システマティック、ストイック | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

「ザ・コンサルタント」を2回観た。

昨日思い付きで観たら、予想外に面白くて、でもよくわからないところもたくさんあった。そして、やけに心惹かれる場面がたくさんあって、それをもう一度観たいと思ったのだ。

 

いったいどこにそんなに惹かれたのだろうと、考えてみた。

この先はもしかしたらネタバレになるかもしれないので、あしからず。

 

 

この映画の主人公クリスチャン・ウルフは、高機能自閉症スペクトラムである。

その様子が丁寧に描かれている。

子ども時代のパートでは、医師の元を訪れたクリスチャンがジグソーパズルをしている。

箱をひっくり返し、裏返しにしたままパズルを完成させるのだが、最後の一つが見つからずにパニックに陥る。始めたことは終わらせないと耐えられないのだ。

大人になったクリスチャンの様子も描かれる。冗談を理解できず、質問の形で言われたことには事実を答えてしまう。

家に帰るシーンがいい。向こうから車が走ってくるのだが、決まった所でリモコンのスイッチを押す。するとガレージのシャッターが開き、ちょうど上がり切ったところへすっと車が入る。壁ぎりぎりのところでピタッと止まるとシャッターが下りる。この流れるような一連の動き。

そして、3枚のパンケーキ、3枚のベーコン、3つの目玉焼きの夕食。目玉焼きがちょっとずれているのをきちんと真ん中に直すのもまたいい。皿やフォークなどはいつも同じ場所にある。

そのあと、フラッシュライトと爆音の音楽の中、棒で脛を強くこすり始める。終わりの時間は必ず「10:01」。

こういうふうに、同じことを同じようにすることは、ふつうは「退屈である」と思われるのだろうが、クリスチャンにとっては同じことが心の平安になっているのだ。

私はここまで徹底することはできないが、似たようなところがあるので、見ていてとても親近感を持った。

だから、中盤で、動揺したクリスチャンがシャッターを開けるタイミングを間違え、車を停めるタイミングをミスってシャッターが車にぶつかり、さらには壁にぶつけてしまうという短いシーンで、彼のパニックの度合いが見事に表現されているなあと思った。そのパニックも、「始めたことを終わらせられない」ということから起こっている。

 

彼の日常の行動はとてもシステマティックで、きちんと決まっている。

そういう、「決まっている行動」になぜかとても惹かれてしまう。

「ミッションインポッシブル」でも、背景として置かれている状況はとてもシステマティックだ。こういうときはこうする、こうなったらこうする、とすべて手順が決まっていて、いちいち考えなくてもスムーズに行動できるようになっている。それを当たり前のようにこなしていくイーサン・ハントの姿が、もうどうしようもなくかっこいい。

 

どうやら、私は「手順が決まっていて、いちいち考えなくても自然に動けるようになっている状態」が好きらしい。

もちろん、その場その場で臨機応変に対応していく、というのもかっこいいなあとは思うのだが、見終わってつい真似したくなるのは、システマティックな行動の方なのだ。

 

今日はもう1本「ドクター・ストレンジ」も見たのだが、こちらはもう怒涛の展開であって、ついていくのがやっとだった。「人智を超えた神秘の世界」の話なので、最初からなんでもありである。こういう世界観なのだと受け入れてしまえば、何があっても驚かないし、あこがれもしない。2Dで見たので飛び出してはこなかったが、「たぶんこのあたりがぐわっと飛びだしてくるんだろうなあ」と想像しながら見ていた。映像は素晴らしかったし、物語も面白かった。主人公の変化が通りいっぺんではなかったので、感情移入して見ることができた。

 

それにしても、あのドクター・ストレンジがマントをつけた格好はスーパーマンそっくりだ。色の組み合わせが同じだし。まあ、こちらの方はマントにも意思があるみたいで、なかなかかわいかったけど。

 

「ザ・コンサルタント」は原題を「THE ACCOUNTANT」という。会計士だ。映画の中でも会計士と呼ばれているのに、なんで邦題はコンサルタントなのかなあ。最初は、そういうコンサルする人の話なのかと思って、見る予定はなかった。違う情報が入ってきたので見ることにしたのだが、そして見てよかったのだが、あやうく見逃すところだった。こんなに好みの映画だったとは予想外である。日本だと、あんまり「会計士」にイメージを持っていないと判断されたのだろうか。確かに、役所に、どこの事業所がどこの会計事務所を雇っているかなんていうデータがあるとは思えないもんなあ。それともあるんだろうか。なさそうな気がするなあ。

いろいろ、社会的な状況や背景が違うから、「なんでこんなことになるんだろう」という場面もたくさんある。アメリカの広さを実感するのは、たいてい「生き別れて消息がわからない親族がいる」という設定だ。そんなことが、映画の設定に当たり前のように組み込まれるのである。

映画のポスターには、「表は会計士、裏は凄腕の殺し屋」なんて書いてあって、そういう話なのかと思ってしまうが、実際はもっと別のところに焦点をあてた映画だった。

自閉症スペクトラムの人がどうやって生き抜いていくのかということの、一つのサンプルを見せてくれる作品だった。

あー、これ、DVDを買おうかなあ。また見たくなってしまった。ま、発売まで覚えていたらね。