ドラマ「難尋」
第22集
<第22集>
墨公公が宮中で惨殺された。
命の危機を感じた鳳慶は、日が暮れると同時に永照宮を脱出した。
包帯を巻いた兎のランタンを横に置き、石榴は知子医館が閉まるのを待った。となりで昔旧が同じように縁側に座って足をブラブラさせている。
「このランタン、きみの母さまに似て凶悪そうだな」
「母さまの悪口を言わないで!」
「はいはい。それじゃあ、母さまのために綺麗なランタンを買いに行こうか?」
「行く!」
昔旧は石榴を抱き上げた。そこへ石罌がやってくる。昔旧は彼女の手を掴み、一緒に花灯祭りへと出掛けた。
昔旧がお金にあかせて石榴の欲しがるランタンを買い求める。あっという間に昔旧と石罌のランタンを持つ手はいっぱいになった。
当の石榴は疲れたのか、抱かれている昔旧の肩に頭を預けてすやすや眠っている。
通りの真ん中で赫連曦と鳳鳶に出くわした。可愛らしい兎のランタンを赫連曦が持っていたので、大の男がと行き交う人々から奇異の視線で見られるが、彼は全く気にしていない様子だ。
人ごみのなか、談笑していた鳳鳶はふと後ろを振り返った。一瞬、平民姿の鳳慶が見えた。
「陛下がいるわ!」
「永照王が?」
ふたりの男に尾行されているようで、路地に入っていく。
赫連曦は知子医館へ石罌と石榴を送るよう昔旧に頼み、自身と鳳鳶はあとを追った。
尾行は鳳垠の命令を受けた死士だった。鳳慶には護衛がひとりついていたのだが、あっけなく殺される。
ひと気のない路地の突き当りに追い込まれた鳳慶は、迫る白刃に身をすくめた。
間一髪、追いついた赫連曦が死士を斬り捨てた。
「陛下!!」
息を切らせて鳳鳶が駆けてくる。
「姑姑! やっぱり姑姑の行ったとおり、父が帰ってきたよ!」
「鳳垠が!?」
とりあえず身の危険を避けるため、知子医館へ隠れなければ。
その時、まるで瞬間移動したかのごとく鳳垠があらわれた。
「阿慶、父の敵とつるむとは、どういうことかな?」
「鳳垠、息子の命も奪うつもり!?」
「ああ妹よ、我らの父上から教わったことがあるぞ。王族の父と息子は無情だってことだ」
赫連曦が両者のあいだに入った。鳳垠、赫連曦が樹心の剣を出現する。
ふたり同時に打ち合った。返す刃で赫連曦は鳳垠の左腕をかすめ斬る。
思わぬところから悲鳴が上がった。
「姑姑、腕が…!」
鳳垠を斬ったはずなのに、鳳鳶の左腕に切り傷が出来ていた。
鳳慶の声にふり返った赫連曦へ、鳳垠が襲い掛かる。赫連曦が剣を横に薙ぎ、その切っ先が鳳垠の右腕を斬った。
うっと呻いて鳳鳶が顔をしかめる。彼女の右腕に、またも傷が出来た。
なぜ鳳垠と鳳鳶の怪我が同調してしまうのか。
原因は樹心の発動にあった。ふたりは母違いとはいえ兄弟だ。そのふたりの血が樹心に掛かってしまったのだ。
理由を知った鳳垠は赫連曦を挑発する。
「私を殺したら、鳳鳶も死ぬぞ!」
私を殺せなければ霖川の民に顔向けできまい、と高笑いする。
「阿曦、私に構わず斬って!!」
出来ない。赫連曦は構えを解いた。
突然、昔旧が路地に飛び込んできた。愛刀二振りを抜く。
「やめろ、こいつを殺したら鳳鳶が死んでしまう!」
昔旧の二振りを赫連曦が剣で受け止める。
赫連曦の背後が無防備になった。その瞬間をついて、鳳垠が斬りつける。
「昔旧、ふたりを連れて逃げろ!」
「阿曦!!」
赫連曦が鳳垠を牽制しているあいだに、路地の突き当りにいた鳳鳶と鳳慶を昔旧が先導する。
ふたりの脇をすり抜けようとした時、鳳鳶が動いた。昔旧の短刀を奪った鳳鳶が、鳳垠の背中を袈裟懸けに斬った。
「鳳鳶!!」
「阿鳶!!」
斬られた鳳垠は膝をつき、同等の傷を負った鳳鳶を赫連曦が支える。
「阿曦が殺せなくても、私が殺してやる!」
鳳鳶を抱きかかえた赫連曦が樹心の力を使ってその場から消える。昔旧も鳳慶の腕を掴んで逃げた。
唸りながら立ち上がった鳳垠は血で濡れた左手を眺める。そしてその血を舐めた。
「ふふふ、私を殺せる者などこの世にはいない!」
鳳垠は天を仰いで呵呵大笑した。
雪が降り出した。
知子医館へ戻った赫連曦は、青白い顔でぐったりしている鳳鳶の治療を手伝った。赫連曦が鳳鳶を支え、石罌が背中の傷に薬を塗る。痛みのあまり鳳鳶が絶叫し、赫連曦の手を握りしめて彼の首を噛んだ。
昔旧が鳳慶を連れて医館に戻ってきた時には、鳳鳶の傷の処置は終わっていた。
石罌は鳳慶のために部屋を用意する。昔旧は自室の前の階段に座り、ちらちら舞う雪を眺めながら物思いにふけった。
しばらくして石罌がやってきた。鳳鳶の無事を伝えるだけだったが、思いついて彼のとなりに座る。
「表姐の身に何があったのか、教えてくれる?」
やるせないため息をついた昔旧は、彼の知る限りの過去を話した。
「…恋は色に出るものだが、もしかしてきみは赫連曦を好きなのか?」
「出会った頃は思いもしなかったんだけれどね」
赫連曦が初めて知子医館にあらわれたのは雷雨の夜だった。まるで亡霊のように戸口に立った赫連曦は、鳳鳶はどこだと石罌に迫る。
それまですやすや眠っていた赤ん坊が泣き出した。
「その子はどこから来た?」
それからというもの、数日おきに知子医館の中庭に風呂敷包みが置かれるようになった。荷物の中身は主に産着や赤ん坊のお守りだ。
ある夜、石罌は中庭に立つ青年に気付いた。その青年が赫連曦だった。
<第23集に続く>