16世紀にかけヨーロッパ、

イタリア発祥の文芸復興運動としてルネサンスが有名ですが、長い暗黒の時代と言われる中世を抜け出し、後の資本主義社会を準備するブルジョワ文化を創造し今でも人々の賞賛を浴びる作品を多く残しました。

 

有名な所ではレオナルドダヴィンチ(モナリザ、最後の晩餐など)、ミケランジェロ(ダビデ像、最後の審判など)、ボッカッチョ(デカメロン)、エラスムス(愚神礼賛)、ダンテ(神曲)、トマス・モア(ユートピア)、シェイクスピアなどです。

 

    <ミケランジェロ 最後の審判>

 

日本ではさしずめ元禄・化政文化がそれに当たるのでしょうが、我が国では世宗期朝鮮王朝のルネサンス期と称しても過言では有りません。

世界的に誇れる科学技術・文化が花開きました。勿論ブルジョワ文化とは方向が違っていましたが。

 

反面、彼は強制的な貨幣改革、明への事大強化、仏教弾圧、高麗王室抹殺などのネガティブな恐怖政治家的面貌も見せて居ます。

それでもそれを凌駕する業績、特にウリマル創始と言う唯一無二の業績によって今も人々より尊敬を受けて居ます。

 

 

おまけですが最後に朝鮮王朝の基本的な経済手段であった土地所有関係について触れたいと思います。

前期と後期では変化があるのでここではまず前期を述べます。

まず建前上全国の土地は国王の物で有ると言う王土思想が根強く在りましたが実際に多くは民有地でした。

 

 

国有地を公田(공전),私有地を民田(민전)と呼びましたが、収租権(租税を貰う権利)と実質所有権、2つの別レベルで存在しました。

朝鮮王朝建国後、功臣達に土地を分け与える「科田法(クァジョンポプ과전법)を実施しましたがこれはまさしく収租権だけを与えた権利で有り、時と共に紊乱して来ると一代限りの「職田法(チクチョンポプ직전법)」に移行しました。(それも後に廃止)

 
↓↓科田法についてはコチラ↓↓↓
 

        <金弘道の民画>
 

収租権とは別に所有権レベル佃戸(전호)と呼ばれる地主とその下の耕作権レベルでの奴婢

小作人など小作(소작)を営む半隷属農民が存在しましたが、やがて朝鮮後期にはその佃戸小作の関係が主となって行きます(後日叙述)

 

 

朝鮮王朝全期間を通じての土地所有関係の特徴はこの様に重層的(3)な所有関係に有ったと言えます。

この権利はそれぞれ相続、売買可能な権利で有り、確固たる権利として発展して行きました。

 

歴史篇まとめです。

    気になる時代をどうぞ↓↓

 

 

 
<参考文献>

あすなろ書房 アンドリュー ラングリー 他  ルネサンス入門

集英社版 日本の歴史12

山川出版社 世界歴史体系 朝鮮史1

朝鮮史研究会編 朝鮮の歴史

キネマ旬報社 神田聡他訳

         朝鮮王朝実録

キネマ旬報社 金両基 

   ビジュアル版 朝鮮王朝の歴史

イサベラビショップ 朝鮮紀行

李殷直 朝鮮名人伝

리영호     朝鮮前期土地制度史

平凡社 林鐘国他  

                ソウル城下に漢江は流れる

東京堂出版 宮嶋博史訳 

       朝鮮後期ソウル商業発達史研究

 

<ドラマ チャンヨンシル>