ドラマ「与鳳飛」
第17集
<第17集>
南娰から口づけられた蒼寒聿は、あわてて彼女から離れた。
「ひ、酷いじゃないか!」
「自分の駙馬に口づけて、何が悪いのよ」
出会って間もないというのに何故こんな真似が出来るのか、記憶の無い蒼寒聿は理解に苦しむ。
「過去、いろいろあったのに、感覚も残っていないの?」
不意に、蒼寒聿の脳裏にふたりで過ごした日々が蘇る。
「娰児…!?」
「思い出した!?」
かつてと同じように呼ばれた南娰は、蒼寒聿に抱きつく。だが、彼が思い出したのはほんのひとかけらの記憶だった。
父王を謀殺した青雲澤は西陵王となった。彼は非情さをもって西陵国の朝廷と王宮をまとめる。
不手際のあった侍女を一刀のもとに殺害したあと、何事も無かったかのように青雲澤は暗衛を呼んだ。
「進捗は?」
「似顔絵の男は東瀾国におりました」
似顔絵の男とは蒼寒聿のことだ。東瀾国に潜入する間諜からの報告では、行動を監視していた蒼寒聿は何者かによって攫われたらしい。
珍しく女皇が夜の公主府にやってきた。
「娰児、急報が届いたわ。西陵の国王が病没して大皇子の蒼雲澤があとを継いだそうよ」
しかも、大量の兵馬を東瀾国との国境に集めているという。蒼雲澤の過去を知る南娰は、前王の死に彼が関わっていることは間違いないと推察する。
「母皇、心配しなくていいわ。東瀾国の軍事力は属国の西陵より強大だし、鸞凰簪がきっと守ってくれるわ」
蒼寒聿と南娰にとって大事な鸞凰簪は、東瀾国の聖物だった。
「もう東瀾をあなたに任せても安心ね。ただし、男性を見る目は疑問符が付くけれど」
「私は本当に蒼寒聿のことが好きなの。蒼寒聿がたとえ平民でも、私の駙馬は彼以外考えられないわ」
女皇は娘の一途な思いを知ってうなずいた。
南娰の本心を知ったのは女皇だけではなかった。窓の外から母娘の会話を盗み聞きする蒼寒聿は、南娰の真剣な想いを感じた。
居室へ戻り、寝台に横になっても寝付けない。柔らかかった南娰の唇を思い出してしまう。
目を閉じてもまぶたに彼女の姿が浮かんできて、蒼寒聿は眠れなかった。
それからというもの、蒼寒聿は真面目に訓練に取り組んだ。そのぶん成果となってあらわれる。
「私の期待通りだわ! ね、まだ駙馬になりたくない?」
「実は、その…私は皇族の足は引っ張りたくないんだ。けれども、芽生えた感情は押さえられない。君南娰、私はきみを好きになったようだ」
突然の告白に、ぱっと南娰の表情が明るくなった。
「蒼寒聿、やっぱり私たちは運命の糸で結ばれているのね!」
「やっとこの時が来た」
山洞で指を折って算じた墨華は、にやりと笑う。
同じ頃、蒼寒聿の頑張りを認めた女皇は、ふたりの結婚を許可した。
「何よりも娰児が望んでいるのだもの。婚礼は来月十五日、娰児の誕生会を兼ねて祝いましょう」
礼部が何年もかけて準備した式がやっと日の目を見る、と女皇は笑った。
紅い婚礼服を試着した南娰は、嬉しくてその場でくるくる回った。スカートが広がる。
「母さま、綺麗だわ」
また出た。あの童女だ。
「どこから出て来たの!?」
「私は…」
「ああ、やめて。問答する気は無いわ」
ちょっと待て。この子が出てきた時はいつも蒼寒聿の身に何かが起こる。
「今回は何が起こるの?」
「小鳳凰の話を聞いてくれないなら、教えてあげない!」
自分のことを小鳳凰と呼んだ童女は、ぷっとふくれた。
「父さまと母さまは仲良くなれたから、小鳳凰のことなんてどうでもいいんだ!」
父さま、母さま? この子が小鳳凰?
もしかして。
現れてはならない者が現れる時、現れるべき者は消える。南娰は、東華の言葉を思い出した。
「小鳳凰、もしかして…」
しかし、もう小鳳凰の姿は消えていた。
<第18集に続く>