あおによし、鹿はなし・前編 | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

昨日の中途半端なクイズ(笑)の答えから。

$10月の蝉-贔屓


これはいったいな~んだ?という問題でした。

答えは「贔屓」

中国の伝説上の生き物なんだそうです。龍が産んだ9つの神獣竜生九子のひとつなのだとか。
重いものを背負うのが好き、という、徳川家康もびっくりの性質を持つ生き物で、そのため、たいていは石柱や石碑の土台になってることが多いんですって。

玄奘三蔵院伽藍へ入る入り口の門のところにいました。
最初、「亀?」と思ったんですよ。んで、「なんで亀が石碑を背負ってるんだろう」と、案内のお坊さん(衣の端っこが写ってますね)にお尋ねしたら、「これ、亀じゃないんですよ」とおっしゃるわけです。
近づいてみたら、確かに亀じゃない。だって耳がありますもん。
そこで教えていただいたのでした。
ついでに、「贔屓の引き倒し」という言葉の語源も教えていただきました。いや~、知らなかったっすよ、そんな深い意味があったとは。
まことに、寺とは学問所なんですねえ。


さて。
秋の薬師寺参り日帰り弾丸ツアーのお話でございます。
最初に結論的な感想を言っておくならば、これは非常に有意義かつ心躍る、忘れがたい楽しい旅であった、ということにつきます。
いろんな御縁や偶然が重なった結果もたらされたものであることは、感謝してもしきれないくらいなのでございます。
お寺へ行ったあとなので、多少抹香臭い語調になるのはお許しください。影響を受けやすいもんですから(笑)


かつて奈良に住んでいたことがあったにも関わらず、薬師寺へ訪れたのはなんと今回が初めてでした。これもまたさまざまな縁の結果なのですが。
現在、薬師寺では東塔の修復作業が行われており、そのために、党のてっぺんについております相輪や水煙が地上に降りてきています。(「東塔水煙降臨展~11月30日)
それを見に行こうと思い立ったのが9月の末のこと。
最初はいつものように一人で行くつもりでしたが、ふと、以前薬師寺にお勤めしていたことがあるというママ友さんに話して見たところ、一気に話が広がりまして、総勢7人のツアーが出来上がったわけです。
実を言えば、行くまではほんのちょっと憂鬱でした。団体行動が苦手な私。勝手気ままに動きまわることができなくなるのではないかと心配になったのです。
その心配は杞憂に終わりましたけどね。行ってみたらなんのことはない、とても気楽で楽しくて、そして一人だったら絶対経験できなかったようなことがたくさんできたのです。

新幹線でまずは京都へ向かいました。
新幹線は10年ぶりとか、自分だけで出かけたのは独身以来だ、という人がほとんどでした。みんなふだんはまじめに家庭の主婦をやってるんですよね。
車窓からの景色を楽しむつもりが、とにかくおしゃべりの花が咲き、気がついたら京都、というありさま。女にはおしゃべりがいちばんの娯楽なのであります。

$10月の蝉-せんとくん
近鉄奈良線ホームでせんとくんがお出迎え。


$10月の蝉-近鉄特急
















そして、近鉄特急です。テンションあがりましたアップ














京都から30分。あっという間に西ノ京駅に到着しました。
同じ時に、反対側ホームにこんな電車が入ってきました。

$10月の蝉-かぎろひ
「かぎろひ」という名前がついている法話列車なんだそうです。名古屋から、車内で法話を聞きながら薬師寺まで来るという特別列車なんですって。この電車で法話をなさっていたお坊さんがあとで私達の案内をしてくださいました。







ともかく腹ごしらえが先ということで、お寺の横にあるレストランへ。
「AMRIT」というイタリアンレストランです。
お料理はイタリアンですが、外観はとてもしっとりした和風テイスト。

$10月の蝉-レストラン


ほんのり頬を染めたような紅葉が窓から見えるレストランで、地の野菜を使ったサラダやパスタのコースを堪能。
みんな、せっかくだからと、「季節のカクテル(ノンアルコール)」を頼んだり、私はデザートまで注文してしまいました。
クリームチーズとクランベリーのシャーベットだったかな。まあこれが絶品。
おしゃべりの花も咲きまくり、楽しい食事となりました。
ちなみに「せっかくだから」というのは静岡県人気質なんだそうですよ。今回の旅でも「せっかくだから」が随所で炸裂しました(笑)



そしてようやくお寺へ。

薬師寺というのはほんとに広い敷地なんですね。まあ、昔の大学みたいなもんだから、当然といえば当然なんですけど。
東塔は修復中ということで、こんな姿。

$10月の蝉-修復中


大都会のビルか、レオパレスか、という感じですが、ちょっとしゃれたシートじゃないですか?

西塔は修復されたものなので、とても色鮮やかだったんですが、すみません、逆光になってしまったのでちょっとわかりづらいかも。



$10月の蝉-西塔


唐風とでもいうんでしょうか、朱色、赤、白、緑、そして金の色合いが大変賑やかで美しい。
他の建物もそうでしたが、朱色が使われているととても派手な感じがしますね。
通常仏教やらお寺やらに持っているイメージがちょっと覆されます。
平安の奈良の空気が、一瞬通り過ぎていくような。

南門から入りますと、正面に金堂。
$10月の蝉-金堂


これは龍宮造りという様式だそうです。上の閣の正面にはなんと大きなしめ縄が。
案内してくださったお坊さんがおっしゃってましたが、薬師寺のお坊さん方は神様にも手を合わせられるそうです。神仏混交なんですね。薬師寺のすぐ脇にも八幡宮があって、まずはそこにお参りしてから薬師寺へ入るように、という立て札もありました。

金堂の中には、大変美しい仏像が祀られています。
薬師三尊像。
お坊さんが薬師如来の正式名称を教えて下さいました。リピートアフターミー的な方法で。
「とうほう」「とうほう」「じょうるりじょうど」「じょうるりじょうど」「やくし」「やくし」「るりこうにょらい」「るりこうにょらい」
「では最初からどうぞ」「とうほう……」全然覚えてなかった(笑)
このあと、漢字でもう一度覚えました。
「東方浄瑠璃浄土薬師瑠璃光如来」ですね。
お坊さん曰く、両隣の日光菩薩と月光菩薩は、日勤担当と夜勤担当の看護師だとか(笑)
大変覚えやすい覚え方ですわ。

薬師如来像の台座はとても興味深いものでした。
正面から見た時も、台座の下の方にちらっとなにやら怪しげな彫り物が見えたのです。
後ろへ回ると、壁が開けられていてちゃんと見えるようになっていました。
ギリシャ、ペルシャ、イラン、中国だったかな。
ギリシャはぶどう、ペルシャは幾何学模様、イランと中国は想像上の生き物たち。
ありがたそうな仏像とのミスマッチが不思議だったのですが、お坊さん曰く、「当時流行っていたいろんな模様を彫り込んだのですよ」と。つまり、当時のとんがったデザインだった、ということみたいです。ふっと、得意げな職人たちの顔が見えたような気がしました。

金堂を抜けると、目の前には大講堂が構えていました。

$10月の蝉-大講堂


ここは、要するに学僧の勉強の場。大学の大教室みたいなものなんですね。
中には弥勒三尊像が安置されており、まあ絢爛豪華な内装でありました。お花がいっぱい描いてあって、朱色の格子が目に鮮やか。ハデハデしくって、とても素敵でした。
仏足石、仏足石歌碑も安置され、さらには、お釈迦様の十大弟子像が祀られていました。
お坊さんもおっしゃってましたが、キリスト教での使徒の名前はわりと有名なのに、お釈迦様の弟子の名前は知られてないんですね。私もほとんど知りません。
平成になってから中村真也さんという方が寄贈されたお弟子さんたちの像。みんなあばら骨が浮き上がって痩せたおじさんばかりでした。
宗教と飽食って両立しないものなんでしょうね。まあ、そうですわな。飽食、肥満って要するに欲望の権化みたいなもんですから。



大講堂を出た後は、玄奘三蔵院へ向かいました。
冒頭の写真はその時撮ったもの。
三蔵法師のお話と写経、そして肝心の「水煙降臨展」のお話は、後編ですることにしましょう。

                      (つづく)