作家の第一印象とは | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

先日、BSテレ東の「この本、読んだ?」という番組に作家の伊与原新さんが出演されていた。

この回は理系作家の特集ということだったのだが、私が伊与原新さんを理系作家だと認識したのはけっこう後になってからである。

 

デビュー作は第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞した「お台場アイランドベイビー」。

2010年発行で、その当時は何の予備知識もなしに買って読んだと思う。

だいたいこの手の賞を受賞した作品にはハズレがないと思っているので、即買いしたはずだ。

で、一読、「ずいぶん骨太な作風なんだな」と思った。がっちりした、荒々しい作風の人なんだとその時は思った記憶がある。近未来もので、廃墟となったお台場に謎の子ども集団がいた、みたいな話だとずーっと思っていた。なんならハードボイルドなのかなと思っていたくらいだ。

主人公は関西弁のおっちゃんで、いろいろあって人生から降りちゃってる感がある。

読み返したら、すごく魅力的なおっちゃんじゃないかと思ったのだが、初読みのときはあんまり魅力を感じなかったらしい。なにしろ14年前の話だ。

面白かったけど、ハマるってほどじゃないなとあのころは思ったはずだ。その後も真剣に次回作を追いかけた記憶がない。

それでもなんとなく名前は覚えていたので、受賞後から発行される小説はなんとなく買っていた。発売日を待ち焦がれるというレベルではなかったのだが、目についたら買う、みたいな。

で、たぶん2作目を読んだときに「あれ?」と思ったのだ。

なんか、「お台場アイランドベイビー」と全然雰囲気が違うぞ、と。

「お台場~」が熱くてゴツゴツした話だとすれば、その後読んだ話はクールで、ちょっとひねくれてて、スッとした感じだった。これには戸惑った。いや、嫌いじゃなかったんだけど、こんなにデビュー作と雰囲気が変わる?と思って。

だからといって読む気が失せるということはなかった。なんだか面白くて、惹きつけられるものがあったから。

はっきりと意識が変わったのはたぶん「月まで三キロ」を読んだ時だと思う。

「あれ?伊与原新ってこんな感じだったか?」と思ったのを覚えている。

最近の「宙わたる教室」や「オオルリ流星群」は、理系の面白さと文系の情緒がいい感じに絡まっていてとても美味しい。

 

初めて読んだ作品で心をわしづかみにされる作家もいれば、1冊目はそれほどでもなかったのに途中からものすごくハマってしまう作家もいる。残念ながら途中で失速してしまう作家もいるけど、これは自分の感覚が変化したせいだと思っている。作家の方でジャンル変更してしまう場合もあるけど。

なんにしても、ずーっと書き続けている作家ってほんとにすごいんだなと改めて思う。

ありがたいことですわ。