私が子供のころ、家で食べるコロッケは俵型をしていた。母の手作りコロッケは俵型だったのだ。商店街が近くになかったので、小判型のお店のコロッケを食べるという経験がなく、コロッケといえば俵型なのだとずっと思い込んでいた。
家を出てから、世間ではコロッケは小判型をしているということを知った。
さほど頻繁にコロッケが食卓にのぼることはなく、形は覚えているけどどんな味だったのかはもう覚えていない。
自炊をするようになって、少し自信がついたころに自分で作ってみることにした。
実家住みのころは炊事を手伝ったことはなかったので、というかさせてもらえなかったので、自炊は全部料理本と首っ引きであった。
コロッケの作り方はかなりめんどくさかった。
まずはじゃがいもを丸ごと皮付きのままゆでる。およそ1時間くらいかかる。
じゃがいもをゆでている間に、芋に混ぜる具の用意をする。合いびき肉とみじん切りの玉ねぎを炒めて塩コショウで味付け。私はこのときにナツメグも使っていた。ナツメグを使うとちょっとスパイシーな香りがしておいしいのだ。いい感じに炒めて粗熱をとっておく。
じゃがいもに竹串がすっと通るくらいになったらざるにあげて、熱いうちに皮をむく。これがまためっぽう熱い。当たり前だけど。手のひらを真っ赤にしながら皮をむいてボールに入れてつぶす。しっかりつぶすか、ざっくりつぶすかで食感が変わるので、その時の気分によってつぶし方を変える。でもまあ、しっかりめにつぶしたほうが口当たりはいい。
そこへ、粗熱をとった具(ひき肉とたまねぎ)を入れていい感じに混ぜ合わせたら、少し寝かせる。あんまりすぐに形を作ろうとすると、熱いじゃがいもがまとまらないのである。
少しさめたらようやく成型する。手のひらで転がして俵型を作るのだ。
あとは、小麦粉をまぶして溶き卵にくぐらせパン粉をつけて揚げる。
さて、ここまででトータルどれくらいの時間がかかっていたのだろうか。
じゃがいもをゆでる時間やもろもろさます時間などを考慮すると2~3時間はかかっていたのではなかろうか。それくらい時間と手間をかけても、できあがるのは「コロッケ」である。
もちろん自作のコロッケはとてもおいしくて満足してはいたけど、あまりにも手間と時間がかかるために次第に作る機会が減っていった。それになんといっても「コロッケ」である。ごちそう感が少なすぎるのだ。
やがて気づいた。お店で買ったコロッケのほうが手軽でおいしいということに。揚げる油の種類も違うので、そもそもの衣の味が違う。あ、そのとき気づいたんだな。コロッケって小判型なんだって。私の中では、お店のコロッケと自分で作る俵型のコロッケは違うものなのであった。
コロッケづくりの失敗談としてよく覚えているのは、コロッケが揚げ油の中でバラバラになった事件である。
その時は、あまり時間がなかった。急いで作らなくてはならない状況だった。
なので、じゃがいもをゆでたあと十分に冷ますことができず、もちろん具もまだ熱いままで混ぜたコロッケ種に衣をつけて油の中に落としたのである。そうしたらみごとに油の中でコロッケ種がほどけていった。全然まとまらなかった。
あの時に「さます」という行為の重要さを思い知ったのだった。
私はもう揚げ物はやらない。それどころか料理もやらない。
だからあのナツメグの風味がきいた俵型のコロッケは二度と食べることはない。
よく、思い出の味とかいって料理を再現するなんて話があるが、あのコロッケはたぶん誰にも再現できまい。あの味は私の記憶の中にだけある。
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