**唐獅子牡丹・2**



 空気はあまりよくなさそうだ。空が青くない。


線路の両脇の景色が無機質で、失敗しても怒られもせず、ドジっても笑われもしないのではと、錯覚しそ


うだ。


 電車はまだまだ進む、終点へと向かって、左右に揺れながら・・ 必死で堪えていたのに、とうとう戻し


しまった。電車に乗るのが始めてという訳ではない。幼稚園には毎日ひと駅だけ電車で通っていた。



「あきちゃん、どうした、大丈夫?」


と、多恵姉ちゃんが背中をさする。


車掌さんが来て、新聞を読んでいる一番近くのおじさんに


「一枚いいですか」と


有無を言わせぬ態度で、一枚拝借すると、吐瀉物の上にかけて覆い隠してくれた。


「すみません、有難うございます」


多恵姉ちゃんがお礼を言う。


隣の席の女の人が


「妹さん、気分が悪かったのね、顔色が青白い。可哀そうにね。」


と優しくいたわってくれた。優しい言葉に殊更弱い私は、不覚にも涙ぐんでしまった。


「よしよし、もう大丈夫、」


多恵姉ちゃんがさする手に力を込める。


「何処まで行くの?」


「終点で降りて、そこから渡船に乗ります」


「ああ、O町ね」


「気をつけてね。じゃね」


と次の停留所で降りて行った。


お腹の中のものを出してしまったら、気持ち悪さは解消してスッキリしてきた。


電車に乗ってる人全員、何かの指令で動くロボットのように思っていた私は感動した。


私も、あの女の人のように、見知らぬ人にも優しく接しよう。さっきまで可哀そうだった少女が、こんなに


幸福な気持ちになっている。




新聞のおじさんも、私を見て微笑んでくれた。ほっとした。





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                     ほんの気分転換

                        わが社の会話 



部長 : なんやお前、若いくせに覇気のなかね、マッとシャンとせんや!


部下 : アレルギーできついんすよね・・


部長 : アレルギーか。食いもんが悪いっちゃないや?事務のAさん(AKKENこと          


      私のこと)、あの人なんであげん元気と思うや?鼻水一つこぼさん


部下 : なんでですかね



部長 : この前、昼に見た。赤い血ば呑みよんしゃった。あれはすっぽんの生き血


      やろや。


部下 : やっぱね、どおりで元気いいすモンね。



    ・・トマトジュースです!!




 






  ** 唐獅子牡丹 **



 新緑のすがすがしい頃、山々の緑を眩しく感じていた。中学の校舎の窓からぼんやり校庭を眺めていた私は


ふと手許の万年筆に目を落とす。ペン先近くがピンク色。


「朗」と漢字一文字の刻印がある。国産メーカーの手頃な値段のものである。母親を早くに亡くした従姉の多恵


姉ちゃんからの、中学入学祝いのプレゼントだ。遠くの海辺の町からわざわざ持参してくれた。


「この文字は?」


「あきちゃんの名前よ」


「え、これなんて読むの?」


「え、て、あきちゃんの名前、こうでしょ」


「ちがうよ。私の名前ひらがなだもん。」


「え・・・?」


多恵姉ちゃんは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐ


「そうなの?ごめんね、私間違ったね。」


「いいよ、いいよ、この字もいいよ。男の子みたいでフフ・・ありがとう」


小学校のときは持つこと禁止だった万年筆。中学になったら堂々と持てる。大人になったような気分だ。ワーイ。


多恵姉ちゃんは定時制の高校に通っている。昼間は会社勤めで、大変だろうな、偉いなあ・・


多恵姉ちゃんが帰るという日、私は一緒についていきたいと言い出した。


多恵姉ちゃんと離れたくなかった。


「万希叔母さん、あきちゃん連れて行ってもいい?」


「でも、多恵ちゃん仕事があるのに」


「休みとれるし、お父さんもいるし」



 二両連結電車はガッタンゴットン、緑の絨毯の中を揺れながら、自己主張を繰り返しながら進む。


やがて、緑は灰色の建物群に変わり、見慣れぬ街並みが現れる。











  **北野くん・3**



 「私ん家の畑の、私が植えた菊に、おしっこをかけるのよね、毎朝・・・」


と、以前渡さんが、北野くんを嫌いな理由を話しているのを聞いたことがある。毎朝、自宅の縁側からそ


の姿を見ていたそうだ。


 その朝、おしっこをかけてる北野くんを見なかった渡さんは、北野くん家の玄関前に、放置されたまま


の回覧板を見つけた。


「お母さん、北野くんとこ、回覧板読んでなさそうよ、まだ外に置いたままよ。」


「そう、あれ緊急回覧なんだけど、佐代ちゃんちょっと行って、声かけて来てよ」


「うん、いいよ」


 渡さんは、北野くん家の玄関を覗いて、発見してしまった。天井からぶら下がって、頭を垂れている北


野くんのお母さんを。


 この件以来、おとなしい渡さんは、ますます無口になって、学校も休みがちになっていた。


 北野くんの死因は知らされなかった。


 ニュースになったのか、新聞に載ったのかさえよくわからない。


 以後、北野くんのことを話題にするのは、ご法度のような雰囲気になっていた。


 私に意地悪をする男子が多かった中で、北野くんだけは違っていたような気がするのは、単なる思い


込みだろうか・


 私に、ときめきのような思い出を残して、突然いなくなってしまった。


 夜明けに朝日を待つ手前で、冷水を浴びて、強制的に目覚めさせられた夢のように・・・






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下の画像は記事とは無関係です


akkenのブログ  共感、反感、悲喜こもごも-20111015171055.jpg


気まぐれに、我が家のそばの萩を撮って


みました。


なに萩だかは分かりません。



携帯のカメラ機能なので、不鮮明につき


失礼します。










  **北野くん・2**



 静かになった教室で、先生の声だけが、空気を泳いでいる。


 訓話は淀みながら続いていたが、私の脳ミソはそれを感知も理解もしていない。


 これから仲良く友だち関係が新たに築けるかもしれなかった・・


 悩みを共鳴し合えるかもしれなかった・・


 他にどんな楽しい事にであえるかも知れなかった・・


 聞きたかったこと、言いたかったことを先延ばしにしてしまったことの後悔と無念が、頭の中をめぐって


 いる。


「それから、渡さんは、しばらく来ないかもしれませんが、登校して来た時は、皆さん優しくしてくださ   


い。」


 そういえば渡さんも来ていなかったな・・どうしたんだろう?



 夕方、母に


「お母さん、明日黒っぽい服を着てくるようにって。北野くん死んだって・・」


「死んだ? なんで・・」


「分からん・」


「北野くんって、あの線路に置き石した子?」


 線路に置き石した・・・そうだ、低学年の頃、2年生のときだ。


 その日は私が、古田の親戚の家で遊び呆けて帰りが遅くなり、浦田先生に冷たい目で見られたあの日と同じ


日だった。先生は、翌日みんなの前で、私と北野くんを厳しく叱責した。すっかり忘れていた。


「大村先生の息子さん・・」 と母。


「大村先生?」


「今は他の小学校の先生、元は大村姓で、結婚して北野になった」


 よく知ってること。


「お母さんと一緒に亡くなったって」


「え、大村先生も」


「ムリシンジュウって・・」


「ああ、旦那さん女作って家に帰らないってだね」


 よく知ってること。


母とのこの手の会話は避けたい。


やはり、女と男の話には、世間は耳ざとい。


また、吐き気がする。







 


  **北野くん**


 両親が離婚したことを因とする、心ない中傷やからかいは、一通り経験したと思う。


 例えば、浪曲子守り歌を聞こえよがしに歌われたり、わざと旧姓で呼ばれたり、父親の事をしつこく尋


ねられたり・・・それらをものともせず跳ね返し、いじめにも会わず、逞しく日々を無事に過ごせたのは、や


はり母の、反面教師的な生き方のおかげと、今は思える。


 北野耕作くんは、背が高く勉強のよくできる男の子だった。


席が隣同志になった日に、ふいに私に


「今日、帰りにうちに来て。遊ぼう」


と、話しかけてきた。


北野くんの家は、小学校の裏門のすぐそば、農家のはなれを借りていた。その農家の娘は、クラスメート


の渡佐代さん。


 放課後、他の皆が下校したあとから、約束通り、北野くんが待つ家へと入っていった。何か秘密めいて


ワクワクした。小さな家の中は整然としていて、居心地がよかった。本棚のたくさんの本が、住む人の知


力を物語っているような気がした。お父さんは大学の講師だか助教授で、お母さんは小学校の先生とき


いている。


 北野くんは、自分が日頃どんな本を読んでいるとか、どんなものを集めているとか、私にはよく理解で


きない難しい話をして聞かせた。分かったような顔して聞いていたがほとんど覚えていない。


帰りに


「谷さん、僕のお父さん、もう何日も帰って来てないんだよ。多分、もう帰ってこないと思う。お母さんとは


別れるだろうね。女の人がいるって・・」


「ふーん・・」


「谷さん、明日も来られる?」


「それはわからない・・じゃ、バイバイ


と言って ランドセルを背負い、家に向かった。


「北野くんは両親が離婚しても、さほど貧しい暮らしにはならないだろうからいいよなあ」


「学校の先生なら、きっと教養あって、道徳的で、素敵なお母さんなんだろうなあ、いいよなあ」


と、独り言を言いながら、家路を急いだ。


 翌日の帰りの会のとき、普段おとなしい渡さんが手を挙げて発言した。


「昨日、谷さんは、北野くんの家に寄り道していました。」


びっくりした私と北野くんは黙ったまま、クラスの皆が


「ひゅう、ひゅう、あやしいあやしい」


とはやし立てるのを、動揺しながら聞いていた。


「どうしても用事があったなら仕方ないけど、放課後は寄り道せずにさっさと家に帰るように。」


先生のこの言葉で、あっさりオヒラキとなったが、他の女子がこざかしい。何せ成績抜群の北野くんは人


気があった。


「ねえ、今日も行く?」


「ねえ、北野くん家に何の用事があったの?」


「私も一緒に行きたい」 等々・・・


みんなから囲まれ、もてはやされた気分になっていたら、北野くんは


「みんな、うるさい」


と、怒ってとっとと一人で帰ってしまった。


私は、ニタついて、やにさがった顔を元に戻して、さて困ってしまった。


今日も北野くん家に行くつもりだったのに。昨日、「明日も来れる?」って・・・


話の続きも聞きたかったし・・・


仕方ないので、栄子ちゃんと一緒に帰った。


ま、いいか、席は隣だし、いつでも話せるか。


次の日北野くんは来なかった。


先生も来てなかったので、理由は分からなかった。


その日の午後、授業を始める前に、先生が


「北野くんは、亡くなりました。おかあさんと一緒に・・・」


ざわついていた教室が俄かにシーンと静まりかえる。




*浪曲子守り歌: 歌手・一節太郎


  歌いだし・・逃~げた女房にゃ未練はな~いが お乳欲しがるこの子が可愛い^ *





















  **不倫ノート炎上・2


 記録は消せても、記憶と事実は消せない。しかし、無理だろうと何だろうと、強引に無かったこととし


て、処理しなければならないこともある。それを、母は実践して見せた。


「昨日の夜、誰か来た?」


と、母がさらっと顔色一つ変えず聞く。


「うん・・」


「誰?」


「誰か知らない小母さん二人・・」


「何て言われた?」


「えーと、お母さんは?って聞かれた」


「それだけ?」


「うん・・・」


「いやね、義姉さん(伯母)が、話を聞いてたらしくて・・」


「・・・」


「あき。お母さんは潔白だからね」


 

 母が言うには、自分は、あの二人の女性からすごまれるようなことは、なにもない。それを証明してもら


うために、伯父と伯母に同行してもらって、話をつけてきたのだと、だからもう、二人が来ることはないか


ら、余計な心配はしないように、と。


 私は面食らった。


 母が、伯父と伯母に何を証明してもらったのか、自分は潔白と言いながら、あの二人の正体をなんで


知ってるのか。


 事の展開の早さに、疑問をぬぐい切れないながらも、安堵した。拍子抜けするほど。


 大人のすること、考えること、ときに訳が分からないけど、見事なもんだ。


ならば、私が人知れず、不倫記録を消滅させた行為は、結局、母の為になったのか、私が実行せずとも


いずれ母が、自分で隠滅しなければならなかったのか。


 案の定、母は、鏡台の抽斗をごそごそ、なにやら捜し始めた。


 何をしているのか、何をしようとしているのか


私が、もうやってしまったよ!:


 こんな記憶も炎上させたかった。




 
 **不倫ノート炎上**

 



日曜日の朝は、早くに目が覚めたが、暫く寝たふりを決め込んだ。できるなら、このままずっと眠り続け


たかった。けれど母は、休日の朝にダラダラするのを嫌がる人だった。


「あき、いつまでもだらけてたら、貧乏神がとりつくよ。さっさと起きて、ご飯食べて、身支度!」


普段と変わりない調子である。


 私は、昨晩のショックの余韻が残っていて、母を恨めしく思い、ふてぶてしい態度を取っていた。


わざとのろのろと洗顔、朝食、歯磨き、着替えと済ませて、午前中を母の観察に費やした。


何事もなかったかのように、半日が過ぎて行った。


 昼過ぎに、向かいの栄子ちゃんが来たので、二人で裏山探検にでかけた。


栄子ちゃんは、身体能力ずば抜けて優秀で、運動会の徒競走では常に、2着以下を大きく引き離してぶ


っちぎりの1着、木登りは猿も真っ青、丸いリンゴを真っ二つに割れる握力を持ったスーパー小六女子で


ある。


同級生でありながら、私とは段違い。彼女について歩くのは大変だったが、楽しかった。


 二人で山の木の実をほおばり、唇を赤くしたり紫にしたりしながら、夕方までワイルド・キッズを謳歌し


て別れた。


 家に帰ると伯父、伯母、母の三人は不在で、風呂は雪姉ちゃんが焚きつけ、ちょうど本格的に燃え始


めているところだった。


「あきちゃん、風呂の火を見といてね」


と言ってトイレにはいった。


私は二階の母の鏡台へ、例のノートを取りに行った。


A6サイズの小さなノートは、抽斗の奥に隠すように置いてある。他のモノの形状が変わらないように、注


意深く取り出し、急いで階段をかけ降り、風呂の焚口に戻る。躊躇なく、見事に炎の真ん中におさめた。


白、黄、オレンジ、赤、青、炎のグラデーションに顔を染めながら、証拠品の消滅を見届けるべく、いつま


でもそこにしゃがんでいた。





  **不倫ノート**


母は自分の不倫の顛末をこまめに記録していた。


ディスレキシアの彼女(現在の私の独断)が、どういう心境でそれを綴っていたのか知る由もないが、盗


み読みをしながら胸の高鳴りと、不吉な予感に怯えていた。


加えて、罪悪感と可笑しさと不安が、ない交ぜになった感情に包まれる。


人の秘密を覗き見る罪悪感、独特の文字と文が織りなすパズルを解くような可笑しさ


関係が白日にさらされた時の恐怖・・・


部屋で一人、小さなノートを手にして、あらぬことを考えていた。


ほとんどの家が、石炭風呂やガス風呂だったこの当時、谷家は五右衛門風呂だった。


燃え盛る風呂焚きの火に投げ込もうかと思ったり、谷家所有の裏山に分け入り、地中深く埋めてしまお


かとも・・・



この小さなノートが見つかってしまうことを恐れたのは、母をかばいたかった訳でも、守りたかった訳でも


ない。


 小学生の私は、美しく聡明そうな母の書く文字と文が、人目に触れる事を、何より恐れた。


母のというより、私の秘密だった。もちろん、当時の私が、ディスレキシアなどという学説を知ろう筈もな


い。


訳も分からず、劣等感を母と共有しているような気になっていた。


不倫を謗られる事より、読み書きが不自由な事を蔑まれることのほうが、数倍いやだった。


そして、翌夕、五右衛門風呂の焚口から、メラメラ燃える薪めがけて投げたのだ。


  **夜の訪問者**




 ある土曜日の晩。従姉たちの茶の間で、一緒に人気の面白い番組を見て笑い転げていた。


玄関に訪問者が来た様子で、伯母が応対に出たが、すぐに怪訝な顔つきで


「あきちゃん、お母さんは?部屋にはいないみたいだから、そう言ったら、今度は娘に会いたいって」


 私は、こんな、とっぷり日も暮れた土曜の晩に、誰だろうと思いながら、玄関に出た。


 外の暗闇に、女性が二人立っていた。歳は、母と同じか、ちょい上かに見える。


「娘さんかい、お母さんは、何処行った?」


「あの・・・」


「あのね、あんまりなめた真似してると、ひどい目にあうよって、おかあさんに伝えといて。いいね!」


凄みを効かせた声が、休日前の浮かれた気分の私を、瞬時に凍りつかせた。


 このところ、土曜日はいつも、一旦帰宅して、着替えて、化粧も軽くし直し、私の食事の支度をして、


夕方から出かけて行った。


 帰りは、真夜中。


 こういうときの、淫縻な気配を漂わせた母を、吐き気がするほど嫌いだった。



が、この土曜日の自由さは、私を気づまりから解放してくれる有難い時間だった。


 小学生とはいえ、私はませていた。男女の歪んだ関係の事はわかる。母はまだ若くて美しい。


 さっき来た二人の女の人のうちどちらかの方の伴侶と、母は今頃会っているのだろう。それくらいの


見当はついた。彼女の怒りははんぱじゃない。


憎しみのこもった眼光と、打ちのめすように、野太くなった声が、頭のなかで反響して目まいがする。


訪問者二人が、闇の中に消えて、いなくなってしまった後に、膝ががくがくしていた。


笑い声のする茶の間に戻る気はしなかった。


 一人で二階の部屋にいると、階下から伯母が「あきちゃんどうした?お母さんは?大丈夫?」


と声をかけてくれた。


「何でもない、大丈夫」


と努めて明るく大きな声で返事をしたが、頭は混乱していた。











  **6人兄妹**


 母は、6人兄妹の上から5番目三女として生まれた。長男は、一人息子を戦争で亡   


く し男手のなくなった谷家の本家へ養子に入ったので、次男である寿彦伯父が、家


を継いでいた。



 長女の里美は、栄える近隣の工業都市に取り残された感のある、海辺の街へ嫁


が、38歳の若さで突然死している。



 次女の志乃生(しのぶ)は、病気で幼逝している。


 そのあとに生まれたのが、母である。名付け親は11歳年上の寿彦伯父。長生きす


るように、たくさんの希望を込めて 「万希」 と命名されたそうである。



 末の市子叔母は、母と2つ違い。年頃になると、隆鼻手術を受けて、周囲を驚かせ


ている。美人の姉を持つ妹の悲哀、大胆な浅慮の果ての愚行と、村人の間で語り草


になったという。今から60年前の医療技術だ。随分思い切った、旺盛なチャレンジ精


神の持ち主である。


 明朗活発、子煩悩で働き者の叔母である。


 市子叔母は、その気の強さから、夫婦喧嘩が絶えず、時々、荷物をまとめて


実家へ来た。


 が、 寿彦伯父は頑として拒絶した。


 市子叔母は不満タラタラ、婚家へ帰っていく。


「万希姉さんは戻れて、なんで私はダメなの」という台詞とともに・・・