今昔物語~大道芸ワールドカップ編~ | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

今年も、大道芸ワールドカップの季節がやってきた。
天気予報を見ると、あんまりいいお天気じゃないかもしれないんだけど、どっちにしろ私は現場へは出向かないのでねえ。

この大会は、すっかり静岡に根付いたようだ。
秋の風物詩にすらなってる。
第1回のときのことを思うと、隔世の感があるなあ。

あれは、娘がまだ小さいころだった。
静岡で「大道芸」のイベントが行われる、というニュースが流れた(んだと思うたぶん)

当時私はかなり追い詰められていた。育児やら結婚生活の意味やら、まあもろもろ。
そんな中、たまたま大道芸ワールドカップへ行く機会ができた。

第1回だから、認知度もまだまだだった。駿府公園内にいくつか演技ポイントが設置されて、大道芸人の人たちがパフォーマンスを見せていたんだけど、なにしろ観客が少なかった。
「大道芸? なにそれ?」っていう雰囲気だったもんなあ。
そのせいか、パフォーマーと観客の一体感がすごかった。
距離も近かったし。いろんな芸を、すぐに、ぱっと見ることができたから、あちこち見て回ったものだ。雪竹太郎さんというパフォーマーのことが忘れられない。

そして、私はパワーをもらった。
大道芸ワールドカップへ行ってからしばらくは、気力が復活したのだ。
だから、その後数年間は、毎年「元気をもらいに行く」と称して、静岡へ足を運んだ。

そのうちに、だんだん認知度があがってきた。
会場が広がり、演技ポイントが増え、参加するパフォーマーも増えた。
と同時に、観客も増えた。
県外からもバスを仕立てて見に来たりするようになった。


その流れに反比例して、私の気持ちは冷めていった。
だって、行っても人が多すぎて何も見えないんだもん。
最初のころは、前の方にいる人達が自発的に座るようにしてて、なんとかみんなが見えるようにと気遣う余裕があった。
でも、人が増えていくと、そういう暗黙のルールって消えていくものだ。
十重二十重に立ち見の人垣ができて、同じ高さの地面で演じているパフォーマーの姿はまるっきり見えなくなる。
だからといって、ステージを作って高いところに立ってしまったら大道芸じゃなくなってしまう。
「大道芸」の本質が、大人数の観客と対応していないのが問題なんだよな。

そして私は、大道芸ワールドカップをテレビで見るようになった。
静岡のテレビ局がそれぞれ、必ず中継を入れる。それをはしごしていれば、そこそこの数の大道芸を見ることができるのだ。撮影してるから、前に人の頭もなくてクリアに見える。
臨場感はなくなるけど、臨場感と「見れる」ことを天秤にかけたら、そりゃあ見える方がいいもん。

年々人混みが苦手になっているというのもあるかもしれない。
とにかく、大道芸ワールドカップ開催期間の静岡の中心部は尋常じゃない人出になるのだ。
あまり豊富でない飲食店はどこも満席、ちょっと休もうにも座るところもなく、ひたすら人の波に流される。
お目当てのパフォーマーを見ようと思ったら、入念な準備が必要になるのである。


元気があったらねえ。あたしも見に行くんだけど。
と、毎年思う。
どれか一つでも、まともに見ることができたらいいんだけど。
ちょっくらちょいと、適当に出かけていったら、まず何もまともに見ることはできないと思った方がいい。どのパフォーマーがどの演技ポイントに何時に出演するか、事前にちゃんとチェックして、最低でも30分前にはその場所で待機しなくちゃいけない。それだって、引き続き見てる人もいるので、前の方で見ることができるかどうかは不確実。
根性いりまっせ。

まあ、それだけ楽しいイベントなんですけどね。
元気のある人にはおすすめですわ。参加者の国際色が豊かになってきたので、海外のすごいパフォーマーがたくさん来てたりする。

もひとつおすすめなのは、あちこちに出没する市民クラウン。
ボランティアで、市民がクラウンになっておもてなししてくれるのだ。
正直、静岡でここまでクラウンが定着するとは思わなかったなあ。
みんな、クラウンのメイクをすると別人になれるみたい。
とっても人懐っこく、面白い雰囲気で接してくれるのだ。
メイクをとったらシャイな人が多いんだろうな。私の知り合いのクラウンも、素顔はとてもシャイ。でもクラウンになると人が変わったみたいになる。
クラウンと目が合うと、10年来のなかよしみたいににっこり笑って手を振ってくれる。
ちょっとおどけたポーズをとってくれたり。
人気のパフォーマーの演技を見そこねちゃったら、街中をうろうろしてるクラウンと触れ合うのもいいかもね。
このクラウンはさすがに初期のころにはいなかった。こういうのが定着したっていうのが、このイベントの成熟度を示しているような気がする。


もしこのブログを読んでる人で、大道芸ワールドカップに行く人がいたら。
うまいこと前の方の場所を確保できたら、恥ずかしがらずに座ってほしい。
ちょっと後ろになっちゃったら、中腰になるとか。子どもがいたら前の方に送り出してやるとか、後ろで見ようとしてる人たちのこともちょっと考えてくれるといいな。
大道芸は、「大道」っていうくらいだから、道端でやってるものなんだよ。
だから、観客と同じ高さに立ってる。
それを立ったまま取り囲んでしまったら、壁になってしまうでしょ。
ちょっと座ってくれたらいいのに、とどれだけ思ったことか。
スタッフが声をかけても知らん顔する人もいるからねえ。
お互い、譲り合って、一緒に楽しめるといいね。
と、これは、テレビでの鑑賞を決め込んでいる私の祈り。