ドラマ「南城宴」
第7集 前編
<第7集 前編>
小強子は夜中になってようやく千羽衛に帰ってきた。眠れずにいた晏長昀に叱られる。正直に、剣術を学ぶのに夢中になっていたと弁解した。
「皇上から言い出したのか?」
「そうですよ。絶対に晏統領に勝てる技なんだって」
晏長昀に勝てる剣術とは何だろう。趙沅は何を教え込んだのだろう。
試験の当日、趙沅が千羽衛の訓練場にあらわれた。趙沅、隊員たちが見守るなか、闘技場で小強子の試験が始まる。
特訓は十分通用した。試験の中盤にさしかかり、小強子は趙沅に教わった秘技をくり出す。高く飛び上がった小強子は、剣の切っ先を下にして闘技場に降り立った。そして剣を投げる。晏長昀の周囲を回転しながら飛んだ剣は、最後に彼の右胸を切り裂いた。
「老大!!」
隊員たちが駆け寄る。
「わ、私、太医を呼んでくる!!」
晏長昀が避けることを想定していた小強子は太医署へ飛んで行った。
呉承に支えられ、晏長昀は自室に戻った。ついてきた趙沅が手当てしてやると言って晏長昀の襟元を広げる。切られた傷は思ったより深かったが、それ以外に胸元に傷は無かった。
実は小強子が教わった剣法は、幼い頃に趙沅が秦琰に学んだ必殺技だった。落英剣法のひとつ、九英刺という技だが、これは秦家の者でしか破ることは出来ない秘技だった。
かつて趙沅が秦琰から学んだ際、誤って彼の右胸を傷付けたことがある。趙沅はその傷跡を確かめたのだ。が、彼に傷跡は無かった。
小強子が曲太医を連れてきた。責任を感じる小強子は世話を任せてくれと言って傷薬を受け取る。だが手当てできず、薬を呉承に押し付けて出て行ってしまった。
「…老大、小強子に負けるなんて、どうしたんですか?」
「皇上が小強子へ故意に九英剣法を教えたのだ」
趙沅は彼が秦琰ではないかと疑っている。だから負けるしか選択肢は無かったのだ。
晏長昀は傷の上部に張った膏薬を取る。下から幼少時に負った古傷があらわれた。彼は趙沅が小強子に剣法を教えていると聞いた時から、この事態を予測していたのだ。
「皇上、あれからもう十五年もたちました」
「いや、朕のこの手で宣旨に玉璽を押したのだ」
「あれは仕方なかったのです。琰哥は…」
”琰哥”が禁句であったことに気づき、馮公公は趙沅の足もとにひれ伏した。
「構わん、気にするな。どちらにせよ朕は彼に顔向けできない」
手当てを終えた呉承が外へ出てきた。戸口で待っていた小強子は急いで室内へ入り、晏長昀に平謝りした。
「武芸をたしなむ者に生傷は絶えんものだ。気にするな」
小強子を利用した晏長昀は彼女を非難できる立場にない。しかし罪の意識の消えない小強子は、傷が治っても世話をさせてくれと懇願した。
あれから老大は心ここにあらずの状態だが、どうしたのだろう。もしや小強子のせいで心に傷を負ったのか?
呉承がそう思ってしまうほど、このところの晏長昀は精彩を欠いていた。
そんな晏長昀のところへ蕭蘅がやってきた。侍女の雪茹は彼を怖がったが、どうしても小強子を貼身太監に迎えたい蕭蘅が強気に出たのである。
「負傷したと聞き及びましたので、自ら参りましたの」
蕭蘅は皇上も了承済みだからと言い、本題に入った。
千羽衛を追い出された小強子は、貼身太監として蕭蘅に仕えることになった。
「鳳儀宮へ来てもらったのは、教えてもらいたいことがあったからよ」
「この奴婢めが高貴で博識な娘娘に教授するなど、おこがましゅうございます」
小強子は歯が浮くようなお世辞を並べた。だが蕭蘅は言葉どおり素直に受け取り、悪い気はしない。
蕭蘅は、どうやったら趙沅の寵愛を得ることが出来るのか、その方法を百個書けと命じた。しかもひと晩で、だ。
「図解もたくさんお願いね」
「はあ…」
皇后命令に小強子は逆らえなかった。
<第7集後編に続く>