私が大学生のころ、ウォークマンが発売された。
それまでは、部屋でレコードを聴くか、カセットテープに録音して聴く方法しかなかったが、ウォークマンが出たことで「音楽を携帯すること」ができるようになった。
学生にはちょっと厳しいお値段だったこともあって、私はウォークマンは使わなかったけど、音楽が外に出たんだなあと思ったものだ。
その後もウォークマンを使うことはなく、私は音楽を携帯しない人のままだった。
初めて「音楽を携帯」したのはずいぶん後のことだ。
長時間電車に乗ることが増えて、ふと「そうか、こういう時にみんな音楽を聴いているんだな」と思い、スティックタイプの再生機を購入した。(あれはなんという名称だったか)
苦労して音楽をそれに入れて、電車に乗っているときにイヤホンを耳に装着した。
あの時の感動というか、不思議な気持ちは今でも忘れられない。
今まで見ていた世界に急にBGMがついたのだ。
車窓を流れていく景色も、いつもと違って見えた。なんだかドラマの登場人物になったような気がしたものだ。
そのころはもう世間では、携帯電話やiPodなどから音楽を聴くことが当たり前になっていたけれど、私はどうも携帯電話から音楽を聴くという行為になじめなくて、iPodもわざわざ購入する気にもなれないでいたから、その小さなスティックタイプの再生機を操作すること自体も新鮮な体験だった。
でも、その後はやっぱり「音楽を携帯する」ことはなかった。
電車の中で音楽を聴いているのは新鮮な感じだったけど、車内アナウンスを聞き逃すのではないか、という不安や、電車の乗り降りの際の煩わしさ(なぜか座ってるときしか聴けなかった)などから、結局その再生機もいつしか使わなくなってしまった。
部屋でレコードを聴く、ラジカセでテープを聴く、カーステレオで聴く。私が音楽を聴くのはこの3つの時しかなかった。
レコードはもう早くから聴かなくなった。プレイヤーは実家にしかなかったからだ。
ラジカセでも聴かなくなった。
学生の頃は部屋にいるときに聴いたりしたものだが、いつしかそれもしなくなった。
結婚して子どもが生まれたらそれどころではなくなった(精神的に)からかもしれない。
学生のころは時間に余裕があったのだろう。部屋にいて、じっくり音楽を聴くことができた。
しかし、生活に追われるようになったら、落ち着いて聴いている暇がなくなってしまったのだ。
たまに部屋にいるときに音楽をかけてみることもあったが、なんだか散漫な気持ちになってしまってだめだった。
結局、落ち着いて音楽が聴けるのは車の中だけになった。
今も音楽は車の中でしか聴かない。聴くのはお気に入りのCDばかり。
運転しながらなら、音楽も聴いていられる。運転以外することがないからね。必要な時は音をシャットアウトすることもできるし、眠気を吹き飛ばすために歌ったりもする。
同じ人の同じ曲しか聴かないから、持っているCDのほとんどは歌詞を覚えてしまった。
逆に、新しいCDは歌詞がわからないから気が散ってしまうくらいだ。
音源がなくても頭の中で再生できるから、いつでもどこででも歌は流れているとも言える。
再生も停止も自由自在だ。
とはいえ、あの「見ている景色に音楽がついた瞬間」はとても衝撃的だったなあと懐かしく思い出す。ちなみにその時流れていたのはユーミンの歌だった。