「ポテチ」ネタバレ感想 | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

タイトルにあげとけば、言い訳になるかしら(笑)

映画の公開は5月だったのに、我が町のシネコンへ回ってきたのはつい先日。
なので、若干盛り上がりに欠ける公開ではあったわけですが。

今日の午前中に観に行ったら、観客は私を含めて4人でしたガーン
空いてるのが好きだからいいんだけど、いっそ私一人ならもっと思い切り笑ったり泣いたりできてよかったかも。

「ポテチ」が映画化されると聞いた時に、すぐさま読み返しました。実を言うとそのときまで内容をすっかり忘れてしまっていたから。
「ポテチ? どんな話だっけ?」と思って読み返し、「あ~~、なるほどね~」と改めて感心していました。
そうか、ポテチはそういう意味だったのか、と。今村くんはだからここで泣くのね、と非常に印象深かったわけです。
そこを映画ではどう表現するんだろうか、と楽しみにしていたのでした。

ここは予告編でも使われてましたね。濱田岳くんが赤ちゃんみたいな泣き顔を見せてくれてます。


1時間ちょっとの短い映画なんですが、とても素晴らしい作品でした。
ただ、見ている間じゅうずっと思っていたのは、「これは原作を知っている人向けだよなあ」ということ。
私は原作を読み返していて内容を知っていますから、ネタバレどころの騒ぎじゃないんですけど、まったく話を知らない人がこの映画を見たら、どう思うんだろうなあとちょっと心配になりました。
マニアじゃない人は見に来ないタイプの映画なのかしら。
でも、ちょっとネットで感想を探してみると案の定「空き巣なのになんでのんびり部屋にいるの?」「てか空き巣が生業ってどうなの」という感想がちらほら。
あるいは登場人物の性格設定が非現実的という批評もありました。
うん。伊坂幸太郎の作品を知らない人が見たら、そうとう変な設定だと思います。
でも、小説世界を知ってると、これはこういうもんなんだって最初っから受け入れてしまう。そのあたりが、どうなのかしら、と余計な心配をしてしまいました。

そして、内容を知っているからこそ、母親の弓子さんと若葉ちゃんの会話にドキドキするし、ポテチを食べながら泣いている岳ちゃんを見るともらい泣きしてしまうんです。尾崎に対する今村の複雑な心境も想像できるし。

でももし原作を知らないでこの映画を見たとしたら、そういうことがわかるのかなあと思ったんです。つまり、知らなかったらわかんないんじゃないの?って思ったということです。

パンフレットには「家族や恋人といった大切な人を想う気持ち、そして目に見えないけれど確かに存在する強い絆を浮かびあがらせていく」と書いてあります。
そこが私にはわからなかったんですよねえ。
誰の、どんな絆? そういう重たいしがらみを感じさせないのが伊坂作品だと思っていたんですが、もしかしたら、ちゃんとそういうものがあるんでしょうか。

私がこの映画から感じたのは、今村の切なさだけでした。
尾崎という特別な存在を知って気にかけているのは今村だけ。事実を知っているのも今村だけです。そして彼はそのことを母親に打ち明けるつもりはないのです。
そのあたりの機微が、小説では丁寧に描かれているので、「まあそういうふうに思う人もいるかもね」と納得できるんですけど、それを知らないで映画だけ見たら、ただの「変な人」で終わってしまいそうな気がして、なんだか落ち着かない気持ちになってしまいました。

まあ、変な人っちゃあ変な人なんですけどね。すべての登場人物が(笑)。
伊坂さんご本人はきわめて当たり前のように書いているんですけど、でもやっぱりちょっと現実から浮いてる感じがします。
黒澤がしきりに「自分は人の心がわからない」と言うんですけど、他の人もあんまりわかってるようには見えない(笑)。


今村という人物を濱田岳くんが演じることによって、原作以上の意味合いが生まれたような気がします。彼のあの風貌で、言い方で、存在感で、今村を演じているのを見ると、もうそれだけで切なくて胸を打たれてしまうんですよねえ。
飛び降りようとする若葉を説得するシーンも、尾崎のために怒り狂うシーンも、愛おしくて切なくて涙が止まりませんでした。最初っから泣いてたというありさまです(/ω\)
ほんとに、岳ちゃんはいい役者だと思いますわ。若いころのロビン・ウィリアムズにそっくり。若いころの火野正平にそっくり。というのは私だけが思ってることですけども(笑)

中村監督との掛け合いのシーンは大変ユーモラスでした。
もし家でDVDで見てたら大爆笑間違いなし。
シーンとした劇場でしたので、必死でこらえてましたけどね。
ああいう遊びも、なにか「常連さん向け」という感じがしました。

仙台の人たちがたくさん協力してくれて完成した映画だそうですが、たぶんそれは内輪の話です。見ている方にはあまり関係ない話ではあります。
映画に関するエピソードとしては心あたたまるものではありますけどね。
仙台ロケということでしたので、「ゴールデンスランバー」で出てきた公園やデパートなどが映っていて、ちょっとしたつながりを感じました。
でも、そういうのって、「絆」とかそういう類のことなんでしょうかね。そのあたりが私にはわからなくて、まるで「人の心がわからない」黒澤みたいだなと思いました。
小説を読んでいても思うんですけど、私には黒澤のいうことがとてもよくわかるんです。何も変なこと言ってないし難しいことも言ってない、むしろ当たり前のことを言ってるだけだと思ってしまうんですが、でも彼はそういう自分のことを「人の心がわからない」人間だと判断しているんですよね。ということは、彼の言い分がもっともだと思う私もまた、「人の心がわからない」人間だということになるのでしょう。実際よくわかんないことも多いですし。

そういえば、竹内結子さんが3秒だけエキストラ出演しているということでしたよね。すっかり忘れてましたが、たぶん、映画の最初の方で、中村監督の後ろを通り過ぎた女性ではないか、と思います。全然注意してなかった~~。


なんだかわからないけど、ものすごく泣いてしまって、混乱したまま感想を書いてしまいました。すごく泣いたけど、それは岳ちゃんが演じた今村が切なすぎたからであって、「絆の温かさ」とか「大切な人を思う気持ち」に泣いたわけじゃないのです。無邪気で、ある意味無垢な今村くんは、ただそこにいるだけで泣けてきてしまう存在なのでした。

「しお味」のコンソメもおいしいよね。