コリコリ…… 第二十回 | 中川忠の小説です。

中川忠の小説です。

中編小説を掲載しています。方針を変更して、毎日の連載にします。

 夕方になって、迫田に電話をしてみた。迫田などと会っても、彼に打ち明け話などできないのだから、仕方がないのだが、精一は、時間を持て余して、苦しくて仕方がなかった。

 すると迫田は家にいた。今から遊びに行くと言うと、いいよ、と答えた。

 迫田は八尾市の隣りの柏原市に住んでいる。電車に乗るとすぐに着く。理栄のいた布施駅に行くよりも近い。

 迫田は父親と二人暮らしだ。なかなか立派な一軒家に住んでいる。

 精一は紙パックに入った酒を買って、缶詰もいくつか買い込んだ。うどん屋であれだけの酒を飲んだ翌日にまた酒というのは無謀な話だが、理栄と連絡が取れずに寂しくてのたうち回っている彼は、無謀なことでも何でもやりたかった。

 迫田はさほど酒に強いわけではない。勢い精一一人がガバガバ飲むことになる。

「なんか、この頃、向井さん、休んでるけど、なんかあったんかなあ?」と迫田は疑問を提出した。

 精一は、「さあ、知らん」と答えるより他仕方がなかった。

「自分ら、やっぱりあかんかったんか? 付き合われへんかってんなあ。やっぱりスタッフと患者やもんなあ。無理に決まってるなあ」と迫田には全く疑う様子がない。

 そんな純真な迫田には悪い気はしたが、だからといって、全てのことを打ち明けるわけにはいかない。

 話が理栄のことにならないために、精一は迫田の女性関係について訊ねてみた。父親と同じ女性と関係をして、「親子どんぶりすな!」と怒鳴られたくらいだから、なかなか多彩な経験があると予想したのだ。

「そうやなあ。女なんか、その気になったら、いくらでも手に入れられるで」ととんでもないことを豪語した。

「渡辺美里の話は、もうええで」と釘を刺しておくと、迫田は、

「渡辺美里さんはただの女やあれへん。ぼくにしたら、神様に等しい存在や。そやからあれの相手としてなんか、全く考えてへん。ぼくの言うてるんは、あれの相手をしてくれる女のことや」とやはり事も無げに言う。

「そんなん、そう簡単に見つかれへんやろ」と精一が水を向けると、

「いや、えり好みさえせえへんかったら、いくらでも見つかる」と言う。

「でも、迫田君は、彼女みたいなもん、おるような感じやあれへんけど」

「彼女はおるやん。渡辺美里さんがそうや。ぼくが他に作るんは、あれをする相手だけ」

「そんなんやったらあかんやん。もっと女の子を大事にせんとあかんやん」

「大事にはしてるで。ぼく、これでも、女性には優しいんやで」

「優しくしてんねんやったら、そんな相手する人は彼女いうことになるやん」

「うん、相手はぼくのこと彼氏やて思うてるみたいやから、ぼくにしてみたら、その子は彼女なんやろう。ほんでもぼくはそんな女の子に縛られるんはいややから、深く好きにはならん。深く好きになってるのは、もちろん、渡辺美里さんだけや」

 何回も渡辺美里が出て来る。ここは渡辺美里の話をするつもりじゃなかったから、精一は別の話に持っていく。

「ほんだら、迫田君には、女の子は、何人もおるんやねえ?」

「そうやで。普通はそうとちゃうのん?」

「普通は、そうとちゃうで。普通は女の子いうんは、一人なんとちゃうのん」

「いやいや、絶対一人しかおれへんっていう男なんか、この世に存在せえへんで」

「存在するに決まってるやんか。普通そうやから、みんな結婚するんやんか。何人も女の人がおる状態で、男が結婚するはずないやんか」

「あのなあ、言うとくけど、一人しか女の人のおらん男いうんは、モテへん男で、そんなん、あかん男やんか」

「あかん男って、ちゃんと一人の女の人を大事にする男やねんから、ええ男やんか」と精一があくまでも反論するので、迫田は、

「なんかえらい剣幕やなあ。向井さんにはフラれたけど、他にまだ二番手の女の子でもおんのん?」と探りを入れてきたので、これは危険だと悟った精一は、

「そんなんおれへんよ。そんなことより、もっとエロい話聞きたい。迫田君は経験豊富やから、いっぱいそんな話持ってるやろう。なあなあ、もっと言うてえやあ。酒が足らんかったら、いくらでも買うてきたげるから」とせっついた。

 はっきり言って、二人の間で、酒が足らんようになるのは、精一の方だけだった。

 そこで迫田の華々しい猥談の語りが始まった。