コリコリ…… 第十七回 | 中川忠の小説です。

中川忠の小説です。

中編小説を掲載しています。方針を変更して、毎日の連載にします。

 そして今では妄想らしい妄想はない。だが注意しないといけない。今は妄想がないと思っているが、ことによると、妄想がないと思っていること自体が妄想である可能性がある。

 これは実に変な妄想だが、妄想にも色々ある。まさかこんなことはないだろうと安心していたら、実はもう既に妄想に巻き込まれていたということはよくある話だ。

 そこで精一は、

「多分、今のところは何の妄想もあれへんと思うねんけど、絶えず気をつけとかなあかんとは思うてる」と穏便な答えを放った。

 理栄は、

「ほんでもここでわたしとセイちゃんが絆を結んだことは、妄想ちゃうからな。確かに頭の中に刻んどいてや」と念を押すように言った。

 精一は、

「それは分かってる。ぼくとリエちゃんは、絆を結んで一体になった」と言うと、理栄は、

「まあ、一体になったやて。なんか、とってもええけど、ちょっとやらしいわ」と言って、クスクス笑う。そしてそのクスクス笑いが終わったあと、急に真顔になって、

「ほんでも、わたしとセイちゃんが絆を結んで一体になったことは、誰にも秘密やで。メンバーさんにも言うたらあかんし、岩田さんにも言うたらあかんし、先生にも言うたらあかん。セイちゃんの親御さんにも、今んところは言わんといて欲しい」と頼んだ。

 そこで精一も真顔になって、

「そうやな。これは秘密や。ほんとは、スタッフと患者がこんな関係になるんは、絶対あかんねんやろ?」と訊ねると、

「全くあかんことはあれへんけど、ちゃんとした結婚っていう話になるまで露見せんようにせんとあかん」と言うので、精一はびっくりして、

「結婚?」と問い返した。

 理栄は、

「結婚、せえへんのん? わたし、結婚するって思うてたけど。セイちゃんは、結婚するつもりもなくて、絆を結んだん?」と訊ねる。

「そんなことあれへん。結婚するつもりやったよ。できればね。ほんでも、ぼくら、ほんまに結婚できるんやろか?」

「できやんはずはあれへんやろ? わたしら、相思相愛やねんから、結婚して当たり前やんか」

「ほんでも、リエちゃんはスタッフで、ぼくは一人の患者や。立場として、釣りあいが取れへん過ぎやんか」

「ほんだら、セイちゃんは、わたしと結婚したないんか?」

「したいよ」

「したいんやったら、しようよ。わたしらの国では身分制度なんかあれへんねんから、誰が誰と結婚しようとも、許されるはずやんか」

 理栄の口調は強くなる。精一が逃げていると感じたのだろう。女は男が逃げようとすると、怒りを感じるものだ。

 精一は精一で考え事があった。メンバーさんや岩田さんや先生に隠すことくらい、何でもなかった。けれども親に隠していたら、いざ結婚が決まったとなると、反対をされる恐れがある。彼は、精神病院から退院したばかりの身なのだ。特に親たちからは一人前とは思われてはいない。

 理栄はどうやって結婚を発表しようと思っているのだろう? 理栄の方こそ、反対する人が多いに決まっている。頭のまともな人間が、よりによって精神病患者と結婚する必要はないやないかと、反対されるのは、分かり切っている。

 しかしそんなことをいつまでも陰鬱に考えている暇はなかった。理栄がまたあらたな絆を結びたいと申し出てきたからだ。女性に絆を結びたいと申し出られて、いやだと拒絶するわけにはいかない。それに、拒絶したいとはさらさら思わない。ぜひやりたい。

 今度は二人とも全裸になって、念入りに行為に至った。やはり彼女のコリコリは素晴らしい感触だった。

 それからの精一は、全くの有頂天の中にあった。理栄のハイツに何度も行って、何度もコリコリを体験した。彼の緊張はすっかり解けた。理栄とはすぐにくつろいでしゃべることができるようになった。