ドラマ「難尋」 第15集 | 江湖笑 II

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ドラマ「難尋」

 

第15集

 

 

 

 

 

 

 

<15>

 

 

 赫連曦は、疲労困憊した様子で南枝苑に戻ってきた。

 震える手で鳳鳶に簪を渡す。簪には石榴の果実を模した飾りが付いていた。

「もうすぐ誕生日だろう? 神樹の樹脂で作ったんだ」

 私はあなたを殺そうとしたのに。

 鳳鳶は涙がこぼれた。

 赫連曦がむせび泣く鳳鳶の髪に簪を挿す。

「綺麗だ…」

 耐えられなくなった鳳鳶は号泣し、赫連曦に抱きついた。

「ごめんなさい、ごめんなさい!

 赫連曦は優しく鳳鳶を抱いてやる。

 ふ、と赫連曦の体から力が抜けた。彼は鳳鳶にもたれかかって気を失っていた。

「阿曦!!

 

 

 赫連曦が倒れた理由は、”結葉式”の疲労が原因だった。眠れば回復する、と椿婆婆が鳳鳶に説明する。

「椿婆婆も、私の”連理入骨式”に反対なの?

 赫連曦が反対する理由は分かっている。けれども、彼が霖川と鳳鳶を守りたいように、鳳鳶も霖川と彼を守りたかった。

「赫連曦には内緒にしてください」

「分かりました」

 

 

 しばらく穏やかな日々が続いた。

 そんなある日、永照から鳳鳶宛てに書簡が届く。差出人は母だ。国王の病状が悪化して、赫連曦とふたりで顔を見せてほしいと書かれている。

 読んだ鳳鳶は、動揺のあまり手元に置いていた簪を落として割ってしまった。

 

 

「やはり、私も一緒に行こう」

「このところ霖川の部族間の問題でよく眠れていないでしょう? それに、もうじき雨季が始まるわ」

 それまでに山道の整備もしなくてはならない。赫連曦にはやるべき仕事が山積していた。

 赫連曦は護身用にと、短刀を鳳鳶に差し出した。竹林に埋めた、あの短剣だ。申し訳の無さに、鳳鳶は涙した。

「石榴の花が咲くころ、戻って来ると約束してくれ」

「約束するわ」

 鳳鳶はうなずいた。

 

 

 鳳鳶は、琴桑と護衛ふたりを連れて霖川を発つことになった。桟橋まで赫連曦と銀翹が見送ってくれる。

 銀翹が道中の腹の足しにと点心を渡していたら、鶩青が走ってきた。椿婆婆から預かってきた、小箱に入った石榴の簪を鳳鳶に手渡す。鳳鳶は割れた簪の修理を椿婆婆に頼んでいたのだ。

 筏に乗り込んだ鳳鳶は、何度も赫連曦をふり返る。赫連曦は見えなくなるまで彼女を見送った。

 

 

 永照の京城は荒廃していた。

 王宮の門前で馬車を降りた鳳鳶は、家人の墓参りに行っておいでと琴桑を促した。

 しぶしぶ承知した琴桑が、帰る時は絶対に知らせてくれと念を押して去っていく。

 覚悟を決めて、鳳鳶は城門をくぐった。

 

 

 衛兵の姿が見えない。宮中は静まり返っていた。

 不意に護衛のひとりが背後から斬られた。うしろで剣を構えていたのは雲暮だ。

「雲暮!?

「久しぶりだな、妹よ」

 大牢に座しているはずの鳳垠があらわれた。

 

 

 衛兵に腕を取られ、鳳鳶は大殿に引きずり込まれた。

「父王に何かしたの!?

「父王? ああ、知らないんだな。我らの父王は病死したよ。今は私の息子、鳳慶が国王だ」

 心優しい鳳慶が父親を大牢から出したのだと、半笑いで話す。

 間違いなく鳳垠の謀殺だ。彼は昔から父王を憎んでいた。

 妹の鳳鳶と違い、鳳垠は父王が酔って手を付けた舞姫の子である。それゆえに彼は自分の出自を呪っていた。

 しかも、父王は出来の良い鳳鳶ばかりを可愛がっているように見えたと言う。ひょっとしたら父王の言葉の端々から、彼は感じるものがあったのかもしれない。

 それが証拠に、父王は彼の頭の上を飛び越して孫の鳳慶に王位を譲ったと主張する。

「十代の子供に何が出来るというのだ!

 鳳垠の怒りの根源を知った鳳鳶は、しかし反論できなかった。

「私が悪かったのよ。私はどうなってもいいから、従者だけは霖川に帰してやって」

「妹よ、早く言ってくれなきゃ」

 雲暮が大きな木箱を鳳鳶の前に置く。そこにはバラバラに切断された護衛の手足が入っていた。

 

 

 あまりに大きな衝撃を受けて気を失った鳳鳶は、寝台の上で目を覚ました。

 目覚めを待っていた花娥が、彼女の妊娠を告げる。三か月だったが、鳳鳶は気が付いていなかった。

「赫連曦が死んで霖川のあの木が枯れたら、伝説の樹心があらわれる。公主、あなたの敬愛する父王が書いた書にあったのよ」

 鳳垠の目的は樹心だったのか。

 花娥が鳳鳶に堕胎薬を差し出した。とっさに機転を利かせた鳳鳶は、赫連曦が死ねば樹心を扱える血統が途絶えてしまうと言い、堕胎薬を拒否する。真偽の程が分からない花娥は、堕胎薬を飲ませるわけにはいかなかった。

「そうだ、言い忘れていたけれど、もう烏韭には助けを求められないわよ」

 鳳鳶が頼りにしていた烏韭将軍は、半月前に戦死したという。

 

 

 鳳垠は樹心を得んがために霖川を滅ぼすつもりだ。彼をあの地に入れてはならない。

 鳳鳶は左の袖をまくった。腕の内側に緑の木の葉の模様が貼り付いている。これが霖川へ入る鍵だ。ちなみに、烏韭将軍の鍵は三回限定だった。

 この鍵を悪用されてなるものか。

 鳳鳶は針を取り出すと、その先端をろうそくの火で炙った。布を噛み、針を朱に浸す。

 鳳鳶は木の葉の上に朱の刺青を施した。

 

 

 鳳鳶が霖川を離れて四か月近くがたった。雨季に入った霖川は、長雨が続いている。

 石榴の花は咲いたが、鳳鳶からの音沙汰は無かった。

 帰って来ない彼女を、赫連曦は待ち続ける。

 

 

 

 

 

 

<16集に続く>