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インコの胃からでてきた異物

鳥の鉛中毒死

こんにちは。異物検査員です。

とても哀しいお話です。
これは、ペットとして飼っていらっしゃったインコの胃から出てきた異物です。
 ←インコの胃から出てきた異物

大きさは1~2mmの非常に小さい粒々で黒く、鈍い金属光沢が認められました。



異物が発見された経緯
異物は、中毒の症状を出して死亡してしまったインコを、レントゲンで撮影した時に見つけられたもの。
死後解剖して取り出したところ、写真のような砂のようにも見える異物が多数発見されました。
お医者様は鉛中毒を疑われましたが、飼い主様には鉛のような金属を食べさせた心当たりが
まるでなかったそうです。
そこで、インコの中毒死の原因を調べるため、その異物を分析依頼されたのです。



異物の元素分析結果
まずは異物の中で、最も黒光りしていて鈍い金属光沢のある粒を選びました。
そして、異物の元素成分をエネルギー分散型マイクロアナライザー(EPMA-EDS)により特定しました。

その結果、異物から検出された元素は、 鉛(Pb) 、 炭素(C) 、 酸素(O)。
特に鉛が多く検出され、異物の主成分は鉛と判明しました
(炭素や酸素は、表面に付着しているものに由来していると推測されました。)

←異物のEPMA-EDSチャート



鳥の鉛中毒死
しかし・・・ペットのインコからなぜ鉛が・・・。

異物検査員はペットとして鳥を飼ったことがなく、
鳥の鉛中毒といえば野鳥の鉛中毒しか頭に浮かびませんでした。

野鳥の鉛中毒は、野鳥が外で “鉛で作られた銃弾” を誤飲してしまうことから起こります。
鉛は軟らかくて加工し易い金属なので、散弾銃やライフル弾に用いられているのです。
そのため、水辺の泥の中に飛び散った散弾を小石と間違えて飲み込んでしまったり、
鉛銃で撃たれた動物を食べた時に、肉と一緒に食してしまったりして、
野鳥が鉛中毒になって死んでしまうという話はよく聞きます。
異物検査員の経験上、食鳥や食肉の可食部 (私たちが食べる部分) から、
鉛散弾そのものが見つかったこともあります。

今回のお話を受けた時も、野鳥の鉛中毒か、もしくは鉛散弾そのものの話だと思っていた異物検査員。
まさか、ペットとして飼われている鳥の胃から出てきたものだったなんて・・・。

早速調べてみたところ・・・
室内で飼っている鳥でも、鉛中毒は頻繁に起こっていることがわかりました。



鉛って何?
そもそも、鉛って何でしょう。
なんとなく、すっごい毒性の高い金属のような気がするんですけど、
実は食品にも含まれていて、しかも人体に必要不可欠の金属元素。
骨や脊髄を構成するのに必要で、鉛をまったく摂取しないと、成長などに障害がでるのだそうです。

でも、大量に摂取すると毒になってしまう・・・そういう意味では、塩に似ていますね。

鳥は人よりもはるかに小さな生き物です。
鉛を飲み込んだ鳥の胃の中では、鉛が速やかに溶けてしまい、
一気に急性中毒になってしまうんだそうです。

その症状は、黄疸、多飲、緑や黒の異常便、下痢、嘔吐、呼吸困難、伸筋麻痺、けいれんなど。
一般的な中毒症状と似ているようで、それまで元気で飛び回っていたのに、2日後には・・・。

鉛中毒は、齧った直後に診察すれば助かる可能性もあるのだそうですが、
症状が出てしまったあとでは、助かる可能性は少ないそうなんです。
そのため、鉛を含む製品を鳥の近くに置かないことが唯一の防衛手段・・・ということらしいです。
なんだか、やりきれないですね・・・。



室内のどこに鉛が・・・?
鉛は軟らかくて加工しやすい金属、
その上、人体に対しての毒性は比較的低い金属ということで、
色んなものに使われているんです。


○私たちの生活の中にある鉛製品
  • メッキされた装飾品 (ストラップ、ペンダント、メダル、バッジ、ネックレス、ブレスレットなど)
  • アンティーク調の置物の枠
  • カーテンウェート
  • 釣りのおもり
  • 塗料
  • かつては水道管にも用いられており、2005年7月時点の厚生労働省調査では、約547万世帯に残っているといわれている。

最も気をつけなければならないのは、安価な金属アクセサリー。
メッキされていると、見ただけでは鉛かどうかはわからないし、
鉛を含むという表示がないものが多いんです。

それを、ペットや子供などが飲み込んでしまったらどうなるか・・・。

鉛は体内に蓄積されやすいことでも知られているので、慢性中毒になることも多くて、
知能障害や運動機能障害が引き起こされたり、
遺伝毒性や発がん性などの可能性もあるそうなんです。

鉛は生きていくのに必要な元素ではあるけれど、鉛の塊は私たちに必要な量をはるかに超えています。
鉛製品は誤飲されない場所にしっかりと管理してくださいね。


参考:鉛含有金属製アクセサリー類等の安全対策に関する検討会報告書/国立医薬品食品衛生研究所




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★マメ知識★

鉛散弾

野鳥の鉛中毒が深刻化し、自然破壊の原因にもなっていることが判明した近年では、
その被害を防ぐ為に、各国で規制が始まっていて、徐々に鉛から別の金属への移行が進められています。
また、鉛散弾で銃殺した動物を食べると、ハンターの方に健康被害を及ぼす可能性もあるので、
ハンターの方による自主規制も進んでいるそうです。


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