ドラマ「難尋」 第10集 | 江湖笑 II

江湖笑 II

中国ドラマ・小説の各話あらすじです。完全ネタバレしております。
更新は
月曜~木曜:ドラマ「南城宴」(前後編)
金曜~土曜:短劇「難尋」

ドラマ「難尋」

 

第10集

 

 

 

 

 

 

 

<10>

 

 

 四年前、永照国国王の長子、鳳垠による政変は、周辺部族が気づかぬうちに進んでいた。鳳垠は父母を軟禁し、妹の鳳鳶を婚約者の霖川少主、赫連曦に嫁がせる。

 鳳鳶は兄からある任務を課された。赫連曦の殺害である。両親の命を盾に、彼女は殺害を強要されたのだ。

 鳳垠の配下である女官の花娥を監視役に付けられた鳳鳶は、霖川から派遣された椿婆婆の案内で秘境の地へと向かった。見送りは鳳垠と母の皇后だけである。鳳垠は父王の不在を病気と偽った。

 ところで、部族の者の案内が無ければ、外部の人間が霖川に入ることは出来ない。当然、鳳鳶は初めて霖川の地を踏んだ。

「少主は連理樹の下でお待ちです」

 河を行く筏が小さな桟橋に到着した頃、雨が降り出した。傘を差し掛けられた鳳鳶は、無意識に椿婆婆に礼を言った。

 だが、彼女の頭上に傘を差したのは、初めて見る顔の青年だった。

 青年がほほ笑む。彼が霖川少主、赫連曦だった。

 

 

 青々と茂る連理樹の下で、赫連曦と鳳鳶は部族の民から祝福されて婚礼の儀式に臨んだ。

 椿婆婆がふたりの髪をひと房ずつ取り、編んで小さな白い花を飾る。この花は純粋な愛という花言葉を持っていた。

 次に、それぞれの指から血を一滴ずつ採取し、水の中に溶かす。それをそれぞれに与えられた連理枝で順番に混ぜる。

 これで初日の儀式は終了だ。あとは床入りである。

 

 

 新居である南枝苑の母屋に、気まずい空気が漂う。赫連曦と鳳鳶は並んで寝台に腰掛けた。

 囲炉裏のそばには、連理枝を入れた箱がふたつ置かれている。この連理枝を血骨に埋めることで、連れ合いの命を自分の命に代えて救うことが出来るのである。

 婚礼の儀式の中で最も重要な部分であったが、赫連曦は彼女に強要しなかった。しかも、同衾に戸惑う鳳鳶のために、彼は寝台をも別にする。

 

 

 実は、赫連曦が鳳鳶を見たのはこれが二度目であった。

 二十年前、霖川が水害に遭い、当時の少主である赫連曦の父は東陸の諸部族に救援を求めた。その際、永照国を訪れた赫連曦の父は、当時の国王との話し合いで互いの息子と娘の縁談を決めた。

 成長した赫連曦は永照国へ行ってみたことがあった。しかし水が合わず、体調を崩して医館を訪れる。

 その時偶然、頭部を負傷した少女が担ぎ込まれた。泣き続ける少女に、付き添ってきた女性が折り紙を見せる。鳥に折った折り紙の翼をぱたぱたと羽ばたかせた。痛みを忘れた少女は、折り紙に夢中になった。

 赫連曦が彼女に見惚れていると、別の女性が医館に飛び込んできた。彼女のことを公主と呼び、王宮に戻るよう促す。

 そこで初めて、赫連曦はその女性が婚約者の鳳鳶だと知った。

 

 

 以来、赫連曦にとって鳳鳶は忘れ難い存在となった。

 念願かなって彼女を娶った翌日、彼は早朝から出かけて抱えるほどたくさんの花を摘んでくる。

 そのあいだに起きた鳳鳶は、しかし彼のように心は踊らない。花娥が早く赫連曦を殺せと圧力をかけてくるのだ。

「言われなくても、すべきことは分かっているわ」

「すべきことって、烏韭将軍に救援を求めること?

 花娥は一通の封書を出した。鳳鳶が王宮を出発する際、侍女に頼んだ密書だ。その侍女は始末されたという。

 遠方で任務に就く烏韭将軍は、まだ鳳垠の反乱を知らない。鳳鳶は辺境軍を指揮する烏韭将軍に密書で王宮の危機を知らせようとしたのだ。

「皇后の安寧は公主にかかっているのですよ」

「私が赫連曦を殺しても、部族外の人間は霖川に入れないわ」

 だから、赫連曦暗殺は無駄な行為だと鳳鳶は言う。

 赫連曦が花を抱えて南枝苑に戻って来たのは、ちょうどその時だった。彼の顔を見た花娥は、何事も無かったかのようにお辞儀をして部屋を出て行く。

 

 

 南枝苑の母屋にはたくさんの花が生けられている。これも鳳鳶に対する思いやりだ。

 赫連曦は昨夜、彼女が婚礼に使用した小さな花ですら竹の花瓶に生けたことに気づいていた。

 ふたりが話しているところへ、侍女の銀翹が朝食を運んできた。鳳鳶ひとり分だ。

 霖川では食べ物に火を通す習慣はない。だが南枝苑の食卓には粥や蒸し物、炒め物まで並んでいた。

 昨夜、鳳鳶は用意された食事に手を付けなかった。食生活の違いを知っている赫連曦が彼女を慮ってわざわざ作らせたのだ。

 赫連曦は赤い飲み物を鳳鳶に勧めた。血の酒かと思ったら、石榴のジュースだという。石榴は永照国に無い果物だ。

 ひと口飲んでみた鳳鳶の表情が一転して明るくなった。甘くて美味しい。

 だが、飲みつけているはずの赫連曦は、甘いという感覚を知らなかった。生まれつき彼の味覚は欠落していたのである。

「おかけで少食で済んでいるよ」

 そう言って、静かに笑う。

 そこへ侍衛の鶩青がやってきた。連理樹の下で、椿婆婆がふたりを待っているという。

 

 

 

 

 

 

<11集に続く>